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分析し、"いい状態"で悩む

 「制約は、考える材料を提供してくれるもの」
 “制約” というとネガティブなイメージを受けがちだが、著者は「”新たな脳ミソ”を使う機会も与えてくれる、なくてはならないもの」だという。
 思い返すと、社会は制約に溢れている。課題の締切のような ”時間の制約” や、物事を始めるときには予算の範囲内で考えるといった ”お金の制約”。縛られた中で、私たちはどうしても自由を求めてしまう。だが、本当に自由な環境では、むしろ手も足も出ないのではないか。限られた制約の中でどう工夫するのか分析を重ね、「新たな脳ミソ」を使うことでより良い結果が生まれるということに気づかされる。

 本書の著者は『ロンドンハーツ』、『アメトーーク!』などの人気番組でプロデューサーを務める加地倫三さん。
 番組に出演している芸人さんが、時折「加地さんは~」と言うことがあるため、名前を聞いたことのある方も多いだろう。(無論、自分もその1人だ)このような、芸人さんとの距離の近さ・親密さに私は好感を持っていた。本書を手に取ったのも、そんな加地さんが執筆した本であるからだ。
 著者のように、番組中でも出演者とコミュニケーションをとるような人はあまり思い当たらない。考えつくものだと、『水曜どうでしょう』や『世界の果てまでイッテQ』といったあたりだろうか。

 著者は、場の空気を大切にしている。これは、収録現場に限った話ではない。企画会議やロケ先、飲み会の場においても、常に意識している。『アメトーーク!』発足でまず決めたのは、会議は必ず狭い部屋で、甘いものを食べながらやること。番組と同じ空気感で会議も行うべきと考えており、冗談の言い合える雰囲気がベストなのだ。

 ここで更に大切なのは、「会議で煮詰まったらテーマを変える」ことだという。脳をリフレッシュさせることで、暗礁に乗り上げていた部分の解決策が見えてくるものだ。特に、バラエティ番組を企画するにも拘わらず、重い空気で悩み続けるのは視聴者との乖離が生まれかねない。

 「大切なのは ”ただ悩む” のではなく、”いい状態で悩む”」ただ闇雲に悩むのではなく、その悩み方にまで秘訣があるとは驚きだった。

 加地さんは本書の終わりを「テレビの仕事を目指してもらいたい」と思い、本を出したと締めくくっている。ネット配信産業が加速する時代の中で、真っすぐにテレビマンとして全うする彼の姿に感服した。テレビ業界を目指す方はもちろん、人々に何かを届けたいと思うすべての方に手に取ってもらいたい一冊だ。

たくらむ技術 (新潮新書)

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