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『ザ・ワールド 2019』大橋可也直前インタビュー(前半)

(2019年7月15日、森下スタジオにて)


【記憶を呼び起こすために】


大橋可也 今日の稽古見学でみてもらったのは、4部構成で出来ている全体の中の、いちばん短い第2部、30分ぐらいのパートと、第1部、だいたい1時間半ぐらいのパートなんですが、本来はその後に映像を使用する50分ぐらいの第3部、それが終わったあとに、空間全体を使った、2時間20分ぐらいの第4部があります。14時に始まって19時30分に終わるので、あいだの20分の休憩も含めると、全体では5時間半あることになります。


綾門優季 休憩を抜いたとしても5時間超…大作ですね。今日稽古で拝見したパートについて先にお話を伺いつつ、みていない第3部と第4部については、大橋さんの方からどういう内容になっているのか、お話を伺えればと思います。今日みててまず思ったのは、WEB掲載されている出演者の方のインタビューにもありましたが、ユニゾンがないっていうことが、やはり全体に対して大きな効果を与えていて、これまでみてきた作品とも違う手触りが感じられました。同じ動きをやっていそうで違う、ってことがすごく多くて、そういうズレみたいなものが新鮮だったんですけど、それを導入したのはどういう意図によるものでしょうか。


大橋 僕の作品はもともと、メインっていう言い方も適切ではないですが、綾門さんがズレと表現している部分が重要なところかなと思っていて、今回はそこを中心にしたっていうか、むしろ全体的に主題としていますね。


綾門 印象的だったのは、喋りながら何かやっているパートがあったじゃないですか? そこの稽古をする時に、じゃあ喋り抜きで、って大橋さんが言って、そうすると喋りを抜いた瞬間に、同じ振付であっても一気にシリアスに映ったシーンです。喋っている時は結構微笑ましいんですね。なんてことのない日常を描いた、ちょっとほっとするような会話をしていても、そこから言葉を剥ぎ取るとシリアスにみえるっていうのは、セリフをハッキリ喋る演劇をやっている身からするとダンス特有の現象というか、踊り手と受け手の想像がこんなに食い違っているんだなあという驚きがあったんですけど、本番では言葉は使うんですか?


大橋 第2部で使おうとは思ってますが、稽古で使っているあれは覚えるために使ってるので、あれが振付そのものでもないんですよね。


綾門 記憶するためというか、自分の中の動きを呼び覚ますための言葉ですか。


大橋 それぞれが覚えるために自分なりの解釈をしているというか。俳優さんもセリフ覚える時に自分の経験と照らし合わせてああいうことはやると思うんですが、そんなにそれと変わらないですかね。それをそのまま言っているっていう。振付は最終的には…今僕がリライトしたテキストがあるんですけど、これも今やってる振付とイコールかっていったらそうでもないのかな、と。演劇でも上演台本と上演はイコールじゃないのと、大体同じような関係にあるのかな。


綾門 テキストを拝見しましたが、場所を喚起する言葉みたいなものが非常に多くて。それこそWEBインタビューの中で江東区の話をしている方も結構いらっしゃいますけど、作品だけをみた時には、もちろん今日は稽古場でみているから本番で実際にみる光景と全然違うわけですが、必ずしもこの振付だからこの場所っていうふうに、言葉と違って振付を結びつけることは難しいわけですが、なんとなくその場所の記憶みたいなものがほんのり伝わってくるんですね。上演台本と違うのは、とはいえ本番でも喋ることが大半だから、そういう意図を持つ演劇でもない限り、今いる場所は分かりますよね。それが振付だと具体的な情報の伝達率は落ちるので、事前にリサーチしたことがかなりあるかと思うんですけど、どれぐらい観客に伝えたいのか、あるいは伝わらなくてもいいのか、みたいなことが気になって。そこが興味深いところでもあるんですが、そのあたりはどういうふうに考えていますか。


大橋 リサーチしたことそのものを伝えようっていう気は全くなくて。それは伝える必要がないと思っているんです。ただその土地の記憶っていうかむしろ個人の記憶ですね、江東区ならそこの場所に行って、その人の記憶を思い起こしているんです。ふりを覚えるって話もさっきありましたが、新しい記憶をインストールするために、別の記憶をひっぱり出してきて、また組み換えていく作業がそれぞれダンサーの中にもあって、振り付けする過程にもあって、それは同じように、みる側にとっても行われている。自分の記憶として呼び起こすようなものであればいいのかなと思ってます。シリアスにみえるって話もあったんですが、何も言葉がないと抽象度が高いので、フックするところが人によって面白い場合もあるし難しい場合もある。それもあって今回は、テキストで具体的な場所を扱っている。それは記憶を呼び起こすためのきっかけとして、観客に準備してあるのです。作品の中で言葉を使うのもそういう補助的な役割であって、実際に歩いた場所の映像も具体的に出すので、それは直接的に伝わるところがありますから、それをきっかけとして個人の記憶を呼び起こしてくれればいいのかなと思ってます。第1部は言葉もないし映像もないし、それぞれの関係性が明示的でもないので、いちばん抽象度が高いパートだと捉えていて、とっかかりが少ないので引っかかる人も引っかからない人もいると思うんですけど。その後、第2部、第3部にもう少し振付ではない情報もあって、自分の中で観客が咀嚼出来るようになれば、と。更に第4部はカオスな状態になるかと思うんですけど、観客が今まで経験してきた記憶を呼び起こす、そこでまた再発見してもらえるようなパートになればいいんじゃないかな。今言ったようなことは、事前にパンフレットなどでも、周知出来ればと思います。


