4-3 ちくわの予言

一瞬、何を聞かれたのか分からず、僕はぽかんとした。彼女とは優里奈のことだろうか。
「うん、元気だよ」
「そう、元気ならいいんだ。じゃあ」
「うん?」
「…いや、やっぱり!」
伊織は僕の腕を引っ張ると、廊下を歩き出した。
「え、なに、遅刻しちゃうじゃ…っ」
使われていない空き教室に引っ張り込むと、伊織はカバンから自分のちくわを取り出し、僕に押し付けた。
「覗いてみて!見えるか分からないけど」
訳が分からなかった。けれど、伊織の剣幕に押されて僕はちくわの中を覗いた。

そこには、見慣れた僕の家の最寄り駅で、優里奈がホームに立っていた。電車を待っているんだろう。
朝のラッシュ時ということで、人がごった返している。ゆっくりと電車がホームに入ってくる。
 
その様子を列の先頭で見守っている優里奈。その時、列の後ろで誰かが躓いて転んだ。押される優里奈。すぐ近くには電車が…。
僕はちくわから目を離した。
「え、なに、なにこれ」
「昨日の夜、見たんだ。知らない女の子だけど、君に彼女の写真を見せてもらったことがあっただろう。似ている気がして…」
僕はケータイを取り出し、優里奈に電話をかける。

コール音がなるばかりで、留守番電話につながる。
僕はいてもたってもおれず、教室を飛び出した。
「ごめん!体調不良で休むって先生に伝えといて!」
「わかった!」
「あ、あ、あとそれから、伊織も…伊織も、気を付けて!」
「え?」
不審げな伊織を残して、僕は登校してくる人波を逆走した。
頼む、ちくわよ。予言を外してくれ。

つづく

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