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雪古森の春プロデュース後記(前編)

ねことユリイカ第一回公演「雪古森の春」閉幕いたしました!


作・演出の浅野泰徳さん、キャスト・スタッフの皆様、応援してくださった方々、ご来場いただいたお客様に心から御礼申し上げます。どうもありがとうございました。初舞台を踏んでから36年が経ちましたが、今更ながら舞台は一人では絶対に出来なくて、マンパワーで出来上がっているのだとつくづく実感した公演でした。

演劇は「人」。
「人」が財産。
「人」の持っているスキルや人柄は、変わりが利かない。

舞台はナマモノなので、少しの歪みだったり座組の空気感が舞台の上に乗ってしまう。だから今回は、朗らかで真摯に、一丸となって芝居作りに向かっていけるメンバーが集まって下さったのは、とってもとっても良かった。
もし一人でも不機嫌だったりメンヘラだったりマウント取ったりという俳優がいたりすると、微妙な空気が蔓延したりしますからね。稽古中も本番も良い空気で芝居を作っていけました。
今回ご覧いただいてオファーしたいなあという役者さん、スタッフさんがいれば、私がお繋ぎしますので是非ご連絡をください。
全員お勧めです!!

日替わりゲストさん稽古の時の集合写真

「雪古森の春」という作品を選んだ理由

「雪古森の春」は17年前にJungle Bell Theater(ジャングルベル・シアター)さんが上演された作品で、当時芝居が1㎜も面白くなくなって役者を辞めようかなと思っていた時期に拝見して、芝居ってやっぱりいいなあと思って続ける事を選択した、私の役者人生のターニングポイントになった舞台です。

元々は古典や骨太な現代劇、不条理劇、翻訳劇のジャンルが好きで、そういう作品を中心に活動してきました。ただしお客様視点で考えた観劇する作品としてはハードルが高いのも理解はしていて、以前にシェイクスピアを観に来て下さったお客様から「途中から良く分からなかったんだけど、長尾ちゃんが頑張ってて凄かった!」というような内容の感想を何度となく頂ていました。自分がやりたい作品、好きな作品、俳優として挑戦したい作品がお客様が楽しめる作品で無いことの方が(私の場合は特に)多い事には気が付いておりました。

「演劇を楽しく」
今回「ねことユリイカ」を立ち上げるにあたって決めた指針です。
お客様も、関わった俳優・スタッフさんも含めてみんなが「楽しく」なる作品を上演していきたい。

コロナ禍にSNSで演劇が大炎上していた時期があったのですが、それを眺めながら改めて思ったのは、現在の演劇はとてもマニアックなジャンルである事(特に小劇場)、そして美味しい高級ランチが食べられたりする位のチケット代の面白いかどうか解らない芝居にお金を落とす事はなかなかしないよねという事。そしてお金だけじゃなくて時間も取られますからね。
80年代や90年代の小劇場にあったはずの、世間に浸透していたあのジャンルは面白いという「信用」みたいな物がいつの間にか消えてしまっていたのかなあと感じてしまって愕然としたし、本当に悲しくてしんどかった(あくまでも個人の所感です)。

自分が一念発起して演劇を信用を取り戻したいとかそんな大仰な事ではなくて、こんなに面白いのに知られていないのが勿体ないし、私が今まで大好きでやってきた事をアウトプットしてみたいなという位の意気込みで始めました。演劇をもっと身近に感じていただけるように。一人でも多くのお客様に楽しんでいただけるように。
それには良質の楽しい作品を作って観に来ていただいて、次にやる時に「前回面白かったからまた行こう」「友達にもお勧めしたいな」と思ってもらえるものを作り続けるしかない。あれは間違いないという「信用」を積み上げないとならない。今はSNSでバズったりもあるけど一攫千金みたいな事は狙わずにコツコツ地道に一つ一つ丁寧にやる事しかないのかなと思っています。

