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複雑性とシンプルさの間で揺れ動く気持ち

こんにちは、渡辺です。
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズというコンサルティング会社で人事の仕事をしています。

この記事を書いたきっかけ

先日、ケンブリッジの経営陣に、ある新しい制度案を説明した。一部社員の税務や社会保険にも影響のある話であるため、私の説明も複雑にならざるを得なかった(それでもかなり要点を絞ったつもりだが)。

経営陣からひと通りの了承を得た後に、「複雑な説明になってしまってすみません」と言った。
それに対し、ある経営メンバーが「別にいいよ。だって本質的に複雑なんでしょ」と言った。

何気ないその一言に、私はとても救われた気持ちになった。そして、この気持ちはなんだ?と不思議に思った。

真っ当にやると、複雑さに突き当たる

人事・労務の仕事は、きちんと運用しようとすればするほど複雑になるという命題を抱えている。
(人事・労務に限らず、バックオフィス全般に通じる命題でもある。ただ、私が人事なので、ここでは人事・労務に限定した書き方にする)

第一に、準拠する法令が複雑だ。
私は労働法令や社会保険制度について学ぶのがあまり苦にならない人間である。そんな私でも、最近の法改正に追いつくのは精一杯だと感じている。
最近話題の「年収の壁」など、理解するのを諦めている部分があるのが正直なところだ。

第二に、働き方の多様性を受け入れようという風潮が、社内・社外の双方にある。
私が当社に入社した当時は「フルタイムの裁量労働制」「育児短時間制度」の二択しかなかった。
でも現在は、社員の家庭事情や働き方の志向性を考慮して、様々な勤務パターンがある。サイボウズさんほどではないけれど。

世の中の制度を正しく理解し、自社に正しく適用する。
また、「会社オリジナルの決めごと」をつくるときは、網羅性・公平性・妥当性をじっくりと考慮する。
こうして、真っ当にやろうとすると、いずれ複雑さに突き当たる。そういう宿命にある。

シンプルであることの美徳

でも、「複雑なものよりシンプルなものが良い」という美徳が存在する。
世間にも、社内にも、私の脳内にも。

確かに規程やルールは、シンプルである方が理解しやすい。
理解しやすい規程・ルールは守りやすい。問合せにかかる工数も、ミスが起きた時の対応も少ないはずだ。

実際に私も社内規程をつくるときに、「パターンが多いから大変だなぁ‥あれ?よく考えたら、この3つの軸で整理できるじゃん」と気づいた経験がある。
この時の気持ちよさの背景に、シンプルさの美徳があることは間違いないだろう。

単純化やデフォルメに欺瞞を感じてしまう

でもでも、異なる職種の人たちや経営層に理解・同意してもらうために、本質的に複雑な論点を単純化して伝えたり、何か別のものに比喩することに欺瞞を感じてしまう。

本当はゴツゴツした歯ごたえで複雑な味わいであるものを、ホロホロの離乳食にしたり、ガリバタニンニクのような分かりやすい味つけにしたりして相手に提供するのは、相手の知性を信用していないことの表れではないのか?

内面だけの問題でもない。
過度なデフォルメはリスクを矮小化する。論点のすり替えだってできてしまう。
組織として真っ当な判断をするために、「これ以上の論点のデフォルメは本質を見誤る」という線引きを、実務家は持っておかなければならない。

複雑さを自分の城壁にしていないか

でもでもでも、「制度が複雑であるのをいいことに自分のコンフォートゾーンを守ろうとしていないか?」と自問もする。

ビールを飲みながら、iPadで描いた絵です。

「いやー、本当にこの制度は本当に複雑ですよね。この制度を正しく理解しているの、社内に私しかいないですよ」
なんて言葉を吐きながら、実は人に頼られることに安心や快楽を覚えているのではないか?

労働基準法や社会保険制度の複雑さに悪態をつきながら、一方でその複雑さを自分の城壁として組み上げて、守りに入っているのではないか?

そんな自問にキッパリ「NO!」と言える自信は、今の私にはない。

複雑さの海に身を投じつつ、ときどき陸に上がって見渡してみる

こうした「複雑性の宿命」「シンプルさの美徳」「自己防衛疑惑」の間で、揺れ動いている。

冒頭の「別にいいよ。だって本質的に複雑なんでしょ」という経営陣の言葉にジーンとしてしまったのは、うまく言葉にできない揺れ動きをありのまま受け止めてもらえたと感じたからなのだろう。

結局のところ、複雑さの海にざぶーんと飛び込んで、ガブガブ海水を飲みながら足掻いて、ときどき陸に上がって見返してみるしかないのだと思う。

泳いでいる方向、本当に合ってる?
そこまで深く潜る必要ある?
べき論を振りかざして、マッチポンプしてない?
そんな自問自答を繰り返して、精度を上げていくほかないんだろう。

私が「この人すごいな」と思う優秀な人は、「素朴だけどクリティカルな問いかけ」を投げてくる。
そんな問いに対して、複雑な説明で煙に巻くのではなく、クリティカルに答えられるようになりたい。

というわけで、海外給与制度という名の海に飛び込んできます。ざぶん!

おわりに

数えてみたら、この記事がnoteを始めて100個目!
なので、あえて普段と異なる文体・挿絵にチャレンジしてみました。

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