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リノベーションは遥かなる願望から

 設計事務所をしているのに、自分の家のことはいつも後回しだった。

 私と夫が住む家は「桜台ビレジ」と言って、世田谷美術館を設計した内井昭蔵が設計し、1969年に建てられたマンションだ。
写真にあるように少しずつ角度を変えたバルコニーが特徴的な美しいマンション。春には桜が咲き誇り、地域の方が散歩に足を運んでくれる。

 そんなマンションが気に入り、2010年から住み始めた。築古ということもあり、お手頃価格ではあったが、当時はまだリフォームローンが今のように住宅ローンと同等金利ではなく、(そもそも、住宅ローンも2%台で借り時だと言われていた・・・ガーン・・・)さらに買った部屋は6年前にリフォームをしており、そこまで傷んでいなかったので、とりあえずは、そのまま住むことになった。

 2011年には「ショセット建築設計室」として独立して事務所を構えることになり、リビングの一角を仕事スペースにした。その後、マンション1階の店舗を借りられたので、現在は居住用と書庫&来客用のみ。
マンションが古いということは、暮らす上では色々と覚悟があり、そのうちの一つは窓だった。

 桜台ビレジは東側・西側が全面窓である。それゆえ、一日中明るく、天気や季節を感じることができ、いつも私たちは癒されている。しかし、当たり前だけど、気密性の低いシングルサッシの窓からは、夏は太陽の熱線で灼熱地獄、冬は冷気がどんどん入ってくる。ちなみに、結露した水分まで隙間風のおかげで蒸発していく(笑)

 エアコンの風が苦手で、ほとんど使わない私たちには過酷な仕事場だった。
笑っちゃうけど、夏は水着を着て、暑くなったらバルコニーで水浴びしてからまた一仕事、っていう日もあった。気化熱で涼しいんだよな~。
 冬は全身毛布にくるまり、カイロを身体に貼ってしのいだ。

 建築家、内井昭蔵は何もこんな酷い住宅を設計した訳ではない。
 夏は、日差しを遮ることができるよう、各バルコニーにはオーニング(テント時の庇)が広げられるようになっていた。(私たちの買った部屋は撤去されていたが、残っている住居も多い)
 冬は、各窓には障子がセットだった。障子があれば、多少なりとも寒さが軽減できたはず。今はほとんどの住居で残っていないかもしれない。

 そんな、色々と大変な思いをしながらも、この家との暮らしはとても豊かでとても刺激的だった。暇になると、リノベーションするなら・・・と図面を書くのも楽しかった。

 それから、2013年に1件、2014年に1件と桜台ビレジでお客様のリノベーションの仕事をする機会に恵まれる。(詳しくはこちら
 この2件のおかげか、リノベーションしたい熱は一時収まり、沈静化していた。

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