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もっとちゃんと”ありがとう”って言えればよかった。

1.戻れないからこそ

世の中は相も変わらず後悔することばかりで溢れかえっていて、
だけど私は基本的に楽観的な性分だから、
余り後悔はしていないし、しないようにしている。

だけれども、今回ばかりは気持ちを引きずり倒し、出来ることならば戻りたい、そしてもう一度やり直したい、なんて思っている。

仕方のないことだし、そんなことは不可能だから、やっぱり考えたって仕方のないことだけれども、戻りたい。

でも戻ることは出来ないからこそ、
人は後悔をして、繰り返さないようにするのかもしれない。

あの日、もっとちゃんと愛が伝わるように、
ありがとうを、言えれば良かった。


2.人生で最後だからこそ

それは、rakuten fashion week (旧称:東京コレクション)のショーでの出来事。

そのショーは、一般観覧が出来る、珍しいショーだった。
だから私は家族に見に来て欲しくて、
事前に連絡をしていた。
そしたら、喜んで行くよ!って返信が来た。

考えうる限り、私の人生で最後だろう。
普通、ショーなんて観ようとしてもなかなか観れるものではないのが一般的。

そう、これは私が、ちゃんと親にありがとうと伝えられなかった、と言う話。


3.取り巻く環境と心境の変化

イタリアから帰国後
(イタリアにモデルとして2ヶ月間挑戦していて、帰国後1ヶ月弱)の私は、
大きく変化しつつある環境に、忙しさと充実感で毎日があっという間に過ぎていく感覚の中にいた。

現場のバイトは早ければ9月から職長(一つの現場の頭)になるかもしれない。
コンビニは日曜日限定で店長業務をすることになるし。
モデル業も今まで全く決まる気配すらなかった東京コレクションが何本か決まり、フィッティングやらオーディションやら、、、。

全てが出国前よりレベルアップしたせい(おかげ)で、もうほんとに忙しい。
そして仕事が終わってから友人や親友に会う時間を作ったり、勉強を兼ねて夜の街に繰り出したり。

睡眠時間は7時間絶対に取りたいタイプの私なのに、毎日4、5時間ほど。
日中はとめどなく流れ落ちる汗を拭いながら現場仕事をして、
週に1回しかない店長の引継ぎを必死で覚える。
仕事終わりの足で、キャスティング(オーディション)に行く。
毎日夜は死んだように、気絶に近い形で寝る。

なのに心は疲れている気がしなくて、
毎日全力投球をかましていた。

確実にモデルとしてレベルアップしているのが撮影データや撮影の中でわかり、心が躍り、
ショーの本番をまだかまだかとワクワクしていた。

本番が終わった後、母や父と会って、写真を撮ったり、抱き合ったりする描写を
得意の妄想癖で思い浮かべ、
涙が溢れそうになったりもした。

兎にも角にも、楽しみだった。
勝手に感動してくれるものだと、思っていた。
そして与えられるものだと思っていた勘違いもあった。

気が付かなかった、忘れていることに。
イタリアに挑戦できたこと、たくさんの支えがあったこと、
だからこそ、私はできたこと。
痛感して忘れないようにしたはずなのに、
知らぬ間に、そいつらは隅の方に追いやられていたんだよね。

だから、何時の何の新幹線で向かったらいい?とか
夜ご飯一緒に食べれるの?とか

私のために来てくれているのに、
時間を作って、お店や仕事を(母は自営業である)休んで、来てくれているのに、
鬱陶しく感じてしまって、冷たくしてしまった。

反省して、ごめんってLINEを送ったけれども
最近母の店に密着しているテレビのADさんに聞いたから大丈夫だよ、と言ってくれた。
本番はその人も一緒に行くからね、
だってさ。

