見出し画像

メイクアップされた世界の裏側

ドミンゴ氏のセクハラ疑惑について、個人的に思うことがあるので書き残しておこうと思う。

ちなみに私は、歌手としてのドミンゴ氏の大ファンです。

クラシック音楽というと、一般に “敷居が高い” とか ”エレガントな世界” というイメージが強いと思うのだけれど、クラシック音楽界というこの狭い世界で起こっていることはそんなにエレガントなものではなく、華やかにメイクアップされたこの世界の裏側では、セクハラ、パワハラ、人種差別、そして異常なほどのジェラシーが渦巻いている。

こんなことを言うと、「クラシック音楽のイメージが悪くなる」とかいうことで先輩音楽家に怒られてしまうのだろうけど、私はこのようなクラシック音楽界の現実から目を背け盲目的にこの “伝統” を引き継いでいくことが、今後のクラシック音楽界にとって良いこととは思えない。

少しずつだけれども今、社会は変わりつつあるからだ。

私がこのように感じるのは、私自身理不尽だと思われる出来事に遭遇し、そしてとりわけ、多くの才能が叩き潰される現場を目の当たりにしてきたからなのかもしれない:

とあるスイスの音楽院の入試では、合格者と不合格者の試験の日程も内容も違ったし、パリの音楽院の指揮科の卒業試験では、「日本人だなんて運がないね。君がフランス人だったら結果は違っていたのにね。アハハ!」と言われ、卒業証書を頂けなかった。

私は « ザ・No!と言う日本人 » なので、あまりに納得の出来ないこと関しては冷静に、けれどはっきりと抗議するのだけれど、スイスの時も、パリの時も、「自分の将来のことを考えるなら黙ってろ」とか「もうパリで仕事はしていけないことを覚悟しな」とか様々な人から脅され、仕事が減り、私の周りからは波が引くように人が離れていった。
最も尊敬していた教授から「人生とはこう言うものだ。黙って受け入れなさい」と言い捨てられ、頭の中にベートーヴェンの第5番が鳴り響いた時のことは今でも忘れられない。まさに、ジャジャジャジャーン!である。

卒業証書が頂けなかったことより、脅されたことより、仕事が減ったことよりショックだったのは、今まで好きだった人や尊敬していた教授達が、自分の周りからすーっといなくなったことだった。皆、引きつった笑顔で居なくなった。

居なくなった人たちの中には、同じような理不尽に泣き寝入りしていた人も沢山いた。というか、ほとんどの人がそのような理不尽を経験し、この業界のあり方ついて嘆いていた。
それなのに、私が No! と言おうと勇気を振り絞った時、彼らは声を上げた者を叩き潰すことで、この ”伝統“ を引き継いで行く!という意思表示をはっきりとしたのだ。

ドミンゴ氏のセクハラ疑惑のニュースを読んだ時、私は、「(もし彼のセクハラが事実だったとして) セクハラが起こった当時、勇気を振り絞ってNo! と言った女性がいたのではないか?」と思った。

その時、他の被害者達は勇気を振り絞って声を上げたものを支えたか?「黙れ!黙れ!」と叩き潰したのではないことを願う。

(もし彼のセクハラが事実だったとして) 被害者の方々はそれぞれに悲しみ、苦しみ、息苦しさを抱えていたと思う。

そして、それは声を上げる者も一緒だ。悲しくって、苦しくって、悔しくって、怖くってブルブル震えながら声を上げているのだ。

私が卒業証書をもらえなかったパリの音楽院では、女子生徒が教授との性的関係(被害当時15歳)に悩み苦しんだ末に自殺未遂をした。学長は全てを知っていたが、この少女に助けの手を差し伸べなかった。

もし身近に勇気を振り絞って声を上げてる人がいたら、勇気を振り絞って支えてあげて欲しい。

ドミンゴ氏は「現在適用されるルールや基準は昔とは全く異なると認識している」とおっしゃったそうだけど、“セクハラして良いルール” なんて今までだってきっとなかった。

あるのは、“誰もそれを語ってはならない”というルールだ。

私は、このnoteを書くことでルール違反を侵しているのかもしれない。

けれど…

私はフランスの音楽院で教えているので、クラシック音楽が大好きな子供達を沢山知ってる。

これ以上、今のクラシック音楽界のあり方の為にクラシック音楽を嫌いになってしまう未来の大音楽家達の涙は見たくない。


-おわり-

最後に、念のために書いておきたいのは、性を武器にする女性も沢山いるということ。彼女らに叩き潰された才能ある男性音楽家も少なくないので、このような問題は皆が真摯に受け止めるべきことであると思っている。

参照:

https://www.jiji.com/sp/article?k=20190816038998a&g=afp

https://m.youtube.com/watch?v=3ZGYODu-SGQ
(俳優さんのようにかっこいいドミンゴ氏。ナガサキが舞台のこのオペラには、“さくらさくら” など日本の歌が挿入されていて親しみが持てそう!)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?