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断片化された記憶と重いカバン、そして逃げる私と彼女

いつの間にか、私は眠ってしまったみたいだ。目を開けると、もう夜になったのか、あたりは真っ暗で何も見えなかった。

あれ?

私、いま自分の家にいるんだっけ?

記憶を辿ろうとするが、
思い出せるのは断片化された記憶だけ。

今日は土曜日で、休みの日で、久しぶりに彼氏と昼間に外で会ったはずだった。
その後、私は...

そう、思い出した。

彼との別れ際に
私は泣いた。

あれ、でも何で泣いたんだっけ?
どうしても思い出せない。


「走れ!」

どこからともなく突然、
声が聞こえてきた。

もう一度周りを見渡そうとしたけれど、何も見えない。

走るも何も、私は自宅のワンルームマンションにいるはずだけど。

「早く!カバンを持って走って逃げろ!」

また同じ人の声がした。

試しに右手を伸ばしてみると、
冷んやりとした表面のアタッシュケースがそこにはあった。

私が疑いながらも、そのアタッシュケースの取っ手をつかんだ瞬間、大きな足音が背後から迫ってきた。

ダッダッダッダッ

ダッダッダッダッ

グォーーーー グォーーーー

足音とともに、低いうなり声も聞こえてくる。

私は状況理解が追いつかないまま、
さっきの「逃げろ」という声に従って
走って逃げることにした。

もちろん、
アタッシュケースを持って。

ハッ ハッ ハッ

ハッ ハッ ハッ

アタッシュケースの中身は重く、
暗闇の中を全速力で走る私は、
すぐに息が切れ始めた。

せめて懐中電灯があればいいのに。

そう思った矢先、
アタッシュケースの先端から光り、
私の足元を照らした。

背後からはまだ大きな足音と
唸り声が追いかけてくる。

いつまで走ればいいだろう?

「もう少し。あの扉の向こう側に行けば大丈夫だから。」

またあの同じ人の声がした。

今度はすぐ近くから聞こえてきたような気がして、私は右側を見て、左側を見た。

ただの気のせいか。
誰もいない。


「ここだよ。」

え?右側をまたみると、
ショートヘアの女性が
私と同じスピードで併走していた。

「さあ、逃げ切るよ。」

彼女はそう言い、
いつの間にか明るくなった周囲とともに、くっきりと姿を現した。

さっきは女性と思ったけれど、胸の膨らみがなければ、少年と見間違えるかのような外見をした女性だった。
表情は引き締まり、大きな目は前を睨んでいた。

そして、私は言われるがまま、
得体の知れない怪物から逃れるため、
走り続けた。


そう、私は走り続け、
扉の向こう側の世界へ
飛び込んだ。

#小説 #逃走 #アタッシュケース #断片化された記憶

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