【上演時間の長さ、記憶、繰り返すこと】


綾門 私もまだ全容を分かっていない状態での質問なんですけど、これまでに演劇での経験はあるんですが、ダンスで5時間を超えるものは今回みるのが初めてなんですね。それだけの長さのものって結構珍しい気がして、大橋さんの作品の中でもここまで長いものは多分1本もないかと思うんですが、そこまで長いものを作ることが普段の作品作りの過程と違うところがあれば知りたいってことと、あとそこまで尺が必要だった理由についても伺っておきたいです。


大橋 尺の長さの必要性としては、ひとつの提示の仕方だけだと、不完全かなと。ひとつの主題を異なる振り付けで提示したいということもありますし、時間の経過というのが大事だと思っていて、時間が経過していくことで、みる側もやる側も変わってくることがあって。そこには普遍的な時間が流れるんじゃないかと思うんですよね。それで結果としてこれぐらいになったっていう。制約がなければもっと長い時間にしても良かったんですけど、色々制約はあるので、出来る範囲に落ち着いた感じです。振付自体はいくらでも今は出来ちゃうので、つくること自体は苦労してないです。ただどうしても、本番近づいてくると通しとかやんなきゃいけないので、この長さだと通しで稽古が終わっちゃうっていう笑。そこはリスキー。小屋入りしてからも返してる時間が無いよってことにはなるから。


綾門 5時間稽古があれば普通は一回通した後に色々と打ち合わせしてフィードバックして、返し稽古しても大丈夫な時間ですもんね。


大橋 まあでも基本的には止めることもないし、これはこうだったなっていう確認をするだけで、一部分だけ切り出してやることもほぼないし。全部やんないとあんまり意味ないんですよね。返したりもそんなにはしないです。


綾門 『ザ・ワールド 2019』と、私がみられていないのが残念なんですが、過去の『ザ・ワールド』との関係性についてお伺いしても良いでしょうか?


大橋 『ザ・ワールド』については2013年から長島確さんと共にやってきて、江東区なのはたまたま僕が江東区にいるので江東区っていうことなんですけど、その土地の記憶をリサーチして作る、っていうこと自体は変わってないですね。そういうやり方っていうのは『ザ・ワールド』だけじゃなく、ほかの作品でもやってきたことでもある。基本的にはなんらかの記憶をもとに作品を作るってことが多いです。人の話を聞いたり、言ったりしてきたことを元に作るやり方ですね。ただそれが振付の進化に貢献したのかという意味でいうと、あまり貢献できていなかったかなというのが反省として僕の中にあって。進化ということと関係の提示の仕方。リサーチしたことと振付の関係性っていうところまで提示するところまでは出来ていなかったので。その反省も含めてリサーチャーに新しい2人の方、映像作家の飯岡幸子さんと今日も来てますけど演出家で劇作家の星茉里さんに入ってもらって、ワークショップをやって。ダンサーも一緒に街に行って、一緒に経験するっていうことをやって。リサーチャーは背景を掘り下げてもらうこともやってもらったんですけど、ダンサーはダンサーで自分の記憶を掘り起こすということをやってもらって。それは結果として今、作品で密に出来ているのかなと思ってますね。


綾門 基本的な質問かもしれないんですけど、振付の進化っていうのは具体的にどういうことを指すのか伺ってもいいですか。


大橋 何が進化なのかは難しいんですが…やってきたことをやるわけですよね、どうしても。どんな振付でも大体そうなんですけど、特にバレエとかがそうですね。決められた振付があって、何か新しいものをクリエイトしているわけではないんですよね。僕がやりたいのは記憶をたぐっていく過程だったりその結果として現れる表象、形だったり動きだったりするわけですけど、見た目としては。内面的な変化もそうです。ただどうしても自分の方法や自分の記憶がベースにはなる。離れられはしないですけど、人の記憶を介在することで、深いところに行けるんじゃないかなと思っていて。リサーチャーが探してきた記憶、リサーチャー自身の記憶、ダンサーの記憶もありますけど、それが僕にとっては進化になるのかなあと。


綾門 戯曲は過去に使ったセリフを使うと一発でバレてしまうので、振付だとそうなるのか、なるほどなと思いました。


大橋 あ、そうか、セリフだと観客もすぐ覚えちゃうからね笑。


綾門 前回使った公演のセリフを今回使ったらすぐにあれ? ってなっちゃうから、どんどん使える言葉の引き出しがなくなっていくみたいなことがあるので、そこは結構大きく違うのかな、っていう気がしました。


大橋 ダンスであれば、あらかじめ記憶しているものをやる、というのは重要なことなのかなと思う。見たことのないものってわかんないですよね。わかんないから何回も何回も作品で繰り返す、それは作品を超えても繰り返している何かがあって、そこではじめて生まれることがある。観客に伝わるように、繰り返すっていうことによって、ダンス作品として受け止められるのかなと思ってますね。

(後半へ続く)
https://note.mu/ayatoyuuki/n/n905b513c13f5

大橋可也&ダンサーズ【ザ・ワールド2019】
公演詳細
http://dancehardcore.com/topics_theworld_2019.html


〈チケット予約はこちらから〉
7/27(土)14:00
7/28(日)14:00
http://dancehardcore.com/tickets_theworld_2019.html

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ayatoyuuki

キュイ主宰。劇作家。青年団演出部。 仕事のご依頼はcui99iuc@gmail.com にお願いいたします。 ◎連載 急な坂スタジオWEB 「余計なお世話です」 https://kyunasaka.jp/archives/6488

レビュー、劇評、インタビューなど

綾門優季が執筆したレビュー、劇評、インタビューなどを不定期に掲載していきます。
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