で。話は戻りますが「雪古森の春」を選んだ理由。
現代劇の中にファンタジーの要素があって身近な話として観られる事、妖怪という日本の古来からある土着の話で親和性が高い事、笑いがあって泣けるシーンもあるのでリラックスして観られる内容な事、あとはそして何よりも私が昔「演劇っていいなあ」と思った作品を是非、皆さんに観ていただきたかった。そして17年間上演されていなかったので初見で観る方も多く、また前回観ている方も時間が空いているので改めてリセットに近い状態で観ていただけるのではないかなという事もありました。
ずっとやりたかった作品で承諾してくださった浅野さんには本当に心より感謝しております。
SNSには良い感想しか上がらないので、お気に召さない方もいらっしゃったかとは思いますが、概ね好意的な感想が沢山でひと安心です。楽しんでいただけたならば私の目標は達成です(笑)

舞台写真(撮影:佐々木昌美)

プロデューサー業務

「ねことユリイカ」はソロユニットで構成員は私一人です。
初プロデュースという事もあり、誰に何をどこまでお願いしたらいいのか皆目見当が付かず、結果ほとんどの業務を自分でやるというかなり無謀な状況になりました。
元々拘りが強い部分があるのと、普段は意見は言えるし営業は出来るのだけど、創作系の意向を伝えるのがどうにも下手くそで、業務をお願いする不安があって自分で抱えてしまったのです。よく色々なビジネス書とかでやってはいけないと書かれているダメなアレです。
仕事のタスクの取りこぼしや抜け、想定外の業務も沢山あって、結局最終的に色々な方に助けてもらいました。最初からお願いすればよかった。
今回の反省点は次回はきっちり埋めて行きたい。
ちなみに大勢の人の前で挨拶するのも本当に苦手なんだなあと実感。
公演後の挨拶を自分がしなくては行けないという事が本当にプレッシャーでグダグダになったのも反省です。

ビジュアルと衣裳

ビジュアル撮影の設定を稽古開始前の早目の時期に予定していたので、衣裳プランは1月位に出しました。今回はファンタジーなので妖怪チームの衣裳は全員何かしら手を加える必要だったり、新しく縫わないとならない状況で段取りをつけて早い段階で制作に入りました。
作り物で一番大変だったのは雪童子の六花(りっか)と雪華(せっか)の被布。
よく七五三の時にお子さんが着ている着物のコートです。被布自体は大人用もあるらしいのですが、市販品・中古品含めて探し回ったけれども全然見つからないので、子供用を参考に型紙から引きました。和裁なので縫う作業は大変ではなかったのですが型紙がかなり苦戦。子供らしい可愛い感じにしたくて髪飾りは南天の実のお揃いに。メイクは白塗りで目尻に赤を入れる狐メイクで。お二人がとっても可愛く着てくださったのが嬉しくて!苦労したかいがありました。

六花(りっか・青木五百厘)と雪華(せっか・宮本朋実)/撮影:佐々木昌美

あわ坊とうわん坊は一本ダタラの妖怪で一本足の設定。
浅野さんから「マタギのようなイメージで」とお話があったので上着はファーのベスト、下はサルエルパンツを改造した物だったのですが、どうしても足元が隠れなくて、結局青木五百厘ちゃんが劇場入りしてから追加でインナーを作ってくれました。

あわ坊(青木隼)とうわん坊(松下勇)/撮影:佐々木昌美

腰蓑はラフィアファイバーをいう紙素材のリボンで制作。これは稽古中に宮本京佳さんが制作してくれました。靴はもこもこ動物スリッパを縫い合わせて周りにファーを縫い付けて接続部分が隠れるように加工しました。稽古中から慣れる為に本番用を履いてもらっていたのですが、凄い頻度で壊れていたので(元々強度が弱かった)、実は予備を1足用意していました。