これを言われた私は、
放送されたら知名度が上がるかもしれない、
何かきっかけになるかもしれない!
なんてくだらないことを考えてしまっていた。

モデルとして売れることがくだらないの?
そんなわけもないが、本当にくだらない。

大切なもの、大切にしたいもの、ありがたみ。
全部おざなりにしてまで、売れればそれでいい。
そんなの、おれじゃないし、望んでない。

いつから私は、自分に有利に働くか、とか
自分本位なことばかりを考えていたのだろう。
モデルとして売れることなんかより、
親とか友人を大切にすることの方が
ずっとずーーっと大切だって思っていたのに、
気がついたはずなのに、なんで忘れていたんだろう。

この時、本番前の私は、微塵程も気がついていなかった。


4.本番当日

自分の衣装や周りのモデルを見て、高揚する。
レベルの高い現場。
ここ最近、私は調子がいいからこそ、
自分の現在地点が何処であるかを、ここで測ることができる。

そう思い、私は興奮していた。

リハーサルを終え、本番直前。
カメラマンさんが、
「アユマにテレビのAD来てるから
 本番終わったら行ってあげて。」
と声をかけてきた。

それで私は母がすでに会場にいることを知った。

安心したし、気合が入って、会場を闊歩した。

歩いている時、誰が何処にいるかを気がつく人もいるらしが、
私は全く気が付かなくて、ただぼんやりと正面を向いて、歩いていた。

頭はすっきりとしていて、心臓の音すら聞こえない。
眩しいライトとか、向けられるカメラしか見えない。
歩き終わった時に思う、2度目の感想。
(私はこのショーが人生で2度目のショー)

はぁ、もう終わっちまったよ〜!!!
でも楽しかったなぁ!

フィナーレはモデル全員が感覚を詰めて歩く。
辺りがさっきよりも鮮明に見えた。

無事本番が終わって、ディレクターの大介さんが、

「モデルの人たちは、会場に行って話をして
 きても良いぞ!」
と言ったから
ファッションショーなんて全く無知であろう母が先に会場を出ないように真っ先に向かった。

なかなか見つからなかったのは、
予想していた椅子の位置とは全く違うところに座っていたからだった。

正直、なんて話しかけたか分からない。

ありがとうと言ったかもしれないし、
言ってないかもしれない。

写真を撮ろう!そう言ったのは覚えていて、
嫌だよ〜と言う母と父に半ば強制的に
スリーショットを撮ってもらった。

ほのかにお酒の匂いがして、顔が赤らんでいた。
だからと言って別に気にせず、
でもお酒を飲んでいるのは少し嫌だった。

忘れて欲しくなかったから。
今までの私の集大成を、ちゃんと見て欲しかったから。

母と父はお酒には強い方だし、
そんなに酔っ払ってくるはずもないのは
考えればわかることだし、そんなのは当人の自由なのに。

その後、最近密着しているテレビのADさんに挨拶して、
そのままインタビューを受けた。

たくさん質問を受けたけど、忘れた。

「お母さんやお父さんに何か言いたいこと
 ありますか?」

って質問が来たのは覚えていて、
でも、なんて答えたか忘れてしまったけど、
トゲのあることを言ってしまったと思う。
「うーん、もう少し痩せて欲しいかな笑
 心配だし」
なんてクソみたいなこと言ったと思う。
ほんとクソだよ、最低だ。

