見出し画像

おじいちゃん

父から祖父の入院先の詳細情報を聞き、母から祖父は心配いらないと聞いていたけれど、やっぱりお見舞いに行くことにした。

夫に娘を見てもらい、お昼頃出発。実は一本で行けるのだ。道中はブログの下書きを書いて時間を潰した。

駅からバスが出ていると聞いていたが、昼間の時間にバスは全くなく、タクシーを使う。

以前も来たことのある病院ということが中に入ってわかり、202号室に向かう。ナースステーションで「親族です」と声をかける。「そこから中に入らないでください」とストレスの溜まっていそうな看護師さんに注意される。その後、事務員のような人が感じよく、「どうぞ~」と言ってくれた。

病室に入ると、祖父は痩せていて、腕は骨と皮のような状態だった。長く爪の伸びた手でしきりにベッドの手すりを触ってかちかちと音を鳴らしていた。ぐおー、ふごふご、という音。なんともいえない匂い。暑いようで、パジャマを胸までめくっていた。痩せたため、肋骨がよく見えていて、肋骨のあたりを手でまさぐっていた。「おじいちゃん、来たよ」と声をかけるも、返答がなく、一人でどうしてよいかわからない状態に。

少しすると手押し車を押して祖母がやってきた。慣れた様子で祖父に声をかけ、汚れものを回収し、多すぎる数のタオルを置いていた。ストローでペットボトルに入った冷たい水を飲ませようとするも、祖父は一口しか飲まない。

看護師さんが二人やってきて、治療計画書の説明をされる。祖母は「分からないから、サインして」と言われ、サインする。

机に置いておいたその飲みかけの水の入ったペットボトルを看護師さんが倒し、治療計画書はびしょ濡れに。ティッシュで乾かす。

祖母が持ってきた爪切りで長く伸びた爪を切ろうとしても、固くてうまく切れず、私にバトンタッチ。

おそるおそる左手から爪を切る。黄色くて固い。伸びすぎていて、一度に全部は切れず、何回かに分けて切る。「やすりをかけて」、と祖母に指示される。なんだか怒られながらやっている印象を受ける。母は小さい頃こうだったのかな、、と思いを巡らせながら。祖父は左右の小指の爪を長ーく伸ばしていて、「便利なんだあ!」と昔自慢してくれたのをふと思い出す。かいぐりかいぐりとっとのめ、とか。

左足、右足、右手の途中で看護師さんが血圧を測りに来る。通常よりかなり低かったようで、何度も測り直しをしていた。手で膨らませるタイプで、祖父に「やだよねえ、ちょっと測らせてくださいねー」と声をかけていて、まるで赤ちゃんへの声がけと一緒だなと思う。

低血圧のため、チューブで酸素を吸っていたのが、酸素マスクになる。チューブは鼻にすべきところを口にしていて、祖母に「だめよー」と言われていた。

処置の後、右手の爪を切る。

酸素マスクも暑いのか、祖父は取ろうとしていた。祖母が祖父の手をとって、何か言っていた。

先生がやってきて、家族の人に話を、ということで、爪切りが終わりひと段落したため、話を聞く。

内容はやはり芳しくなく、一日一日生きてたら御の字と言われる。ごはんを食べれないが、点滴もしない(=延命治療なし)という方針。

話が終わり、病室に戻り、帰ることに。

祖父に「このまま痛くないといいね、がんばってね」、と乾いた手を握り、声をかけた。

祖母が「あやめー、アイス食べて帰ろう」というので、食堂へ。「抹茶ミルクがおいしいのよー」、ということなので二つ頼むが一つしかないとのこと。祖母、譲ってくれるのかな?と思ったら、譲らなかった笑

机に座ってガツガツと抹茶ミルクアイスを食べる祖母を見て、なんかたくましいなー、と思う。

二人でタクシーで帰る。行き先を告げない祖母「?」と聞くと、「一日おきに乗ってんのよ」、とのこと。

家に帰ると祖父のものたちが、主人がいないので、さびしがっているように感じた。

キッチンでベリーのスムージーをいただく。何かをとる拍子に祖父のセカンドバッグの中身がぶちまけられ、障害者手帳、ペースメーカーの証明書、タクシーチケット、ポケットティッシュが出てきた。

ポケットティッシュをひとつ、私は自分のかばんに入れた。

母と電話し、先生から言われた病状を伝える。祖母は、私が祖父の爪を切ってあげたことをうれしそうに何度も母に伝える。

母から、「最後のおじいちゃん孝行だね」、と言われ、涙がでた。

より良い発信ができるように、体験や知識に投資させていただきます。