『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』(戯曲)

北海道胆振東部地震を受け、戯曲『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』の売上全額を、平成30年北海道胆振東部地震災害義援金(日本赤十字社)に寄付することを決定いたしました。

皆さまの安全と、一刻も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

綾門優季

※詳しい経緯についてはこちらのエッセイで触れています。
「災害について」
https://note.mu/ayatoyuuki/n/nc12e13653c82

※※※※※※※※

『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』

※注意

(ト書きについて、太字で記した部分は、そこで指示されている行動を守るだけでなく、行動を始める前に、任意の誰かが音読をせよ。それは、この作品にとっての予言であり、逃れられない運命のひとつとして機能するものである。音読する任意の誰かは、俳優でも、演出家でも、スタッフでも、観客でも、誰でも構わないが、必ず相手に呪いをかけるように、対象が自分の場合は自己暗示をかけるように口にすることを厳守せよ。誰に音読させるかは演出家の世界の捉え方に任せる。)

(この作品は、章が切り替わるたびに、出演者八名全員の役がリセットされ、新しい役を演じることになる。配役について、戯曲上に前の役の指定が存在しない場合、次の章に生まれ変わる際の配役については演出家が自由に決定してよい。演じる際は、前の役のイメージを踏襲していても、全くの別人のようでいてもよい。)

【第一章】

○登場人物

ホームレス
やかましい男
やかましい女
警官らしき人
半裸の男
着衣の乱れた女
ハサミ女
金に貪欲な男

○本編

   開場。ホームレスが隅っこで寝ている。
   十分後、やかましい女、登場。音漏れさせて音楽を聴きながら、スマホをイジっている。
   更に五分後、やかましい男、登場。

やかましい男 あれ、珍しく早いじゃん。
やかましい女 あんたはいつも遅いね。
やかましい男 あれ、あいつらは?
やかましい女 知らないよ。
やかましい男 またどこかでやってんじゃないの?
やかましい女 ありうる!
やかましい男 そこらへんの茂みとか、
やかましい女 いやさすがにそれはない。
やかましい男 カーセックスとか、
やかましい女 それは…ありうる!
やかましい男 あいつらマジ獣といっしょだからな。初体験が中学で、納屋とか、
やかましい女 ナヤ?
やかましい男 ほら、ド田舎の出身だからさ、静かで二人でバレないとこっつったら、限られてくるんじゃねえの。マジウケるよな。
やかましい女 え、ナヤって何?
やかましい男 ん、納屋知らない?
やかましい女 倉庫みたいなもん?
やかましい男 んー、まあ、うん。
やかましい女 ごめん、笑えなくて。
やかましい男 別に。じゃあ、まあ、先始めてますか。

   やかましい男、手持ちのスピーカーでそこそこやかましいEDMを流し始める。
やかましい女、それに合わせて見るに堪えない踊りを踊る。

やかましい男 相変わらず致命的に下手な、おまえ。
やかましい女 うるせえ、殺すぞ!
やかましい男 そんな状態で来月の本番迎えたら恥だぞ。生き恥だぞ。
やかましい女 テメエは出ないからって調子こいてんじゃねーよ。
やかましい男 は? こんな夜中に付き合ってあげてるだけでありがたいと思って? 感動の涙流して? 全米が泣いた、
やかましい女 やかましいよ、
ホームレス あの、
やかましい男 は?
ホームレス あの、もう少しだけ、遠くでやってもらえないでしょうか。
やかましい男 は?何?
やかましい女 ここ、あんたんちなの。
やかましい男 (ホームレスの胸ぐらを掴んで)みんなの公園、だよね?
ホームレス いやでも、眠くて、
やかましい男 あんたが移動すれば?
ホームレス ベンチ、ここにしかないんですよ。
やかましい男 は? 知らねえよ。
やかましい女 マジでありえないんですけど。
やかましい男 調子こいてんじゃねえぞコラ!