今、こうやってこれを書いている時なら
冷静になんとでも言えるのに。

その時、興奮していたし、感謝を隅に追いやっていた私は、
ありがとうの、「あ」すら出てきてないはず。

誰のおかげでここまで来れて、
誰が支えてくれて、応援してくれて、
何忘れてんだよ!!!
ふざけんじゃねえよ。

自分のこと、基本的に好きだけど、
これに気がついた時、心底嫌いになった。

そしてインタビューの途中で、父が来て、
少しだけ、話しをした。

「お父さん、お酒飲んでる?」
「なんで??」
「いやさ、顔赤いし、
 ちょっとお酒の匂いするし。」

父は土木系の仕事をしているから、
日焼けをするのは知っているし、なんの配慮もなく言ってしまった。

そして、母と父は、その後すぐ帰ってしまった。

その様子に何となく違和感を感じながら、
来てくれてありがとうってLINEをした。

明日、どっか行こう!とも。

でも返信は

「ごめんね、明日は朝ごはん食べて
 すぐ帰るから」

何処となく避けられているような気がして、
それと私の感じた違和感が擦り合わされていく。

「じゃあ朝ごはんでもいくよ!
 朝早くても遠くてもいいよ!」

「んーん、大丈夫だよ、疲れてるでしょ
 ゆっくり休みな」

おかしい、こんなはずはない。
そう思っていたら、追加で返信が来た。

「お父さん、歩真に会いたくないんだってさ」


5.「…。」

そんなこと言われるなんて思ってもいなかった。
意図せずに、応援してくれていた大切な人を傷つけてしまった。

もう気がついた時には手遅れで、どうしようもなくて、
私は謝ることしかできなかった。

感謝が、配慮が、足りなかった。
というより、無かった。

なんてことをしてしまったんだろう。

もしかしたら、インタビューの内容を聞いていたのかもしれない。
来たことも見たこともないファッションショーに、どうしたらいいのか分からず、
何を着ていけばいいのか分からず来たのかもしれない。
日焼けを気にしていたのかもしれない。

物事には、言い方ってものがある。
傷つけない言い方が。
いつも気をつけているはずなのに、
それはあくまで”はず”であって、咄嗟に出なきゃ意味がない。

言葉が出なかった。
反論の余地すらなかった。

こんなにも自分のことばかり考えていたなんて。

交通費をかけて、時間をかけて、
わざわざただ私が何秒か歩くだけの催しを観るために
仕事を休んで、忙しい合間を縫ってきたのに。

真っ赤になってしまったのは私の方だった。

そこでやっと気がついた。

もしかすると私はあの時、
精一杯の感謝を伝えられていないし、
伝えようともしてないじゃないか。


6.失ってから、失ったから

人は後悔をする生き物で、
記憶や感情があるから、過去を遡り後悔をする。

まともな親孝行なんてしたことがなかった。
恩返しなんて、当然になかった。

結果が恩返しだと思っていた。

でも、親はそれを望んでいなかった。

望んでもないものを勝手に恩返しと名前を付け、強引に渡していた。

じゃあ、親が望んでいることって何だ。

今ならすぐわかる。
だっていつも言ってるもん。

「健康で元気に生きてさえいてくれれば良い」

そう言ってくれてた。

「結果がでなくても良い。
 その時はここに帰ってきな。
 全然恥ずかしいことなんかじゃない。」

なんてことも言ってた。

陰ながらいつも見守って、応援してくれていたんだった。

彼らの心配は、息子が無事であることだった。

それなのに私は、底辺の底辺みたいな回答や、
言葉をぶつけて、傷をつけた。

過去には戻れない。
だから未来を今変えるしかない。

一回ちゃんと落ち込んでから、
やっと正面を向いた私。

はぁ、私はまた勘違いしていたな。
誤った方向に突き進むところだった。

モデルとしての結果なんか、
どうでも良いんだった。

モデルとして、何処までいくかを考えた時、
私の答えは、
「私が満足するまで!!」
だった。

たとえ、海外に拠点を置き、パリやミラノファッションショーの常連になり、
モデルだけで飯が食えるくらいに成長したとして、
その過程で友人や家族を置き去りにしていた先に立っていたなら、
果たして、私は満足していたか?

していないはず。

モデルとしては満足いく結果かもしれないけど
人としては絶対に満足できない。

私はモデルである前に、人であって、
私であるんだった。

人に優しく生きよう、、
ちゃんとありがとうって言おう、
心から笑っていよう。

もう忘れないで生きよう。


そう言えば母ちゃん、こんなことも言ってたなぁ。

「ありがとう言えたら天才!!!」

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