風の自転車通勤
風の音で目を覚ました。
自転車通勤を始めてからは、雨よりも風の方が苦手だ。雨ならレインコートで防げるが、風は自転車を押してバランスを崩そうとしてくる。
「今日は風が強いので休みます」と電話したいところだが、別にそこまでではないので外に出た。
外は暗い時間なので、目立つように白いウィンドブレーカーを着て、通勤用の電動アシスト自転車に跨がる。
ウィンドブレーカーは風を通さない。
風を通さないので、ヨットの帆のように風を受け、私の方向を操ろうとする。
ハンドルとブレーキを握りしめ、前傾姿勢を保ち、体を前に進める。
いつからか雨が降ってきたようだ。顔に小さな小石が当たっているような、チクチクとした痛みがある。風によって雨粒の速度が上がっているのだろう。
坂道に差し掛かったところで、急に風が強くなった。こういう時は少し止まって、弱まるのを待つ。
大きな空気の塊が、私を押し流そうとする。
地球の持つ莫大なエネルギーの前には人間は無力……などと思っている私の横を、自動車があっという間に通り去る。
帰りたい気持ちで一杯だが、目的地まであと半分ほどのところまで来ている。早くこの戦いを終わらせよう。まあ戦いが終わったら仕事なんですけどね。
頬の痛みに耐えながら、適度に体力を温存しつつ、自動車さえ持っていれば起こらなかったこの戦いに決着を付けた。
勝った…………
……翌朝仕事を終えて外に出ると、視界に白いものが映る。
雪だ。
もしかして昨日ずっと顔に当たっていた物って、雨じゃなくて氷の粒だったのではないか。
……やっぱ休めばよかったな。
あの戦いでバッテリーが20%ほど減ったらしい電動アシスト自転車に乗りながら、そんなことを思った。
結論:自転車通勤は辞めた方がいい
がんばります!