やかましい男はホームレスを殴打する。

やかましい女 あたしも参加していい?
やかましい男 おまえ、弱いからなあ。
やかましい女 やかましいよ。
やかましい男 じゃあ、まあまずは、パンチの練習から。

やかましい女はホームレスを殴打する。ホームレスを殴打する。ホームレスを殴打する。

  やかましい男、ホームレスを羽交い締めに。
やかましい女、ホームレスを蹴り続ける。
このあいだもEDMは鳴りっぱなし。

やかましい男 ったく、おまえは、手ぬるいんだよ。

やかましい男はそこらへんに転がっていた古びたバットを拾って、ホームレスを激しく殴打する。

やかましい男 オレにもやらせろよ。
やかましい女 えー、まだ練習中なんだけど。
やかましい男 これからは本番の時間だ。

  やかましい男、EDMを止める。

  開演。

  やかましい男、やかましい女の死角となる位置に、警官らしき人が現れる。

警官らしき人 (ひそひそ声で)僕は君という存在に心の底から飽きた。君は僕のことが他の誰よりも嫌。みんなは世界に馴染むことが出来ない。世界はみんなのことを弾こうとする。

夜の公園。やかましい男とやかましい女がホームレスを袋叩きにしている。

   ホームレスは大きな悲鳴を上げる。

ホームレスはナイフを取り出すが、容易くやかましい男に奪われる。やかましい男とやかましい女は、バットでホームレスを殴打する。そこで、警官らしき人が来る。警官らしき人はやかましい男からバットを奪い、ホームレスの足を叩く。やかましい男の比ではない速さと強さで叩く。

警官らしき人 まず足から駄目にしないと。さっきからずっとみてたけど、君たちは本当に要領が悪いよ。(ホームレスに)君もそう思っただろ? 叩くなら、ちゃんと叩いて欲しい、って。ちゃんとみてて。ほら、例えば、

警官らしき人がやかましい男の足も叩く。

警官らしき人 こうしないと。

警官らしき人がやかましい女の足も叩く。

警官らしき人 こうするんだよ。(叩く)こう。(叩く)ちゃんとみてた?

   やかましい男とやかましい女、足を引きずりながら慌てて退場。

警官らしき人 ほら、ちゃんとみてなかったでしょ。ちゃんとみてないからこうなるのに…。

警官らしき人は、やかましい男とやかましい女の退散した方向へゆっくりと向かう。

   ホームレス、警官らしき人と逆方向へ震えながらはけようとする。

ホームレスはスキをついて森の中に逃げこむ。が、すぐに SEX の最中であったと思われる半裸の男に突き飛ばされて、森から再度、登場する。半裸の男の相手と思われる、着衣の乱れた女も登場する。

着衣の乱れた女 何なの、こいつ、マジで。やっちゃって、マジで。この世でいちばんあたしが憎んでるのは SEX の中途半端なタイミングでの中断だからね、マジで? 土足でメシを踏みにじられたような気分になるわ。そんな輩はこっちから踏みにじってやるのがむしろ礼儀だわ。あたしたちの SEX を絶対に邪魔できない状態になるまで、完璧に再起不能になるまで叩きのめしてやるのがこの場での唯一の最善策だわ。あー、萎えたわー、マジで。いっそ男にとって大事な部分も再起不能になるまでの重い重い蹴りを、躊躇いなくぶち込んでおいてくれるとありがたいわ、マジで。
半裸の男 いいの? 俺、ブレーキ効かないよ?

