『跡を消す/前川ほまれ 』

 ひょんなことから、特殊清掃業でバイトを始めることになったフリーターの主人公。現場に残った腐敗臭や遺体の跡に群がる虫などに、逃げ出しそうになりながらも、なんとか踏みとどまる。
そこで出会う依頼主や、惨憺たる現場から浮かび上がってくる故人の生きた跡を目の当たりにした時、彼が見つけたものは。

 最近耳にするようになった、特殊清掃業。人が亡くなったあとの部屋を片付ける、と言えば簡単だが、亡くなり方次第では、その清掃はかなり大変なものになるのは想像に固くない。孤立死や、自殺など、その痕跡を消す作業は、考えただけでも気分が悪くなりそうだ。

 淡々と描かれる清掃場面や、遺品を片付けていく様子を読むうちに、主人公と一緒に、死に向き合っていく自分がいた。
そして、どれも生前の姿を思い、遺された側の気持ちを知るにつれ、重くなった心は、部屋が綺麗になるのと同時にスッキリと軽くなった。
死を悼むとは、こういうものなのかもしれない。

登場人物それぞれの抱える、誰かの死とその別れも、それだけで短編になるくらいに作り込まれていて、とても読み応えがあった。

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