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卒業制作について。

こんにちは。
この度は多摩美術大学 統合デザイン学科 卒業・修了制作展2022にお越しいただき、ありがとうございます。
4年生のOKDとと申します。

今回、私は『  (題名なし)』という作品を制作しました。
この作品は、自分自身が苦しめられている「相貌失認」という認知障害についてフォーカスを当てて制作したものです。

展示の様子

ここでは、私の制作過程について記録していこうと思います。
研究記録はこちらをご覧ください。

概要

私自身の認知特性を反映させた写真作品

脳の失認の一種である「相貌失認(別名:失顔症)」
これは顔の認識ができなくなり、顔を覚えることができず、個々の判別に困難を与える症状を引き起こします
私自身がその当事者であり、コミュニケーションの難しさを覚えることがありました。
この見え方や感情を伝えるために、「もしモノに対して相貌失認が起きたらどうなるのか?」と思い、制作したのが本作品です。

相貌失認というテーマについて

きっかけ

全てのきっかけは3年生、11月に取り組んだ「表象のデザイン」という課題でした。
内容は認知心理学の諸説を参考にしながら、私たちが外界に抱く心的イメージに着目した作品を作る、というものです。
そこで課題図書として購入した本を読んでいると、たまたま失顔症のコーナーが。
よく知っている症状だから、という理由で選びました。

どうして一度扱ったテーマを持ち出したのか

カミングアウトした時にいただいた「デザインにおいて当事者は色々と強い」という言葉が忘れられなかったからです。
この症状は、私にとって忌々しいモノでしかありません。でも、要素として活かせれば面白い見方ができるんじゃないか。
少しでも自分を肯定できるような何かが作れたらいいな、そう考えてこのテーマで最終決定をしました。

制作過程

リサーチ

私が行ったリサーチは以下の通りです。

  • 自分の見え方の特性を知ること

  • 文献を読み、基礎知識を増やすこと

  • 他人の認識と自分の認識の違いを知ること

詳しくはこちらをご覧ください。

大まかな表現の決定

リサーチを続けて約2ヶ月、ちょっとした発見がありました。
それは、私の間違った買い物でした。
最近のコンビニでは、プライベートブランドの商品が多く置かれていますよね。
安くて買いやすいけど、パッケージが似通いすぎてぱっと見で区別がつきにくいと思います。
私はこのとき、食べたかったうすしお味ではなく、コンソメ味を買ってしまいました。

この経験を通して「分かりづらいパッケージばっかりでこの野郎!」と苛立つとともに、「私自身、割と人に対してもこんな気持ちになってない?」と思いました。

人それぞれしっかり見えていないから、近づかないとわからない。
分かりづらいから時間がかかるし、間違えたら自分に苛々する。


この現象を上手に使うことができれば、人にわかりやすく伝えられるのではないかと考えました。

その時の試作

違和感をほったらかしにした代償

リサーチを行ってああそうかも、を積み重ねて出来上がったのが12月のプロジェクト内の最終講評でした。
そこで提出したものは、単なる「大衆的な意味での相貌失認の見え方」になってしまいました。
私がこの作品を作るきっかけは当事者だから、という理由ではっきり決まっていたのに、全体のアバウトで説明的な内容になってしまってはいけなかったはず。
卒展1ヶ月前、自分が予想していた最悪の結果で迎えることになりました。

大衆的な意味に引っ張られ続けた

この作品を作っていくにあたり、普段から自分自身の目をコントロールする必要があります。
認識とは本来無自覚に行っているものであり、意識してしまえば、それは無意識の行為にはなりません。
一般的な認識に意識を向けすぎるあまり、「本来の自分の見え方」を殺していたという事実に気づけず、制作意図からずれてしまっていたのです。

12月時点の展示

作品の形態について

今回使用したものは以下の通りです。

撮影
Phone 12 Pro純正カメラ
編集
Illustrator、Photoshop、ibisPaint X
展示材料
EPSON写真用紙、ハレパネ(20×20)

撮影機材

今回の作品の落としどころは「日常生活で見かけるモノに相貌失認が起きたらどうなるか」でした。
ありふれた生活を素材にするために、枚数を抑えて映えを狙うのは違う。そのため、わざとスマートフォンで普段から大量に撮影し、それに編集を施すという形で制作しました。

サイズ感

わざと小さくしたのは、展示事例を多くするためです。
相手がわからないというのにも種類があります。
一切わからない人、なんとなく予想がつく人、断定レベルに予想がつく人…
そのパターンの多様さを大量に作りたかったため、全て同じサイズの小さめで統一させました。

反省点

自分の違和感を大切にしなかった

リサーチの時点で軸をぶれさせずに考えていたら、卒展の2週間前に路線変更するということもしないで済んだはずです。
早めに自分の意思を固めておくことが必要だったなと痛感しています。

説明不足

決して有名な症状ではない相貌失認。
見て一発で理解できる内容ではないため、読んでもらえるような文章が大切でした。
もっと良い日本語、過不足のない内容説明ができたら良かったなと思いました。

展示形態が「見られる」ことへの意識が足りなかった

クロスレビューでも指摘をいただきました。作品数を多くし、一つ一つを小さくしたことは本当に良かったのか。
使用した写真は全て「何かしらが欠けている」ものです。
作品数を絞り、大きく展示した方がじっくり見やすいものの方が伝わったのではないか。試作を重ねられたら、もっと体感しやすいものが出来上がったかと思います。

卒展テーマへの踏み切りが遅かった

私が卒制のテーマ決めを行ったのは4年生の9月でした。
これから卒制に向き合う方は、絶対に早めに決めた方がいいです。色々と考えるよりも、思い切りが必要だったなと思います。

最後に

正直、多くの人に興味を持っていただけるとは思っていませんでした。

制作チェックを受ける時、「難しい内容だから見る人を選ぶ、見ない人は見ない」といったコメントをいただいていました。これは美術大学ですることではない、といった指摘を受けることもありました。
そのため、見てもらうことよりも自分を肯定することに重点を置いて制作してきました。

在廊中も「多分そんなに見られないだろうな〜」と思いながら座っていました。
しかし実際は、多くの方が私の作品を見てくださり、自由に考えたことを話している場面も見かけることがありました。
また、考えていることをもっと知りたいという声も多くいただきました。

私が今回作ったものは、デザインとは一線を画したものであると思っています。
そして、自分にとって重すぎるテーマを選んだということもあり、興味深いというコメントがとても嬉しかったです。
足を運んでくださった皆様には感謝しかありません。本当にありがとうございました。

制作・執筆  中村勇吾プロジェクト 岡田璃香(OKD)

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