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良いごはんを食べ続けること−漫画『かしましめし』レビュー

「好きな漫画家は?」と聞かれたら、そのひとりに入るのがおかざき真里さんだ。

そのだいすきなおかざき真里さんが新刊『かしましめし』を9/8に発売された。フィールヤングで新連載をされていることは知っていたのだけれど、漫画は単行本で読む派なわたしは今か今かと待ちわびていた。


おかざき真里さんの代表作といえば『サプリ』だろうか。広告代理店に勤める主人公の恋愛話やらキャリアについての漫画で、10年ほど前に月9でドラマ化もされている。最近だと『&』(年上のおっさんとネイリストの話)や『阿吽』(歴史漫画、空海とか確かそのあたり)が有名だろうか、残念ながら阿吽は読んでいないのだけれど、サプリも&もだいすきで何回も何回も読み返している。絵もきれいでだいすきだ。

新刊『かしましめし』は簡単に言うとごはん漫画だ。しかしそこはおかざき真里さん、おかざき作品を好きな人なら分かると思うのだけれど心をギュッとえぐってくるようなストーリーになっている。

あらすじはこうだ。主人公・千春(28)と美大時代の友人であるキャリアウーマンなナカムラと関西弁の英治、この3人はとある出来事がきっかけでしょっちゅう千春宅で集まるようになる。しかしさすがおかざき漫画、仲の良い大人たちの恋愛模様かと思いきや、それぞれ何かしらの悩みのようなもやもやした部分を抱えている。

例えば千春は会社をやめていて鬱々としていたしナカムラは婚約破棄を経験、英治はオープンにしているゲイなのだけれど、最近同棲している恋人が帰ってこない。その3人が料理をしながら自分と見つめ合いながら、もやもやを消化していく。


この漫画でいちばん印象的なことは千春が「1人のときはごはんを作らない」という部分だ。

いつも千春宅で3人が集まるとき、千春がごはんを作っている。そのレパートリーは凄まじく、とてもおいしそうだ。包まない餃子、トマト味噌ラーメン、いろいろホイル焼き。しかもレシピ付きでどれも簡単そうに見える。わたしも誰かと集まる予定があれば、確実に実行しているメニューだ。

でも千春は1人のときはごはんを作らない。コンビニのインスタントラーメンといったジャンクフードで済ませている。そのことを話すとき、千春はこう言う。

“独りだと栄養たっぷりでヘルシーな手作り一切食べないんだよねえ”

“独りでいるとコンビニ行ってお金払ってジャンクフード買っちゃうんだ”

“栄養のあるものをバランスのとれたものを食べるのは違う気がして、罰みたいに”

“ジャンクフード最初の一口はおいしくて、でも身体に合わなくてしんどくなるんだけどまた食べちゃう”

“まるでゆっくり自殺しているみたいに”


…通常のごはん漫画でこんなセリフ出てくるだろうか、いやない。しかしこの千春のセリフ、意外に多くの人がとても共感するのではないだろうかと思う。コンビニは便利だ。なんでもそろうしごはんを作る手間なんかもめちゃくちゃ省ける。サラダチキンは大好きだ。でも身体に自ら毒を盛ったごはんを運びこんでいるような、そんな気持ちになる。

口にするもので体調が変わるんだなあと思った出来事は働くようになってからだと思う。働くようになって毎日自炊して、こんなに体調が良いんだと驚いた。それまでけっこうな頻度で食べていたお惣菜やコンビニは自然と遠ざけた。

しかも『かしましめし』に出てくるメニューは本当にどれも手軽だ。特に残ったミネストローネをラーメンにしてしまうあたり最高だし、野菜たっぷりだから栄養もきちんと取れている。

あれはおかざき真里さんが実際に作るメニューだろうか。だとしたらおかざき真里さんのお子さんたちがうらやましい(でもそういえば、おかざき真里さんのツイッターをフォローしているのだけれど、たまに載せられるお子さんのために作る朝ごはんがすごい。豪華だし栄養バランスがしっかり考えられている。)。

割と、その日の気分や体調は食事によって決まる。やっぱりコンビニが続くとなんだか落ち込むことが多くなるし、きちんと栄養バランスの取れた野菜が入った食事をしていると肌の調子も良い。この食事の影響は人それぞれかもしれないけれど、私はものすごく影響を受ける。

なんだか最近食事が適当だったなあ、と『かしましめし』を読んで気付かされた。これからはまた良いごはんを食べ続けたいし、なんだか友だちとごはんを食べたいな、と思わせてくれる漫画だった。2巻も早く読みたい。



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