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『レッドスワン』をカクヨムで無料公開する理由。

文庫化が決定した『セレストブルーの誓約』(『青の誓約』から改題。7月発売予定)の連載が終わり、明日から『レッドスワンの混沌』(シリーズ5巻が)がカクヨムで連載されます。全文無料掲載です。

既に『レッドスワンの絶命』、『星冠』、『奏鳴』、『飛翔』、『セレストブルーの誓約』と、5冊公開していますが、連載はさらに続きます。ラストシーンまで無料で読めますし、期間限定でもありません。

『混沌』は2020年10月に発売した本です。わずか半年で、無料で読めるようになるわけで、そうなると知っていたら買わなかったのにと思われる方もいるかもしれません。なので一度、無料公開を続ける理由を明記しておきたいと思います。

長いので、興味のある方だけ読み進めて下さい。


私は12年目の専業作家で、基本的に収入は、印税と原稿料しかありません。

デビューしたての頃は、書き下ろしの印税がほぼすべてでしたが、雑誌に連載をもてるようになってきたので、原稿料ももらえるようになりました。ネットのみの掲載でも原稿料を頂ける場合がありますが、カクヨムの連載では収入を得ていません。(あくまでも私のケースで、ほかの作家さんの連載は知りません)


『レッドスワン』はもともと2015年に単行本(3冊)で発売されたシリーズでした。

ファーストシーズンは高校二年生の終わりまでを描いていて、最初に用意していたプロットは、この3巻まででした。

この記事を読まれている方は知っていそうですが、私はフットボールが大好きです。3冊の執筆があまりにも楽しかったこともあり、完結させたつもりだったのに、続きを書きたくなってしまいました。ただ、お待たせしている編集者さんが何人かいたこともあり、その後、しばらくは別の小説を書いていました。

そんなこんなで3年が経ち、その間に、じっくりとセカンドシーズンの構想を練っていきました。そして、文庫化に合わせ、そのままセカンドシーズンを始めようと決まりました。

しかし、誤算だったのか、不運だったのか分かりませんが、準備期間と実際の発売の間に、二つの事件が起こりました。

一つは、デビュー時からの担当編集だった三木一馬さんが会社を辞めたこと。もう一つは、アスキー・メディアワークスがKADOKAWAに吸収合併され、物事の進み方が大きく変わってしまったことです。

年度が変わり、体制が一新され、文庫発売の直前、二ヵ月前になって、「スポーツ小説は売れないから、5ヶ月連続刊行なんて馬鹿なことはやめて欲しい」と言われました。もちろん、共に準備を進めていた編集部からではありません。担当編集者は、部外の方(レッドスワンは読んでいない)から、「綾崎はミステリか恋愛小説を書けば売れるんだから、スポーツ小説ではなくそっちを書かせて」とも言われたそうです。

もう何年も前の話ですから、言った方は覚えていないと思います。でも、こちらは命を削って小説を書いていますので、(作品を読まずして)理不尽な言葉を告げられたという事実を、なかなか忘れることが出来ません。

混沌とした状況で文庫化が始まり、あえなく『レッドスワン』は打ち切りを告げられることになりました。


noteを始めたのは、『レッドスワン』の続きを書いて公開しようと思ったからでした。

許可をもらうために担当編集に話したら「原稿料は出せないけど、カクヨムに載せませんか?」と言われました。いや、原稿料が出ないなら、さすがに自分で公開しますよと伝えましたが、その時に一つ、相談したことがありました。それは、

