4-4 ちくわの予言

自転車を漕いで、漕いで、僕は優里奈の家に向かった。インターホンを押すと、優里奈のお母さんが出た。
「優里奈さん、いらっしゃいますか?」
「学校に行きましたけど?」
不審げに答えるお母さんのこの様子だと、最悪の知らせは届いていないようだ。ということは…まだ間に合う!
 インターホン越しにお礼を述べ、今度は駅に向かって自転車を飛ばした。ほんの数分の距離がもどかしい。
頼む、追い付いてくれ。

駅前に到着すると、改札を走って通り抜ける優里奈の姿をみつけた。
「優里奈!優里奈―!」
「え、敦史くん?」
驚き立ち止まった優里奈に向かい、僕は自転車を投げ捨てて人ゴミをかきわけて叫んだ。
「待ってくれ!行かないで!」
「ごめん!遅刻寸前なの。また後で連絡するね」
優里奈はホームへと続く階段を駆け上がっていく。
僕は慌てて一駅分の切符を買うと、優里奈を追ってホームに駆け上がった。
人で溢れるホームは、ちくわで見た光景と同じだった。焦りが募る。

 優里奈、どこだ。優里奈!
 ホームの中ほどに、優里奈はいた。
「優里奈!」
 追ってきた僕に、優里奈はぎょっとした様子で振り返る。
「優里奈、ここは危ないから向こうに行こう」
 強引に列から引っ張り出そうとする僕に、優里奈は大声を上げて抵抗した。
「ちょっとなんなのよ!これに乗らなきゃ、ほんとにまずいんだから放してよ」
「それどころじゃないんだって!いいから!」
「なんなのよ訳わかんない!」
 僕がこれだけ必死なのに、優里奈は頑なにその場を動かない。
 列車が間もなく到着するアナウンスがホームに流れたその時、背後の人波が優里奈を押した。
 躓きかけた優里奈を、僕は必死で背後から抱きしめる。
 尻もちをついてホームに倒れた僕らの足先を、滑り込んできた電車の車体がわずかにかすめた。
「大丈夫!優里奈?」
「あ…大丈夫」
 一瞬の恐怖に茫然としていた優里奈は、はたと自分の胸元を見下ろした。
 僕の両手は、優里奈の胸を思い切り鷲掴んでいた。
「この変態!」
 バチン!とビンタを僕にくれて、優里奈は憤慨したまま電車に飛び乗った。
「ごめん!違うんだ!」
 無情にも閉まったドアの向こうで、優里奈は冷たい視線を投げかけている。

 去っていく彼女に言い訳したくて追いかけるが、追いつけるわけもなく。
 どう弁解しよう。許してくれるかな…。 
 不安に苛まれながら優里奈の乗った電車をホームの端で見送る。
 けれど、何事もなく彼女を電車に乗せることができたことを思い出し、ホッと安堵した。
 よかった、優里奈を守れた。

 達成感を覚えながら乗り捨てた自転車のところに戻ると、僕の自転車は違法駐車として撤去されていた。

つづく

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