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(続き) ダーン・ローズガールデさん講演レポ

続きです。前記事はこちら

前記事で、ダーンさんが「リサイクルではなくアップサイクル」が大切、と語ったことをお伝えしました。空気中のゴミを婚約指輪に変えてみせた彼。続いては、さらに大きなスケール、「宇宙のゴミ」についてです。

「世界的な問題の解決に必要なのは、恐れよりも、皆で好奇心を持つこと」

アポロ計画以来、衛星の部品が壊れるなどの理由で、宇宙には8100万キログラムものゴミが浮いているそうです。
( ※ 環境省によると、日本の1年間のごみ総排出量は4,539万トン、東京ドーム約122杯分に相当。この二倍もの量が宇宙に浮いていると考えると、すごい量です)

これが、地球を取り巻く宇宙ゴミの層。

@Studio Roosegaarde "Space Waste Lab"より

凄まじいスピードで飛んでいる宇宙ゴミは衛星を破壊してしまうことも。そうなると、ネットやGPSに大ダメージです。スマホやテレビも使えなくなってしまうかも…ある予測によると、あと30年もすればスペースシャトルを打ち上げられなくなってしまうそうです。
NASAやJAXAも宇宙ゴミの問題には取り組んでいますが、具体的な解決策はなかなか出てきません。宇宙ゴミ?そんな遠くのこと知らないよ…と、誰も興味を持たないから、解決のためのお金も集まらないのです。

人間はその問題を認識していながら、なぜそのインパクトを忘れてしまうのでしょうか。

「宇宙ゴミや地球温暖化による海面上昇は、混乱するし、恐いし、なんだかよくわからないよね。家や動物など、自分の中におさまる小さなバブルで精一杯。それ以上のことは忘れてしまう。宇宙ゴミも、海抜上昇も、解決するには莫大なお金がかかるし、今までのやり方では解決できないんだ。子どもが散らかしたものを片付けるより、アイスクリームを食べていたいように、大人も自分たちがやらかしたことは忘れてしまいたいんだ。」

そこで、ダーンさんはこの問題を解決する第一段階として、"Awareness"「今の状況を可視化して、皆に気づかせる」ことをはじめました。

これは2018年10月のプロジェクトの映像で、リアルタイムで上空200kmの宇宙ゴミをトラッキングし、光線を当てることで、地上から見えるようにしたインスタレーションです。
8000人の人たちが参加しました。とても美しい…そして予想以上に光線の数が多いことに気づきます。
このインスタレーションは、ダーンさんの別の作品、"Water Light"に近いものがあります。

@Studio Roosegaarde "Water licht"より
これは、オランダの全域が海抜0メートル以下であることから、洪水に飲み込まれた状態を体感できるインスタレーションです。(※森美術館でもやるらしいです!)
集団として体感し、啓蒙することが大切、とダーンさんは語ります。

「恐れを抱かせるのではなく、みんなで好奇心を持てるようにすること。『私たちの将来はどんな姿であってほしい?』とみんなで考えること。そして、科学に対して意識を持ってもらい、投資される額を増やす。みんなで何とかしよう!という、ムーブメントを起こすことが大切です。自然と闘い、共に生き、調和を見つけていくことが必要なんです。」

この宇宙ゴミのプロジェクトの第二段階は、宇宙ゴミに対して、新たな価値を与えること、アップサイクルすることだそうです。
「8100万キログラムもある宇宙ゴミという素材を使って、何を作ろうか?」という視点で、2020年にドバイで宇宙ゴミを燃やすことで流れ星を作るパフォーマンスを予定しているそうです。


「問題を作り出したのが人間なら、それを解決するのも人間だ。」

宇宙ゴミから流れ星のパフォーマンスなんて、突拍子もない…そんなことできるの?不可能だ、お金はどうするんだ?…そうお感じになったでしょうか。
ダーンさんは、「何か新しいイノベーションを起こそうとすると、必ず誰かが『絶対無理だよね』って言ってくるんだ。で、そういう人がプロジェクトが完成してからいうことは、『これはいいね!なんでもっと早く言わなかったの!』笑。新しいアイディアに人々が慣れるには時間がかかるもの。皆が最初から合意するアイディアは、革命的ではないんだ。
自分のアイディアに対して『不可能だ』って言ってくる人たちを納得させるのが、クリエイティブなアイディアを出した人の挑戦!でも、問題を作り出したのが人間なら、それを解決するのも我々人間なんだ。」


Put the Idea Central! アイディアを中心に置け!

ダーンさんは、自身を「NASAやJAXAの人たちより頭がいいとは思っていない。しかし、別の視点からものを見ることができる。」と語っています。別の観点とモノを作り出すことで、全く新しい価値を与え、「公害」を「結婚指輪」に、「宇宙ゴミ」を「流れ星」にすることができたのでしょう。
さらに、「問題をアーティスティックに考え、実用的な部分に繋ぐ」ことの大切さも熱くお話していました。
「アイディアとは、なんだかわからないけど口に入ったものを、味見するようなもの。ミシュランの一級品かもしれないし、違うかもしれない。違ったらそれは失敗だけど、それは単なる過程だ。とにかくお金ではなく、アイディアを中心に置くこと。アイディアが成功に導いてくれるから、それを追っていけばいいんだ。


最後に。
ダーンさんは自身の職業を「アーティスト」「デザイナー」「科学者」などと定義するよりも。自分自身を探求するのが面白い、とおっしゃっていました。
「私の仕事は◯◯だから」と範囲を決めつけず、色々な視点からものを見ること。アイディアを信じること。アイディアとテクノロジーの力を使って、前向きなムーブメントを起こし、実用化していくこと。
大切なことがたくさん学べた素敵な講演会でした!

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