わたしをライターにしてくれたあの人へ。

6年くらい前、あなたとシンガポールのTWGのカフェでお茶しながらおしゃべりしたことを、昨日のことのように思い出します。

当時わたしはダンナさんの仕事の都合でシンガポールに住んでいて、そしたら偶然あなたのご主人もシンガポールに駐在されていて。ちょうどご主人に会いにシンガポールにいらしたときにお茶したんですよね。

でも、あれが、最後になるなんて、思ってもみませんでしたね。

*****

あなたにはじめて会ったのは、わたしがまだ会社員だった27歳くらいの頃。

当時のわたしは会社を辞めてライターになりたいと思っていた。でも、どうやったら実現できるのかわからなくて。そんなときに出会ったのがライター募集の求人広告だった。

フリーペーパーの運営会社が新たに地域メディアを立ち上げるから、ライターを探しているとのこと。未経験だけど、ダメもとで応募してみた。

数日後、連絡があり、面談に行くことに。そこで出会ったのが、その会社の社長であるあなただった。未経験なうえに副業としてライターの仕事をしたいと図々しいわたしを、なぜかあなたはすんなり採用してくれた。

ネタの探し方、取材の仕方、記事の書き方……ライターとしての基本のキはすべてここで学んだ。会社の昼休みに電話やメールで取材して、家に帰ったら記事を書いて、それを毎日続けて、少しずつ自信もついた。

あなたはいつもおおらかで、わたしは怒られたことは一度もなかった。未経験でできないことだらけだったのに、黙って見守っていてくれた。どんどんいろんな仕事を任せてくれて、経験を積ませてくれた。

ようやく会社を辞めることができてフリーになったら、編集長というポジションも任せてくれた。編集長になったことで、出会いも広がった。そういう場に連れて行ってくれたのもあなただった。

シンガポールに行っても、日本に帰ってからも、いま現在も、ライターとして編集者として仕事を続けることができている。すべてあなたのおかげ。

*****

日本に帰ったら、また一緒にお仕事したい。そう思っていたのに、帰国してから忙しくてなかなか会いに行けませんでした。

ようやく落ち着いて、そろそろ会いに行こうかと思っていた矢先のこと。あなたが亡くなった、と連絡を受けたのです。

お葬式であなたの遺影を見て、涙が止まりませんでした。

いろんなことを思い出しました。お酒が大好きなところ。社員みんなに愛されているところ。細くて華奢な体型なのにバイタリティがあるところ。2人のお子さんを育てるママとしての顔。わたしがダンナさんと付き合いはじめたときも、結婚するときも喜んでくれたこと……

そんなあなたにもう一生会うことができない悲しさと、ちゃんと感謝の言葉を伝えることができなかった悔しさでいっぱいでした。

あなたがこの世からいなくなって、4年ほどが経ちました。

こうやって文章を書いていると、ふと、あなたのことを思い出します。あなたがきっかけをくれたから、文章を書くことに自信を持つことができている。いまのわたしがいるんだと。

いつかそっちの世界で出会えたなら、心からの感謝を伝えたいです。

そのときまで、この仕事を一生懸命がんばります。見守っていてくださいね。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?