内職中の京佳さん

沢海陽子さんのお婆の杖と羽織、瓢箪は青木五百厘ちゃんの劇団KⅢさんからお借りしました。すごい立派な本格的な素敵な物を貸してくださってありがとうございました。五百厘ちゃんと京佳さん、劇団KⅢには本当に頭が上がりません。

人間チームは市販品で対応出来る衣裳だったので作り物はなかったのですが、鶯次郎の登山用リュックサックは浅野さんからお借りしました。何と初演の時と同じリュックサック!鶯次郎の小道具のナイフは聖地ポーカーズの早川剛史さんにご協力いただきました。

あとは私物を持ってきてくださってご協力くださったキャストさんも多数いらっしゃって皆さんのご協力で素敵な衣裳を揃える事ができました。
改めましてこの場をお借りして御礼申し上げます。どうもありがとうございました!

ビジュアル撮影は佐々木昌美さんにお願いしました。
佐々木さんは私が所属している劇団AUNの若手ユニットのビジュアルを担当されていて、そちらが格好良い素敵なビジュアルだったので繋いでもらってお引き受けいただきました。
あの写真は実は背景は加工しておらず、佐々木さんが手作りで作った模様の入ったアクリル板をカメラの前に置いて撮影してくださって雪が舞っている幻想的な写真に仕上げてくださいました。台本も読み込んで下さって世界観をきっちり表現してくださった素敵な仕上がりになりました。
評判がとても良くてお願いして本当に良かった!本職は女優さんで裏方もこなす多才な方です。

宣伝用ビジュアル/撮影:佐々木昌美

裏周りのあれこれ

舞台装置は現代美術家の私の実妹の長尾望に担当してもらいました。
普段は現代アートの制作をしていて、今までは主に美術館やギャラリーでの展示などがメインで、演劇関連は以前に冨士山アネットさんのイマーシブシアター「霧の國」にスタッフとして関わっており、舞台装置の制作などは手掛けていたのですが、自分がメインでやるのは初めての試みでした。
素材の違う様々な白い布にペイントをして照明の当たり具合で変化を見せられたらという形で制作をしてもらいました。
布のペイント作業には妹が運営している子供のためのアートスクール「nag  ART lab」の生徒さん達も参加してくれました。スポンジのついたボクシングのミットみたいなものを自作してペンキを付けてボクシングするみたいに色をつけていくボクシングペイントという手法を使いました。
これを機会にお芝居に興味をもってもらえるといいなあ。

そして照明さんがこの舞台装置の白い布を活かした素晴らしい照明を作ってくださって。
あの規模の劇場にしては凄い数の照明が吊ってあってびっくり。
場面毎に全然違う場所になっているのが本当にすごい。ラストの雪から桜色のピンクに変わるシーンが美しくて見事で綺麗でした。
下の写真をどうぞご覧くださいませ。

舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美
舞台写真/撮影:佐々木昌美

音響さんはJungle Bell Theaterさんに何度も参加されている井上直裕さんが担当してくださったのですが、私の役が森に迷い込むシーンで、私の声だけ肉声で妖怪5人の声はマイクでエコーがかかるようにしてくれていて、あのコンパクトなサイズでしかも私は叫んだりしているのに差別化しているのがすごいなあと本番中ずっと思っていました。
千穐楽の後にお話しした時に「僕の持っている技術を全て投入しました」と仰ってくださって。とても嬉しくって涙目でした。

舞台監督は木川達也さん。20年以上前にお世話になっていた事が判明してびっくり。縁の下の力持ちで様々な雑務から、一番後ろの大黒の開閉、雪を降らせる仕掛けの操作、めくり台の作成もしてくださいました。どっしり構えていつも笑顔でいてくださって心強かったです。

今回の芝居のクオリティはスタッフさんたちのお力添えなくしては出来なかった事です。またお客様を丁寧に迎えてくださった受付の皆様、誰一人掛けても今回の公演を無事に終える事が出来なかったと思います。
どうもありがとうございました!

長くなってしまったので、今回はここまでに。


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