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『ダイレクト/ネグレクト』(戯曲)

この戯曲、ぜんぜん出来てないですが、2020年あたりにどこかで誰かと上演しようとゆるゆる画策中です。ご期待ください。2018年4月から書き始めて、たぶん2年はかかる。誰かから頼まれた仕事じゃないし、そんなペースで進めるものがあってもいいと思う。誰かの消費のスピードはあくまでも誰かの消費のスピード。僕には僕の適切な速度がある。そういえばキュイの旗揚げ公演のタイトルは『祈る速度』だった。祈る速度。どんなに遅く届いても、最悪届かなくてもいい。そういう言葉もこの世界にはある。個人的な祈りのための言葉は、書き留めておく必要があるのだ。

2018年4月某日 綾門優季

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青年団リンク キュイ

『ダイレクト/ネグレクト』

会場:こまばアゴラ劇場

日程:2020年12月10日(木−12月20日(日)

戯曲はまだまだこれからですが、先に上演が決まりました。

気まぐれに進んでたり変わってたり、場合によっては短くなってたりします。

暇な時間が出来て、暇つぶしの方法を特に思いつかないときなどに、たまに覗いてやってください。

よろしくお願いいたします。

2019年12月某日 綾門優季

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『ダイレクト/ネグレクト』


◎あらすじ


幼少期に遭遇した、知らない男からの性暴力の記憶、成人になってから経験した両親の離婚。

わたしとは関係ない事柄だと思っていたのに、それがわたしの人生をこんなに縛ることになるなんて…。

わたしの運命は変えられないけど、かけがえのない友だちがいれば、どんな苦難も乗り越えられる。

そう信じていた、あの日までは。

一瞬で過ぎ去ったような80年間と、永遠に思える80秒間の物語。


◎本編


第一部『ダイレクト』


○登場人物


あかり

いのり

しおり


パパ/ママ

変質者/新しいパパ


○本編


1「全力で拒絶」(いのり 6歳)


変質者 あっちいこうよ

いのり え?

変質者 あっちにいったらおもしろいよ

いのり ここでもじゅうぶんおもしろいよ

変質者 そんなのメじゃないよ

いのり ブランコたのしいよ

変質者 ブランコなんてへみたいなもんだ

いのり へ

変質者 ふたりきりにならないとできないいいことがあるんだ

いのり ふたりきりはいや

変質者 いいことなのに? とんでもなくいいことがむこうでまってるのに?

いのり ひとりかみんなといっしょがいい

変質者 ひとりはさみしいよ

いのり みんなといっしょのほうがさみしい

変質者 みんなもひとりもさみしい、ふたりきりが、ふたりきりがさみしさにはいちばんいいんだよ

いのり そうなのかなあ、ひとりでもふたりでもさんにんでも


   変質者、気づいたらいなくなっている。

   入れ替わるようにパパ、登場。


いのり さみしいのになあ

パパ いのりいのりいのり。

いのり いっかいでいいよ

パパ 大丈夫か、いのり。

いのり いつもとなんにもかわらないよ

パパ 隣町の女の子のようにならなくて本当によかった。

いのり しってるこ?

パパ いのりの知らない人だ、パパも知らない人だ、ふたりとも知らない女の子が知らない男の人に意味不明な理由で殺されてしまったんだ。(と、新聞をこれみよがしにいのりに押し付ける)

いのり かんじよめないよ

パパ 写真をみるんだ!

いのり あ、しってるよそのおとこのひと、いいことしようとするひとだよ、さっきいた

パパ いいことなんて一度もしてない、生まれてからきっと一度もしてない、悪魔が人間の皮をかぶってのうのうと数十年暮らしてきたんだ。名前も知らない人のことを知ってるだなんて言うな。誓ってくれるかパパに。知らない人についていかないって。知らない人どころか知ってる人にもついていかないって。人類全員疑うって。ママのことも疑うって。パパのことも疑うって。いのりはいのりのことだけを信じるって。

いのり パパのことも?

パパ ああパパのこともだ、いいかよく聞きなさい、人間はふたりきりになると思わず相手のことを信じそうになるんだ、寂しくて抱きしめたくてすがりつきたくて仕方なくてがむしゃらに信じそうになるんだ、そんな時こそ一人で立っていなければいけないよ、人という字は支えあって出来ているんじゃないんだ、二本の足で凛と立っている一人の姿なんだよ。入ってこようとする人を拒んで突き飛ばすために、その二本の腕は神様から授かったんだよ。

いのり パパのこともしんじちゃだめなら、いままでのパパのながいながいおはなしは?

パパ もちろん、一言も信じちゃ駄目だ!

いのり じゃあ、こういうこと?


   いのり、二本の腕でパパを突き飛ばす。


パパ いいぞいのりその調子だ、それでいいんだいのり、あらゆる人を突き飛ばして自分を、世界を守るんだ!


   パパ、ぐるっと回ってママに。


2「父親が蒸発」(いのり、12歳)


ママ 全く男ってなんて愚かな生物なのかしら、お金を持って逃げた男もいたわ、仕事を趣味のようにコロコロ変えて続いたことのない男もいたわ、複数の女性と隠れて関係を維持しなければどうしようもない男もいたわ、全く男って最低だわ。最低であることが男であることの必要条件なんだわ。

いのり ママ、質問。

ママ なにかしら?

