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『時代の中のひと』

時代の中の人を知りたくて
時代の扉をノックしたら
「呼んだ?」と出てきてくれた

(この人が時代の中の人かあ…)

感心してしまって眺めていると
「あなたー? どなたかいらっしゃったの?
もうご飯冷めちゃうから早く食べちゃってよ!」
と奥から声がした

(え!? 時代って家族持ちだったんだ…)

更に驚いて言葉を失っていると
「オギャー…オギャー…!」という赤ちゃんの泣き声が扉の奥から響いてきた

「はいはい、今あげまちゅからねー…あなた! もう早くこっち来てちょうだいよ!」
そしてさっきよりヒステリックの度合いが増し増しになった奥さんらしき人の声

「おう!わーったわーった! 今行くってばよ! …やあ、なんかわりいね。せっかく来てもらったみたいなんだが…見ての通り取り込み中でさぁ、すまねぇがまた今度な! じゃ!」

そう言って時代の中の人は
慌ただしく扉の奥へと舞い戻っていった

(時代の中の人もやっぱり忙しいんだなあ…)

ちゃんとは話せなかったけど
ボクは不思議な満足感を得て
その場をあとにした

さてと、次は「未来の中の人」でも
訪ねてみるか

次こそちゃんと挨拶できたらいいなあ
ボクが「現在(いま)の中の人」だって

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。