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見慣れない景色

見慣れた景色は、思考を簡単に停止させてしまう。

日本に帰国した。ちょうどクリスマスあたりから、タイに渡航していた。タイは3回目、首都・バンコク。11月にも1週間ほど滞在していた。

今回は、1ヶ月間バンコクにいた。途中、1度だけ南の田舎の街へ行っていたのだけれど、基本的にはバンコクで、ノービザで滞在できる1ヶ月間丸々、暮らすように旅していた。暮らす、というのは、わたしにとってはとても重要だった。

そうして、日本へ帰国したのが月曜日のことだった。

28℃と、ちょっと暑いくらいのバンコクから、最低気温が0℃近い関西へ。なんだか真逆の世界にいるようだった。

帰国して48時間も経っていないけれど、すでに日本に飽きてしまったなあ、という感覚のようなものはある。すべてを知っていて、すべてが経験したことのあること。見慣れた景色は何も考えずに歩けるけれど、新しいアイディアも思いつかなかった。

アイディアは移動距離に比例する。誰かが言った名言だけれど、本当にそうだと思う。

移動距離が増えるたびに、新しい物や人が目に入る。新しい物事をたくさん経験すると、時間の流れが遅くなる。遅くなると、人生がゆっくりと流れ出すそうだ。

人生がゆっくりと流れ始めると、充実しているように感じ始める。現に、この1ヶ月間はとてもゆっくりだった。

だって、いくら旅をしていたといっても、同じ都市に1ヶ月も滞在するのは初めてだったから。暮らすように旅したことなんて、「わたしの世界一周はゆっくりなペースでした」と言いつつも、したことがなかったのだ。

暮らすように旅していたから、特に観光はしていない。食には貪欲なので、新しい食べ物を開拓するくらいで、街を歩いたりはしていなかった。カフェやコワーキングスペースに行く日々。それでも日本にいる時期よりは目新しくて、毎日がゆっくりだった。

けれど、日本に帰ってきてどうだろう。いつもの作業に適したカフェ、いつもの駅や電車、鬱々とした表情の人たち。なにもかも、知っている。

日本にいながら、新しい景色を楽しむことだってもちろんできる。新しいカフェやコワーキングスペースに行って、新しい人と会う。そうすればいいし、簡単なのだけれど、海外とはやっぱりちがった。

見慣れた景色は、作業にはちょうどいい。空っぽにした頭でも電車には乗れるし、いつもの場所へと行ける。作業を習慣まで落とし込んだ体は、勝手に動いてくれる。

けれど、思考がこのままでは停止してしまいそうだった。知らないことが欲しい。なにかを知りたい。見たい。日本に帰ってくるたびに「本を読みたい」「文章を読みたい」といった知識欲がます理由は、そういうことだろう。

日本でも、新しい景色は見れる。調べて行動すれば、知れる。母国語の通じる場所では、情報へのアクセスは簡単だ。

けれど、それでも知らない土地の、見慣れない景色の中で、ゆっくりと流れる時間を、わたしは選ぶのだろうと思う。


写真は、バンコクでいちばん安い?コワーキングスペース。無機質な空間でデザインに関する本がたくさん置いてあった。スペースもかなり広いから、どれだけ人が増えても席に困らない。いちばん良かった。


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