儚いひと。

あなたがいないと私はダメになる。これからどうすればいいのかすら、自分ひとりでは決められない。

そう泣きじゃくる私は、彼がそばにいるのを知っている。
彼は私の涙に戸惑い、おろおろしているのを知って、私はますます泣きじゃくる。

お願い、どこにも行かないで。そばにいて、行かないで。

彼は戸惑いながらそっと私の髪に触れる。

大丈夫。今までだってずっと君は自分でちゃんとやって来たじゃないか。僕はそれを知ってるし、これからだって僕がいなくても大丈夫。だから泣かないで。

わたしは彼の手をそっと握り、涙を流す。

お願い、どこにも行かないで。あなたがいないと寂しい。寂しくてたまらない。

彼は私の手を握り返し、そのまま私をそっと抱き寄せる。

そんなふうに想われていたなんて知らなかったよ。わかったから、大丈夫。ここにいるから。もう、どこにも行かない。約束だから。

そう耳元で囁くと、彼は私を抱き締めた。

嬉しい。ありがとう…ありがとう…本当に嬉しい。

私は彼の腕の中で、安堵に包まれて涙を流し、彼がもうどこにも行かないのを確信して幸せと喜びでいっぱいになる。

いつまで泣いてるの?もうずっとここにいるから。大丈夫だから。

笑いながら彼が私の顔を覗き込む。

私はそれでも泣き止むことが出来ず、溢れ出す涙が頬を伝うのもそのままに泣き笑いをしながら彼を抱き締める。

僕はここに、いつでも君の中にいるんだよ。

彼の声が優しく耳に残る。

彼の声と温もりに包まれて、私はうっとりと目を閉じる。

夢みたい。幸せな夢を見ているみたい。

頬を伝う涙に指先が触れ、目が覚めた。
ああ、やっぱり、夢だったのか。
目覚めと同時に私は、“現実にはいない”彼を失ったことの喪失感でいっぱいになり、涙を流した。
夢の中で感じた温もりは、確かに存在した温もりだったのに。彼の体温はまだこの手に残っているのに。

彼は言っていた。

いつでも君の中にいるんだよ。

ぼんやりとした微睡みの中、彼にもう一度会いたくて、私は再び目を閉じた。

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