いのり いなくなったパパはいま言った必要条件のどれにもあてはまってないと思うけど。

ママ いのりは頭がいいわね!

いのり どうして離婚したの?


   重苦しい間。


いのり …え、ママ、質問の答えは?

ママ いのりが大人になったら教えてあげる、大人にはね、言葉にはできない複雑な事情があるのよ。

いのり サボってるだけでしょ、言葉にしてよ。はっきり言葉にしてよ。

ママ いい? 大人も子供も関係ない、人間の身体の70%は水じゃなくて、複雑な事情でできていると言っても過言じゃないくらいなのよ、それにいのり、いまママがすべてをはっきり言葉で伝えたところで、めちゃんこ難しくていのりにはよくわからないわ。

いのり めちゃんこ難しくてよくわからなくてもとにかく言ってみてよ! 言ってみるまでわからないかどうかなんてそれこそよくわからないでしょ!

ママ ほらそんなことよりいのり、

いのり そんなことより? 大切で切実なことだよ?

ママ これが新しいパパよ! おニューのパパよ!

新しいパパ はじめまして、いのりちゃん。これからよろしくね。

いのり …え、ママ、あれだけ男に幻滅したのに、もう新しい男を捕まえたの? 記憶力に何らかの重大な欠陥があるの?

ママ いのり、大人になるとね、みんな意識的な記憶喪失状態になるの。そうしないととてもじゃないけど辛すぎて、翌日を迎えられなくなるからよ。

いのり 可哀想な生き物なんだね。じゃあ、いのり、大人になりたくないな。

新しいパパ おやおや、こいつは手厳しいなあ。

いのり 全く関係ないひとは黙っててください、これは親子の問題なんです。

新しいパパ おやおや、全く関係ないってさ。さっそくおニューのパパだと認めてもらっていないことが判明したなあ。

いのり (無視して)最も愚かな生物なのはママなんじゃないの?

ママ 愚かな生物と愚かな生物が交わって愚かな生物のあなたが生まれたのよ。私たちが愚かじゃなければ、この世界にあなたは生まれなかったのよ。愚かじゃなければ決して出来ない行為の果てにあなたが生まれたのよ。

新しいパパ おやおや、段々と言葉を選ばなくなってきたなあ。

いのり じゃあ生まれたくなかった! この家に生まれたくなかった、この街に生まれたくなかった、この世界にさえも生まれたいと思ったことなんて、きっと一度もなかった!


   いのり、退場。


新しいパパ おやおや。

ママ やれやれ。はっきり言葉にしたらこれだもの。

新しいパパ こんなやりとりのあとにあれだけど、…これから愚かな行為をしないかい?


3「運命の公園」(あかり、しおり、12歳)


あかり それで結局、私の家の近くの公園で、隣町から走ってきてすぐに疲れたいのりちゃんが、ぎこぎこぎこぎこブランコを、ほとんどこぐのを目的にしていない感じで、手持ち無沙汰って感じで、暇の使い方がよくわからないからとりあえずやってますけど何かって感じでこいでいたところに、わざわざ話しかけにいったっていうのが、私といのりちゃんとの運命的な出会いです。運命が私に降り掛かってきたんじゃなくて、運命を私は自ら掴みにいったんだと思います。こんなことがなくても、どっちにしろ私といのりちゃんは中学でいっしょになって、クラスもいっしょになって、隣の席になる運命なんだから、人生のわりと早い段階で出会っていたはずだけど、いのりちゃんに入学式とかじゃなくて夜の公園で、それもこういう胸の高鳴りが押さえられないような運命的な遭遇の仕方だったから、いのりちゃんは私の、人生の中でも片手で数えれば足りる「本当の友だち」の中に入る友だちになったんだと思います。


しおり ぼくはこの時点であかりにもいのりにもまだ出会えていない。両親が、仕事の都合とかじゃなくて、単純に引っ越しが趣味、という変な人たちだったこともあって、大阪、名古屋、石川と移り住んで、そのたびに転校するおかげで、友だちは一人もいなかった。どの地域も好きになれなかったし、本当に好きな友だちは一人もいなかった。お父さんはお母さんがいればそれで良くて、お母さんはお父さんがいればそれで良くて、だから二人にはぼくがいらなかった。ぼく抜きで永遠に楽しい会話を続けていられるみたいだった。ぼくはなんていうか、上のお兄ちゃん、下のお兄ちゃんと立て続けに産んだはずみに、うっかりできちゃったんだと思う。一度だけ、埼玉には行ったことがある、っていっても、新幹線で東京のいとこの家に行くときに、乗換の都合で、大宮駅でおりて、近くでランチを食べて、それから池袋に向かっただけだから、ほんの一瞬で、もう「行ったことがある」という事実以外、風景も何も、思い出せないのだけれど。人生の長い間、埼玉に住むってわかっていればもうちょっとちゃんと、風景を覚えようとしていたのになあ。別に覚えていたところでどうしようもなかったかもしれないけれど、やっぱりなんとなく覚えていたかった。何度も噛み締めることに耐えられる昔の記憶がたくさん欲しかった。ぼくは将来、人生の大きな岐路に、なぜだか埼玉にいるときばかり立たされることになる。大宮の映画館にあかりといのりと三人で行くのは、まだまだ、まだまだまだまだ先の話。

(続きは忘れた頃に更新します。)

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