半裸の男がホームレスの首を締め上げる。

ここは世界の棘。

ホームレスを殴打する。

ここは世界の塊。

ホームレスを殴打する。

ここは世界の縮図。

ホームレスを殴打する。

ここは世界の最も邪悪なところの代表。

ホームレスを殴打する。

そのことを忘れて生きている。

ホームレスを殴打する。

昨日と今日と明日がまるで繋がっていないような顔をして。

ホームレスを殴打する。

前世と今世と来世がまるで切断されているようなふりをして。

殴打する。

あらゆる出来事は起こった瞬間に消滅してしまうと思い込んで。

殴打。

半裸の男 ついてないなあ、今日。

   ハサミ女、舞台袖に姿を現す。

ハサミ女 自分がふるっている暴力も、まるで他人のものみたいだね。他人の受けた暴力は、何処までも他人のものでしかないのに。

   ハサミ女、舞台袖から姿を消す。

半裸の男が首を締めあげるのにも疲れたという様子で、ホームレスを雑に捨てる。

半裸の男 ガン萎えだよ、ガン萎え! ガン萎えの原因はすべてお前にあるんだよ。お前の腑抜けた顔にあるんだよ。お前の魂の抜けたような態度にあるんだよ。萎えるなあ、萎える。身体ぢゅうの力が誰かに丸ごと抜き取られたみたいだ…。
着衣の乱れた女 萎えた表情でわたしのことを見下ろすのはやめて、マジで?
半裸の男 もうやめにしよう、お互いに萎えた状態で元に戻ることは出来ない。
着衣の乱れた女 この世でいちばんあたしが憎んでるのは SEX の中途半端なタイミングでの
半裸の男  中断だろ? (ホームレスの方を向いて)じゃあこいつとでもやればいいじゃないか? こいつじゃなくてもいい、そこらじゅうを走り回っている犬とでもやればいいじゃないか? 生きていなくてもいい、そこらへんに転がっている犬の死体とでもやればいいじゃないか? そんなに自分の思い通りにいかないと気が済まないのなら。
着衣の乱れた女 こんな生きていても死んでいても特に変わらない男に抱かれるぐらいだったら、舌をかんで死ぬわ、マジで。
半裸の男 それで気が済むならいくらでもそうしてくれ。舌をかんで死んでくれ。あるいはこいつが生きていても死んでいても本当に変わらないのか実際に確かめてみてくれ。(皮肉っぽく)マジで。

着衣の乱れた女はホームレスに八つ当たりの暴力を振るう。ホームレスを殴打する。ホームレスを殴打する。ホームレスを殴打する。ホームレスを殴打する。殴打する。殴打。

半裸の男 (暴力をふるい続ける着衣の乱れた女をぼんやりと眺めながら)…気が済んだか? …まだ気が済まないのか? …いつまでもそうしていればいいじゃないか。

半裸の男は森の中へ去っていく。

   半裸の男、下手へ去る。

着衣の乱れた女 何の抵抗もないから張り合いがないなあ、雑草を踏んでる方がまだしもスカッとするわ、マジで。

着衣の乱れた女は、最後にタバコを吸い、ホームレスの腕に押し付けてから森の中へ引っ込む。

   十秒の間の後、ホームレスが話し始める。

ホームレス この公園がおかしくなったのはいつの頃からだっただろう。明確なきっかけはなかった、知らず知らずのうちに魔の手はあらゆるところに及んで、気がつけばこのような状態に成り果てていたのだ。俺のことを蔑む奴らは昔からいた。汚れていると罵る奴もいた。しかし最近、奴らは実際に俺の身体を痛めつけることでしか、軽蔑の意思を確認出来なくなったみたいだ。小さな無数の傷が俺の身体ぢゅうを覆っている、どれも最近ついた傷だ。いびつな傷もあれば綺麗な傷もある、その傷のひとつひとつが俺の記憶と細かく連動している、俺は身体を洗う度にその記憶の洪水に襲われ、その記憶の洪水だけは決して洗い流すことの出来ない質のものであることを悟り、俺の感情とは繋がっていない涙を流す。その涙は生理的なものだ。涙を流すことでしか、今日が終わり、明日を迎えるということに実感を持てなくなってしまった。今日が終わらない。今日はまだ涙を流していない。

ハサミ女が現れ、ホームレスの髪に霧吹きで水をかける。

   ホームレス、何が起こったかわからずに振り返る。
   ハサミ女、はにかんだような笑顔をみせる。
   ホームレスは霧吹きの水を身振りで拒む。

ハサミ女、ハサミを出し、ホームレスに異様な距離まで接近する。ホームレスは抵抗をやめる。

ハサミ女 濡れた髪もいいね。宝物にするね。

ハサミ女はホームレスの髪を切ろうとする。金に貪欲な男が現れ、ハサミ女を殴打する。

   金に貪欲な男、ハサミ女を殴り倒し、財布を奪う。

金に貪欲な男 あ、財布とか持ってるんだ? 持ってないような顔してるからドキドキしたよ。札もちゃんと入ってるじゃん、一万円札は…ないか。小銭は…1 円玉多いなあ。まあまあ、でも最低ラインはクリアかな。もう少し少なかったら、もう一発殴ってるところだよ。

