雪うさぎのかまくら

2013年に執筆した百合小説第3弾です。

キーワードは

・年の差

・大学生

・小学生

・冬

・死ネタあり

それでは下線より始まります

--------------------------------


「お姉ちゃん、雪うさぎ作ろう。」

妹は雪が降るたびにそんな風に誘ってきた。

私は、寒いのが苦手。

だから雪が初めて降った日に雪うさぎを作って

その他の日は寝たふりして聞き過ごした。

そんな態度をとると妹は、少し沈黙した後、一人で外に出て雪ウサギを作るのが恒例だった。

作った雪ウサギを玄関前において、また私を呼びに来る。

「お姉ちゃん、雪ウサギ作ったの。みて。」

始めは付き合いで見に行っていたけれど、そのうち飽きて寝たふりをしてやり過ごす。

そうすると妹はまたひとつ、雪ウサギを作って私を呼びに来る。

そんなやりとりを続けていくうちに、妹がどの位雪ウサギを作るのか楽しくなって、呼びに来なくなるまで寝たふりをするという遊びになっていった。

しかし、一度妹が玄関の前に足の踏み場もないほど雪ウサギを作ってしまい、両親に片付けなさいと怒られた。

それ以来、私は妹が2~3回、多くても5回呼びに来たらのっそりと起きだして、妹の成果を確認してあげることにしていた。

まったく、意地っ張りなんだから。

お姉ちゃん

お姉ちゃん

かまくら作ろう。

お姉ちゃん

お姉ちゃん

雪ウサギ作ったの。

みて

みて

分かったわかった。

今行くよ。

目を開けた時

私の目の前にあるのは天井の壁だけだった。

久しぶりに見たな、綾の顔。

私の妹、綾は私が大学受験を控えている時に、病気にかかった。

そして翌年の春、わずか7つでこの世を去って行った。

まだ小学1年生だった。

もう少しで誕生日だった。

せめて8歳になってから旅立たせてあげたかった。

受験か、妹の看病か。

両親は受験を優先してほしいと私に言ってくれたが、私はどうしてもその気になれなかった。

綾の雪ウサギを

綾の嬉しそうな姿をもう一度見たかったからだ。

私は、受験を蹴って共働きだった両親に代わって、綾の看病をした。

学校が終わった後に急いで家に帰り、準備を整えて病院へ向かう。

春に綾が亡くなるまでずっとそんな毎日だった。

そんなことがあったため、1年のブランクを経て大学生になった。

大学は私の家からは遠かったので寮に入ることになった。

ここはとても暖かい。

春に上京した時に、本当に春に桜が咲いているのにはびっくりした。

あんなのは、漫画の世界だけだと思っていた。

そして

雪もない。

聞いてみると、この辺はなかなか雪が降らないそうだ。

新幹線で3時間だったから忘れてたけど、本当に遠くに来てしまったのだな。

もし降ったとしても、かまくらはおろか雪だるまだって作れるかどうか・・・。

こちらでは秋口になるとうっすらと雪が降るというのに。

本当に暖かいところに来た。

あの雪の中が懐かしい。

雪の降っていると、どんな音も吸い込まれて、静寂に包まれる。

あるのは、吹雪の音くらいだ。

ごぉーうごぉーう

がちゃ

お姉ちゃん

私にとっての冬の音はこの3つだけだった。

今は、車のエンジン音やパッシング、バイクの音がこだまして随分と騒がしい。

騒がしい………のだけれど

なんでだ

きょうはそんなに聞こえてこない。

おかしいな

昼と夜とで交通量が激変する場所でもないのに。

部屋の外を覗こうと、カーテンを開ける。

え………

雪………?

雪だ

雪が降ってる。

私の視界一面に雪景色が広がっていた。

いつもの喧騒は、この雪がかき消してしまったらしい。

雪の中だから、外出を控えているということもあるだろう。

窓を開けて外を見る。

下では、おっかなびっくりしながら歩く人達がいた。

中には滑って転んでしまっている人もいる。

雪に慣れていないようだ。

なんかかわいいな。

車は頑張って走っているけど、普通のタイヤみたいだからスリップしないかちょっと心配。

ちょっと視線を別の方に向けると、子どもたちが大喜びで外に集まっていた。

いつも一緒に遊んでいるらしい。

ねえ、かまくら作りたい!

これだけあれば作れるんじゃない?

やってみようよ

やってみよう!

そんな声も聞こえてくる。

こんな少ない雪じゃかまくらなんて作れないよ。

作れてもみんな一緒には入れないよ。

あと大人と一緒じゃないと、雪集めるのは大変だよ。

そんな風に心の中で呟いてみる。

子ども達は私の心配などお構いなしに、一生懸命雪をかき集めていた。

綾も、友達がもっと近くに住んでいればかまくら作っていたかもしれないな。

私たちの家は、他の家から少し離れたところにあった。

雪のない時期だったら歩いてそこまで行くけれど

雪のある時にそこまで行くには少々骨が折れる。

だから妹は、家の近くでしか遊ぶことは出来なかった。

だから私と一緒に遊びたかったのだろう。

もう少し、付き合ってあげればよかった。

外の子供たちは一生懸命うずたかく雪を集めている。

そろそろ横穴掘ろうよ。

そうしようそうしよう。

無邪気な声。

あーあぁ。

そんなすぐに掘っても埋まるだけだよ。

変に穴掘って埋まらなければいいけど。

近くに大人はいないのか?

他の方に視線をやってみる。

そこには子供たちや大学生はいるが、保護者と思しき人は見当たらなかった。

………

…これはちょっと危ないかも。

雪は見た目以上に脅威だ。

ちらちらと可愛く降っている分にはさほど脅威とも思われないけれど

降り積もった雪がなだれた時に埋められてしまっては息も出来ない。

今はそれほど積もっていはいないがかまくらを作っている。

何かの拍子で山が崩れないとも限らない。

私は、部屋着から着替えて身支度をした。

ここから先は

7,415字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?