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ヨーロッパ芸術祭めぐりの旅でのあれこれ 2017

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アート&カルチャー系のライターがゆく、ヨーロッパ芸術祭めぐり。 2017年は芸術祭のミレニアムイヤー! アテネ&カッセルの2会場で開催中のドクメンタ、ミュンスター彫刻プロジェク… もっと読む
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#芸術祭

『世界の現代アートを旅する』アート旅のすすめ(電子書籍を出版しました)

「世界のアートシーンをもっと知りたい」という志あるアート学生さんたちにぜひ読んでもらいたいという想いで、電子書籍を出版しました。 内容はこのnoteで「ヨーロッパ芸術祭めぐりの旅でのあれこれ2017」というタイトルで連載していた、2017年のアート旅日記を、大幅にリライト&新たなコンテンツを加えたものです。 素敵な表紙絵は、刺繍アーティストのokada marikoさんにご提供いただきました。Kindl Unlimited会員は無料で読めます。 おすすめできるポイントと

夏の軽井沢のようなミュンスターで、アートをめぐる。そして、芸術は芸術を目的にして何がいけないんだと自問した

ドイツ北西部ミュンスターの夜は静かだ。朝は鳥のさえずりで目を覚ました。よく晴れている。日課にしているnoteの記事を書いてしまった後、朝食を食べていそいそと出発した。朝からワクワクが止まらない。アートに出会いたいという思いが、こんなにも自分を駆り立てていることに、我ながらちょっと戸惑う。何がそうさせるのだろうか。 10年に一度開催されている彫刻プロジェクトの、今回の参加アーティストは34組。複数の作品を展示しているアーティストもいる。加えて、公式マップ上にはパブリックコレク

ふりやまぬ雨の中、世界で一番住みやすい街、ミュンスターに到着

ケルン大聖堂に別れを告げて、やってきたのはドイツ北西部にあるミュンスター。ここでは1977年から、10年に1度、ミュンスター彫刻プロジェクトという野外彫刻展が開催されている。彫刻家のヘンリー・ムーアが芸術と公共のあり方に問いを立てたことで始まったプロジェクトは、今年、2017年で5度目の開催となる。 ケルンで降っていた雨も、鉄道に乗ってミュンスターに移動する間に晴れ間が見えるのではと期待していた。 ところが、さらにどしゃぶりの雨。ミュンスター中央駅のすぐ目の前に設置されて

おおらかで品のいいデザインは、個性ある人や都市をありのまま受け入れる器になる

ドクメンタ14 アテネの会場をめぐりながら、もっと個々の作品と対話をして、それぞれの抱え持つコンセプトを味わえたらとは思うのだけれど、なんだかどこかに「グループ展だから」と諦めてしまう自分がいる。個展ならそのアーティストの問題意識や社会に投げかける眼差し、それをどう昇華させようとしているのか、プロセスも含めて、作品コンセプトがよく見える。しかし、グループ展では、基本的には1作家1作品なのだし、1作品だけを見たのではわからないことの方が多すぎると思ってしまうからだ。 そんな自

小さな肯定感で社会のひずみを乗り越えていく強さは、むくむくのファーの中にだって存在する

生きぬく力と、アートを生み出す根元的な力は同じ。私にとってのアートは、魂の光から生まれ出たものだ。そういう意味では、人間皆がアーティストだと言えるし、アーティストだからといって、ドクメンタのような国際展に選ばれるような作品を作れるとは限らない。要はつくっている本人が、作品をどう研ぎ澄ますのかが問題なのだ。そして、今回のドクメンタ14のディレクター、アダム・シムジックは、どんな風に研ぎ澄まされた作品を選んでいるのだろうか。 「47会場のうち、パフォーマンスのみの会場も多いから

アテネの街に溢れるパッションと、ドクメンタがみせる現代アート

やっぱりアテネの人たちは3人に1人の割合で、ノーヘルでバイクに乗っている。現代アートの国際展 ドクメンタのメイン会場のひとつベネキ美術館(Benaki Museum)に向かい歩いていると、大型バイクを乗りこなす、格好のいい男たちとすれ違う。ギリシャは自由と責任の国。自分も男だったら、ノーヘルでバイクに乗りたい。 アテネに到着してから、初めて向かうドクメンタの会場がベネキ美術館なのだが、THISEIOというメトロの駅から歩けると思ったら、実はかなりの距離があった。適当に方角を

ギリシャの空気を吸い込む ドクメンタは本当に開催中?

アテネに到着。予約していたゲストハウスが、「到着時間を事前に知らせて」とか「別の場所で鍵を受け取って」とか、うるさく連絡してきていたのを、横目でスルーしていたせいで、入り口で少々待ちぼうけしてしまった。海外旅行あるあるなので、気にしない。 飛行機から眺めるギリシャの海はエメラルドグリーンで、空は水色、陽の光は底抜けに明るく、照らされている全てのものがほんのりと白く発光しているようだ。人々は人懐っこく優しく、彫りが深くて美しい人が多い。日本人どころかアジア人を見かけない。

まだ辿りつかぬ。アテネを目指して、移動につぐ移動

あまり事前リサーチせずに思いつきで決めた1ヶ月の欧州芸術祭めぐり。最初の誤算は、ギリシャ・アテネで開催中のドクメンタ14の会期だった。 いつもはドイツ・カッセルで開催されるドクメンタだが、今年はカッセルに加えてアテネも会場都市に指名されている。サテライトやフリンジなどではなく、コンセプトにおいてカッセルとアテネは全く等価に扱われるという。そして、アーティスティックディレクター、アダム・シムジックが掲げるドクメンタ14のテーマは「アテネから学ぶ[Learning from A

友人への手土産と旅で読む本

2017年は芸術祭のミレニアムイヤー。欧州ではドクメンタ、ミュンスター彫刻プロジェクト、ヴェネツィア・ビエンナーレと一生に一度は観たい芸術祭が今年いっぺんに開催されている。 2011年からアートやカルチャーを中心に、フリーランスで編集/ライターをしてきた私だが、実は上に名をあげた芸術祭のいずれも、未だ訪れたことがない(理由は貧乏暇なしだったから)。 今年はちょうど仕事の転機と重なり、時間がつくれたので、1ヶ月をかけて欧州で開催されている4つの芸術祭とアートスポットを、今夏