ハサミ女、財布を取り返そうと手を伸ばした瞬間、金に貪欲な男、ハサミ女を反射的に殴打する。先程よりも容赦なく。

金に貪欲な男 あーあ、殴っちゃった。もう殴らなくて済むと思ったのに殴っちゃった。君のせいだよ。体格を考えて? 力の差を考えて? どうして僕に一瞬でも勝てると思ったの? 例えば僕が逆上して、君の大事なハサミを奪って、君を刺してしまうかもしれない。僕が暴力に興味がなくて本当に良かった、性的指向が異常じゃなくて本当に良かった、僕はただ金に貪欲なだけだ。君に興味なんて一ミリもない。君が高そうな服を身につけていなくて本当に良かった、危うく身ぐるみを剥いでしまうところだった。そんな安っぽい服、要らないから。本当に良かったね。(ホームレスを一瞥して)うーん、君は何の価値もなさそうだね。一瞥をくれる価値も服をはぐ価値も殴る価値もなさそうだね。君と出会ったことは忘れることにするよ。じゃあね。

   金に貪欲な男、退場。
   ハサミ女、続いて退場。
   五秒後、金に貪欲な男の悲鳴が奥から漏れ聞こえる。
   ハサミ女、金に貪欲な男の身に着けていたものをいくつか持って、登場。

ハサミ女 みんなの髪をなるべく切ってあげなきゃ。みんな可愛くしてあげなきゃ。(ホームレスに気付く、金に貪欲な男の身に着けていたものをホームレスの前に置く)君にぜんぶあげる。プレゼント。ハッピーバースデートゥーユー。ハッピーバースデートゥーミー。
ホームレス …ぜんぜん今日誕生日じゃないから。俺の誕生日は来月だから。
ハサミ女 わたしたちは昨日の自分をハサミでバラバラにして、今日生まれたの。今日の自分をハサミでバラバラにして、明日生まれるの。毎日髪を切って、毎日生まれ変わるの。毎日新鮮な気分で、毎日心から祝うの。毎日誕生日。絶対毎日誕生日。ハッピーバースデートゥーユー、
ホームレス やめろよ、
ハサミ女 ハッピーバースデートゥーミー、
ホームレス 歌うのを。
ハサミ女 ハッピーバースデーディア? ディア?
ホームレス 誰かに歌を、
ハサミ女 ディア…?
ホームレス 捧げるのをやめてくれ。
ハサミ女 はっぴば

   半裸の男、登場。
   すぐに倒れて死ぬ。
   着衣の乱れた女が逃げてくる。
   それを追うようにして、警官らしき人も登場。

着衣の乱れた女 なんで? なんで? なんで?

警官らしき人、着衣の乱れた女を殴打する。

ハサミ女 ディア…?

ハサミ女を殴打する。

   ホームレス、ぼんやりと警官らしき人を見ている。

警官らしき人 ここは世界の棘。ここは世界の塊。ここは世界の縮図。ここは世界の最も邪悪なところの代表。そのことを忘れて生きている。昨日と今日と明日がまるで繋がっていないような顔をして。前世と今世と来世がまるで切断されているようなふりをして。あらゆる出来事は起こった瞬間に消滅してしまうと思い込んで。
ハサミ女 自分がふるっている暴力も、まるで他人のものみたいだね。他人の受けた暴力は、

警官らしき人はもう一度、ハサミ女を殴打する。

警官らしき人 (世界への宣言のように)何でもいい、叩くのは何でもいい、人でも人じゃなくてもいい、生きていても死んでいてもいい、憎むべきものでも愛すべきものでもいい、感情が動かなくてもただただ叩くのだ、君でもいい、あなたでもいい、僕に関係しないすべてを、僕の目に入るあらゆる害虫を。

   警官らしき人、ホームレスへ近づく。

ホームレスは疲れきって、その場から動けない。

   ホームレス、力が萎えて、その場に座り込んでしまう。
   やかましい男とやかましい女、這々の体で登場。

やかましい男 同じ場所だ。
やかましい女 なにこれ…。

   警官らしき人、やかましい男とやかましい女に気づく。

やかましい男とやかましい女 …どうぞ。(ホームレスに視線を送って)

  やかましい男とやかましい女、我に返ったように一目散に逃げ去る。

ホームレス …どうぞ。

警官らしき人は、バットを改めて強く握る。ホームレスを殴打する。

警官らしき人 (天に向かって)ほら、ちゃんと見てなかったでしょ。ちゃんと見てないから、こうなるのに!

   警官らしき人、退場。五秒後、悲鳴。

【第二章】

○登場人物

乗客1《記憶保持者》(前の役:やかましい男)
乗客2
乗客3(前の役:警官らしき人)
乗客4
乗客5
乗客6
運転手
バスジャック犯

○本編

   バスの中。乗客1、目を覚ます。

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『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』(戯曲)

ayatoyuuki

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