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言語運用能力とは何だろう

私は毎年、以下の学会に参加している。
様々な障害種について現在の教育の様子がわかるので、ライフワークとして参加し続けたい学会の一つだ。

いつもはポスター発表なのだが、今年はご縁をただいてシンポジウムの話題提供をさせていただくことになった。

テーマは「聴覚障害児の言語運用能力」。

どのようにまとめるか、頭を抱えている。
「そもそも、言語運用能力とは何なのか、今一度立ち返ってみよう、リセットだ!」と、PPの閉め切り迫っているにも関わらず考え、ここにアウトプットしてみることにした。

先日、「ことばを使いこなして生きる」という言語力が本質的には大切なのではないか、という内容のnoteを投稿した。

そこに通じることかもしれない。言語運用能力とは何なのか。

改めて辞書的な意味を調べてみると、文化庁は以下のように定義していた。

言語運用能力とは音声言語・文字言語を問わず,相手や目的・場面に応じて自らの意思を言語によって適切に表現・伝達し,かつ言語を通して相手の意思を的確に理解し得る能力のことであり,端的には,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことのすべてにわたって総合的に運用する能力として位置付けられる。-文化庁

「運用」という言葉が私の胸にいつもつっかえるのだ。わかるような、わからないような・・・。ここは焦らず細分化してみよう。「運用」とはどういう意味なのか。

ものの持つ機能を生かして用いること(活用)。-大辞泉

これらを踏まえると「言語運用能力」とは、

音声や文字という形式にかかわらず、言語の持つ機能を活用して、様々な状況に応じて自分の考えを適切に表し伝えること。同時に、相手の発言の意図も的確に理解する能力

ということができそうだ。

言語の持つ機能とは?

では、私たちが活用している言語の機能(働き)にはどのようなものがあるのだろうか?

一般的にはヤコブソンの言語の6つの働きが有名である。
ここから、これは「発言者側からみた機能」なんだなあ、と再認識した。

①主情的機能ー心や身体の変化を外部に表出する
②詩的機能ーメッセージの内容そのもの(形態・リズム・統辞・語彙など)
③働きかけ機能ー聞き手に訴え、動かす、何らかの行動に駆り立てる
④交話的機能ー言葉を交し合うこと自体により一体感や親近感を高める
      (例:あいさつ・相槌・井戸端会議)
⑤指示的機能ー自分の内外の世界をことばを使って解釈・描写・記録する
⑥メタ言語機能ー言語そのものについて語る機能
    -中央教育審議会教育課程部会言語能力向上に関する特別チーム

また、これに加えて「内言語機能」:思考のための自分の中にある言語があることも重要だ。

これらの機能がそれぞれが独立しているわけではなく、同時に働きあって、私たちは初めて発言者として「コミュニケーションをとれる」という状態になる。

言語の3側面として以下のようなものもある。

Ⅰー思考活動の基盤
Ⅱ―行動統制
Ⅲ―コミュニケーションの基盤

また、これはコミュニケーション活動に関連することだが、言語は文字通りの意味で受け止め、応答しない場合がある。
例えば、学校に消しゴムを忘れていったので、隣の席の人に「消しゴムある?」と尋ねるとしよう。
あなたなら、どう応えるだろうか?
多くの人は、自分の消しゴムを貸してあげるのではないかと思う。これには、「消しゴムある?」という発言には「消しゴムを貸してほしい」という意図が内在していることを理解しているからできることである。

このように、相手がどのように考えているのか(二次心象という)を考えることができるのは、言語を内なる思考の道具として活用できているからであろう。

このように考えると、「言語運用能力」というのは実に奥深いなと思う。
私たちは幼い頃から自分を取り巻く人々のかかわりを見て、聞いて、自分が生きる社会における暗黙の了解的なものを獲得していく。
難聴児は、その入力という側面が制限されるため、言語発達に遅れを生じる。そうなると、言語運用能力にも影響を及ぼすことは明白であろう。

だが、そんな彼らも教育を受け、成人し、自分は何者であるのか、自分について認識するときをすべからく迎える。
そのとき、彼らは自分の持ちうる「言語の機能」をどれだけ活用できるだろうか。私は、決して上手にスラスラと話をしてほしいということは思わない。自分の持ちうる範囲での語彙を使って、これまで、現在の自分について描写し、聞き手に伝わるように敷く錯誤しながらも「なんとかして」話す。

この「なんとかして」伝えようとする姿勢をもっていることこそが本質的な言語運用能力を支えるもの、あるいは言語運用能力そのものであるといってもいいように考えた。

インタビューは分析中だが、こういった視点に一度立ち返って、内容を読み返す勇気を持ってみたい。
煮詰まったとき、こうやって根本から問い直して書き出すと胸がスッとする感覚を味わう。
「もうここまでやってしまったからもったいない」とかケチ臭いことは言わないで、やり直してみればいい。
その積み重ねが自分を成長させてくれると信じて。

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