「印税はいりませんと言ったら、メディアワークス文庫で続きを出してもらえますか?」というものです。

この物語を続けられるなら、もう収入はどうでもいいやというのが当時の率直な気持ちだったからです。

その後の展開は、ご存じの通りです。

シリーズを応援して下さった皆様の力で、昨年の秋に、5巻、6巻と刊行することが叶い、セカンドシーズンをラストシーンまで描くことが出来ました。

発売から2年の時を経て、大きな重版をかけて頂くことも出来ました。


単行本が4冊、文庫が7冊。冷静に考えると、関連作品を11冊も書かせてもらって、売れていないもない気がしますが……。

メディアワークス文庫から発売したシリーズだと、『花鳥風月』シリーズや『ノーブルチルドレン』シリーズの方が何倍も(何倍というか桁が違う)売れているので。いつまで、このシリーズにこだわるんだと思われているのは分かります。商業的に成功しそうなジャンルを書いてくれと思われているのも知っています。

でも、大抵の作家は、本当に書きたい小説しか書けません。そして、メディアワークス文庫で書きたい物語が残っているとすれば『レッドスワン』なので、冒頭の話に戻るんです。

セカンドシーズンでは高校三年生のインターハイを描きました。しかし、高校サッカー最大の祭典は、冬の選手権です。

打ち切りを回避したとはいえ、続刊を書かせてもらえたのは、メディアミックスが決まったとか、劇的に売上が伸びたからではありません。読者が熱烈に応援してくれているから、「赤字にならないなら続刊を許そう」という温情による刊行でした。

現状は理解していましたので、残りの二冊でやりたかったことは書き切らねばと思い、そういう意識でプロットを修正し、執筆しています。

具体例を一つ挙げると、

当初の予定では、5巻のラストシーンが、セカンドシーズンのラストシーンになるはずでした。「は?? ここで終わるの??? ふざけたことをしないで、早くサードシーズンを読ませて」と、なって欲しかったので。

でも、現実的に考えて、サードシーズンなどあるはずがなかったので、一連のエピソードの時系列をずらすことにしました。

そんな風に細かな修正も入れつつでしたが、書きたかったことは、ほぼ書き切りました。だから、もう身を切られるほどの心残りはないんです。打ち切りを告げられて、一度、絶望も味わっていますし、それを思えば、よく続けさせてもらえたと思っています。

ただ、じゃあ、もう続きを書く気がないのかと言われれば、当然、そんなことはなく。私がどれだけフットボールを愛していると思っているんだ。物語には最後の高校選手権が残っているんだから、書きたくないわけないだろ。ということになります。

だからこそのカクヨム連載、再開でした。

『レッドスワン』は私にとって、もう収入の糧ではなく、生きた証みたいなものなので。印税も原稿料もいらないから、未来の可能性に賭けようと思うのです。

無料で公開されている小説を買う方は稀だと思います。ですが、無料なら読んでみようかと思った方が、この物語に触れて、アクションを起こしてくれたら、何かが変わるかもしれません。

現状、考えられるルートとしては、メディアミックス化を経て、原作が売れ、サードシーズンにゴーサインが出る。というパターンしか思いつきません。

実は、文庫化がスタートした頃、担当編集はコミカライズを打診してくれたみたいなんです。(サッカー漫画にはヒット作が幾つもあるからでしょう)

ただ、「その小説に可愛い女の子は出てくるの? 出てこないなら無理」と、速攻で断られたらしく。いや、何処の誰に打診してんのよ。とか、女の子が可愛いかどうかは、その子の生き様で決まるんだから、読まなきゃ分からないでしょ。出てくるわ。世怜奈先生とか、とりわけ可愛いわ。あんなサッカー狂の女性がいたら、普通に惚れるわ。とか、まあ、色々と思うことはありますが、結論としては何も決まらなかったので。

すべて無料で公開していたら、いつか何かが起こるかもしれませんし。何より、読んでもらえさえすれば面白さが伝わるはずだから、可能性くらいは残しておきたいなという話なのでした。

あとは、単純に「もうお金はいらないから、読んで。騙されたと思って読んでみて。面白いから」という気持ちもあります。


文庫を買ってくれた皆さん。

無料で公開してしまって、ごめんなさい。

未来を信じていたいので、我が儘を許して下さい。






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