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『王葬』

白茶けた広大な砂漠に
うねる大蛇のように横たわる大河

そこに10万頭の白いカバたちが集っていた
王の葬列だ
まもなく王葬が始まる

上流から
体長52メートルの巨大な白ワニが
のたりくたりと
体をくねらせながら下ってきた

無数に浮かぶ白いカバたちが
シャーマンに敬礼するように
いっせいに口を開く

白ワニが到着し
大きな顎をくわっと持ち上げると
しんとした数舜の間が大河に落ちた

次の瞬間
白ワニは無差別にカバたちを喰らい始めた

ぶんぶんと体を回転させ
カバの硬い肉をみるみる引きちぎってゆく
大河が燃えるように赤く染まった


夕闇が降りる頃
大河は生け贄たちの臓物で溢れ、淀みきった
儀式が終わりを告げた

王は10万頭の真白きカバたちの命によって
清められ、弔われたのだろう
全身、ぬらぬらと光る血で濡れた白ワニが
眠たげな目を閉じ
ゆっくりと上流へと引き返してゆく

だが、まだ一度も
誰も王の姿を真に見た者はないという
生きた王の姿をーー

それでも王の死はそこに存在し
儀式は繰り返される

王の葬列
王葬

この儀式だけが
王の存在を現実にするのだ





水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。