パンを売る少女。

わたしはパン売りの少女。

来る日も来る日も焼きたてのパンを並べては売る。

街にはパン屋はここにしかなかったから、毎日たくさんのお客さんが来て、焼きたてのパンを出しても出しても終わりなく買っていく。

焼きたてのパンは柔らかい。積み重ねればあっという間にぺちゃんこになる。

そんなことはわかっていても、並べる暇もないくらいお客さんが次から次へとやってきては買っていくものだから、

「さっさとしろ!パンが冷めちまうだろ!」

パン焼き窯の前で親方が怒鳴る。

「早く持ってきてちょうだい!うちでおなかをすかせた子どもと亭主が待っているのよ」

店頭ではお客さんが怒鳴る。

「だいたい、そんな風にちんたらちんたら、ご丁寧に並べてやがるからおせえんだ!さっさと上に積み上げちまえばいいんだよ!」

熱いパンに手がやけどしそうになる。

「なあに、ちょっとぐらいなら、つぶれる前に売れてくさ。だからさっさと積んじまいな!」

熱いパンを積み上げたら、パンはすぐにぺちゃんこになってしまうだろう。

そんなことを思いながらパンを積もうとした瞬間、

「こら!なにをやってるんだ!!そんな風に置いたらせっかくの焼きたてパンががつぶれちまうだろう?!」

大きな声で体格のいいひげ面の紳士に怒鳴られた。

「す…すみません…」

わたしが蚊の鳴くような声で謝ると、なおも紳士は畳みかけるように怒鳴り散らした。

「だいたい、この店はいつもいつも、商品がつぶれててそれが気に入らないんだ。何度も言ってるのに何回言ったらわかるんだ!」

そんなことを言われたのはこの日が初めてで、ああ、そうか、わたしがお休みの日に働いているポーラおばさんが言っていたっけ、うるさい客がいるのよ、と。

「だいたいだな」

なおも言いつのる紳士の剣幕に、わたしは思わず涙が出てきた。

「わたしだけが悪いんですか?全部わたしのせいなんですか?わたしはただ、一生懸命出来立てのパンを並べているだけなのに…」

そこまで言うと、今まで抑えていたものが一気にこみあげてきて、わたしはその場でわあわあと大きな声を上げて泣き出した。

あまりにも大きな声で泣き始めたものだから、親方も飛んできて、

「どうした?やけどでもしたのか?それともなにかされたのか?」

とわたしをなだめ始めた。

紳士は大慌てで、口をもごもごさせながら、

「別にお前さんだけが悪いって責めようってわけじゃなかったんだ」

と言い訳みたいに言いながら、そそくさと帰って行った。

わたしは、と言えばどうにも抑えていた涙が止まらずに、ただひたすら、わあわあと泣き、困り果てた親方に帰るように言われてもなお泣き止むことができず、家に帰った。

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