1-2 不思議なちくわ

翌日、僕は十三時ちょっと前にカラオケ店の近くに行って待ち伏せをした。するとそこに現れたのは、直樹と、同じクラスの田中だった。

二人がカラオケ店に入ろうとしたとき、後ろからガラの悪い二人組が声をかけてきた。遠目から見ても震えあがっている様子がみてとれる。信じられないことに、それは、ちくわで見た映像と同じものだった。ただ僕が、田中に変わっただけのことだった。
アメイジング!
僕は逃げ出すようにその場を離れ、大急ぎで自転車で家にむかった。そして一つの仮説を立てた。

僕は、未来が予測できるちくわを手に入れた。

息を切らせて自分の部屋に戻ると、机には、ラップに包まれたちくわが二本、タオルハンカチの上で横たわっている。
僕は再び、ちくわを覗いた。するとそこには、僕が好きだった今井優里奈(いまいゆりな)が映っていた。   

小学校からの付き合いだけど、話をするようになったのは、中三の運動会の頃から。同じクラスになり、放課後の応援練習がきっかけだ。
たぶん向こうも好いていてくれているような気がしたけれど、なんとなく切り出せずに卒業してしまった。僕たちは、高校で離れ離れになってしまう。
その優里奈が、ケータイをじっとみつめている。その画面に映っていたのは、僕の名前だった。

優里奈は僕にメッセージを打とうとして…ため息をつきながら消す。でもまた何か打って…。
これは、僕のこと好きフラグかもしれない。
僕はちくわ越しに久しぶりの優里奈の顔を見て、思いつめた横顔にエールを送る。

がんばれ。なにを迷う。なんでもいいから、送ってくれたら即返すのに。
僕はじっと待った。僕から送ればいいのだけど、これだけ向こうががんばろうとしているのだから、それは邪魔しちゃいけないでしょう。

待ちに待って、待ちくたびれて昼寝して起きると、ケータイに優里奈からメッセージが届いていた。
『久しぶり!』と、げんきー?と尋ねるキャラクターのスタンプ。
たったこれだけのメッセージに、優里奈がどれだけ迷って、勇気を振り絞ったか、僕は知っている。 
感極まった僕はつい『好きだ』と打ち込んだ。普通ならありえない。

だけど、この返事を優里奈が一番待ち望んでいることを、僕は知っていた。ちくわのおかげで。

つづく

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