2、ちくわライフ、始まる

優里奈と僕は付き合うことになった。そして、今日は初めて優里奈とデート。
デートの日取りを決めて以来、ちくわの穴からは連日優里奈とのデートが失敗に終わる映像ばかりが流れ、それを元に、僕は綿密な予定をたてた。

結果、デートは大成功した。
友達としての親しさや気安さを残しつつも、気持ちが通じ合った彼氏・彼女としての一歩を踏み出せた気がする。

僕はまだ残っている優里奈の手の感触を思い出しヤニヤした。
今日の目標、「手をつなぐ」を達成できたのも、優里奈と付き合えることができたことも、すべてこの不思議なちくわのおかげだ。

不思議なちくわは、出会って一週間がたった今も、傷む様子はなくきれいなままだ。あの時の二本のうち、一本はすぐに水分をなくして縮んでしまったが、もう一つは、変わりなく様々な予測を映像としてみせてくれる。

僕はちくわを念のためラップに包んで保冷材入りのタッパーに保管していた。

ちくわのおかげで、僕はこれからの高校生活も無敵に思えた。 
そう、明日はついに入学式である。

僕の行く県立高校は県内でTOP3の偏差値を誇る進学校である。正直、受かると思っていなかった。
仲のいい友人はおらず、偏差値の高さから変人が多いとも言われている学校で、パンピーな僕が馴染めるかどうか不安だらけだったけど、ちくわがあればきっと大丈夫だ。

僕はいつのまにかケータイに届いていた優里奈からのメッセージに返信しつつ、ちくわで明日の予習を始めた。

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高校生活が開始して、三週間が過ぎた。入学式の三日後に突然行われた実力テストは、あやわ!の危機だったが、それもちくわのおかげで救われた。

前日夜の未来予測でテストのことを知り、一夜漬けで臨んだおかげで、まずまずの成績を得られた。予測があった上で、まずまずの点数なのだから、なかったらきっと赤点一直線だろう。

頭のいいクラスメイト達とも、徐々に仲良くなり始め、先日の土曜に高校になって以来初めて直樹に会ったところ「なんか頭よくなったんじゃね」と言われたので、自分では分からないが、学校に馴染んできているんだろうと思う。

そして、明日は一泊二日の親睦合宿がある。
新入学の一年生だけでキャンプをして、親睦を深め合う伝統行事らしい。
目下の僕の問題は、「ちくわを合宿に持っていくか否か」である。

1日くらいちくわがなくてもなんてことないような気がするが、僕が恐れているのは留守中の母さんの掃除だ。
僕が部屋にいないことをいいことに、きっと掃除に入るに違いない。

最近僕に彼女ができたことをなんとなく感づいている母さんは、根掘り葉掘りと普段の様子を聞いてくる。自分の知らない息子の様子を探りたくて、部屋に入ってくることは安易に想像できる。 

そんなわけで、僕は学校にもちくわを持参していた。タッパーにいれておけば弁当だと思うし、ましてやカバンから出さなければだれも気付かない。
けれども泊りとなると、カバンから出さないとしても、何かの拍子で見えてしまうかもしれない…。

しばらく逡巡した後、僕はちくわの穴を覗いた。そこには、ニヤニヤしながら僕の机の引き出しを開けている母さんの姿があった。
僕は、ちくわを合宿に持っていくことにした。

つづく



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