夏のおわり
夏が終わる。
玄関を開けると少し涼しい風がふいた。
ミサイルが夜のうちに2回も撃たれていた。
被害がなくても、こちらに向けてミサイルを
何回も撃つこと。
それは、目には見えない不安や不快を撃ち込み
確実に何かを削る行為だ。
カラスがひどく鳴いていた。カラスのその鳴き声がまた、どうしようもなくせわしなく、身体をかけめぐる。
三男が大学のある自宅へ帰って行った。
もう、あの場所へ行くことを帰ると呼ぶのだと思った。
途中、彼女と寄り道をして、それから帰るとのこと。
デートをするというから、小遣いを弾んでしまった。
まあいいか。
三男の彼女は中学からのお付き合いなのでもう4年を迎えたことになる。
お互いの大学進学で、実質距離は離れたが、仲良しの距離は変わらないようだ。
2人で熱海に行くと聞いていたが、三男が明日飛行機に乗るという日になり、LINEがきた。
メッセージが取り消しになっている。
何かあった?旅先でトラブル?胸騒ぎがして、仕事の合間に連絡する。
電話に出た三男は、「あのさ、やっぱ、埼玉寄ろうと思って。」とざわざわする喧騒をBGMにそう言った。
私の実家に、今日一晩泊めてもらってそこから帰ることにしたい。と言い出した。
当初の予定では旅先から直接、もしくは彼女のお家から空港へ向かうと話していた。
けんかでもしたの?と聞きたい気持ちを抑えて、「わかった、でも急なことだから、ちゃんと連絡してから行くんだよ。」と伝え、私も父に連絡を取る。
気難しい父が、機嫌を損ねないように丁寧に言葉を選ぶ。
LINEにはすぐに、了解と返事が来た。短いふた文字には真意が見えず、急な来訪が吉か凶かと気を揉んでいたら、その後、喜んでいることが知れる内容の文章が届き、安堵する。
親子だから気を遣う。嫁いで離れたから思いを馳せる。
三男が、ストレートを投げたことがわかる。
飛行機に乗る前にやっぱりじいと〇〇(母はあだ名で呼ばれている)には会ってから帰りたい。と言ったことが、ずきゅん。だったらしい。
孫は偉大。
三男は、義父の死去を経験し、生きているうちに、元気なうちに顔を合わせることが何より。ということを学んでいた。
母の透析をたいしたことだと思っている。そしてそれは間違いではない。
熱海旅行で、目的の観光が想定より早く終わり
彼女に相談したらしい。
じいちゃんとばあちゃんに会ってから、帰ってもいいかな。と。
彼女は、もちろん、そうした方がいいよ。と言ってくれたらしい。
お互いにそれなりに家族の話をしているのだろう。
家族について、どう考え、どんな思いを持っているのか。
それを共有して、もちろん、いいよ、そうしなよ。と言ってくれた、彼女であるたまちゃんの懐に感謝しかない。
私の両親まで大切に思ってくれてありがとうである。
両親は、自分の意思で自分達の元を訪れた孫に、肉を食わせ、ともにナイターを見て、熱海の話で盛り上がり、翌日は、三男が向こうについてから食べることに困らぬようにと、一緒に食料品の買い物に行き荷物を作ってクロネコヤマトに託してくれた。
好きなものをたくさんカゴに入れろ。父は随分と気前が良かったらしい。
夏の終わり。
三男は飛行機でまた旅立った。
自宅に着いて、かなり寂しいと笑った声が
携帯から聞こえる。
4月の時より寂しいよ。一人暮らしを知っちゃったからなあ。
おかあはね、4月の時より寂しくないよ。
おまえがさ、ちゃんと一人暮らしをできること
知っちゃったからなあ。
お気持ちありがたく頂戴するタイプです。簡単に嬉しくなって調子に乗って頑張るタイプです。お金は大切にするタイプです。