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ゲーム『十三機兵防衛圏』をクリアしたおれはもはや何の未練もない

この記事にはゲームのネタバレは含まれていませんが、こんなのを読む暇があったらすぐに『十三機兵防衛圏』をプレイするんだ。いいね?

これほどまで夜更かしするまで夢中になったゲームは何時ぶりだろうか。一時期は「『十三機兵防衛圏』をやる/それ以外」で生活サイクルが完全に崩壊するほどだったが、遂にこのゲームをクリアし真実にたどり着いた。結論から言うと、この作品は間違いなくおれの人生の中でオールタイムベスト・ゲームである。おれの人生はここで一度完結した。


いつものヴァニラウェアと思ったら大間違いだ

『十三機兵防衛圏』がどんなゲームか説明するのは難しい。めちゃくちゃ難しい。「このゲームは主人公を操作するADVパートとロボットを操作するRTSパートに分かれてて……」とか説明することすらまどろっこしい。体験版が配信されているからまずはプレイしろ。

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「ロボットゲーじゃないの?」もちろんだ。ただ、それだけではない。古今東西あらゆるサイエンス・フィクションが詰まっている狂気のゲームだ。これは何の比喩でもなく、正気とは思えない数々のSF要素が物語全てに完全に噛み合っており、間違いなくゲーム史上他に類を見ない怪作ともいうべき領域に達している。

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ロボットは好きか?怪獣は?特撮番組は?タイムトラベルは?古代文明の遺産は?殺人アンドロイドは?異星人とのコンタクトは?クローン人間は?ナノマシンは?AIは?タイムリープは?スケバン刑事は?焼きそばパンは?突然自宅に押しかけ女子は?パンをくわえてイケメンにぶつかるのは?記憶喪失状態で殺人現場に居合わせるのは?決戦兵器のテストパイロットは?未来からやってきた女装男子は?

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テーブルにはどんどん寿司やラーメン、カレーにハンバーグがどんどん並べられ、それを旨い旨いと食べている。しかしふと我に返ると異常な事態に気付く。おれは洋食屋にオムライスを食べに来たはずなのに、これは一体全体どういうことだ?ここは洋食屋ではなかったのか?俺は一体何を食べさせられているんだ?

話を元に戻そう。『十三機兵防衛圈』は確かにロボットを題材にしたゲームだが、一つのジャンルとして説明することは不可能だ。

尋常じゃないくらいに風呂敷を広げ、この世の全てのSFを注ぎ込んだ後に、甘酸っぱいジュブナイルに馴染ませた、2世紀にも及ぶ人間の愛憎劇が何十時間も繰り広げられる。1つのゲームという商品として世に出るには余りにも……余りにも異常だ。どうかしている。正気の沙汰では無い。このような作品がゲームとして世に出たことそのものが奇跡に近い。しかも令和元年という時代においてだ。

安心してほしい。怯える必要はない。お前が望むもの全てがそこにある。

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地獄のように深い関係性と異常なほど練りこまれた世界観に正気を疑う『追想編』

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『十三機兵防衛圈』には3つのモードがあるが、その中でもメインストーリーともいうべきものがこの『追想編』だ。

13人いる主人公がどういった経緯で機兵に乗り込み、怪獣たちと戦うことになるのかが語られるこのモードは、上記の通り狂おしいほど練り込まれた世界観を舞台に、人類の存亡をかけた、地獄のような関係性のヒューマンドラマが繰り広げられる。

ヴァニラウェアによる職人芸のような美麗な背景と、まるで生きているように細やかにモーションする2Dキャラクターは変わらず、ADVとしては全くストレスを感じないユーザービリティにも触れる必要がある。とにかく触り心地がいい。

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会話もよくあるウィンドウ形式ではなく人物の上にふわっと文字が浮かび上がる独特のものだが、このゲームの為だけに異常に拘りを持って考えられているのをひしひしと感じる。

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ゲーム中盤以降は専門用語や固有名詞がバンバン飛び交うが、あの僅かな文字数で十分理解できるのが未だに信じられないほどまとまっている上に、テキスト送りとボイスのテンポが絶妙なのだ。ここまで快適に遊べるADVゲームはそうそうない。語られるストーリーを大前提に、既存のADVフォーマットを一切排して「いかにこの物語を楽しんでもらうか」に命を懸けている。端的に言ってヤバい。

特筆すべきは、各キャラのストーリーは最終局面に至るまで、1から10まで全てなぞっていないということ。つまり、各キャラの時系列は実は平行ではなく前後にもずれており、『十三機兵防衛圈』という大きな物語の内の一側面でしかない。あの事件の裏にこの人物がどう関わっていた、などということはゲーム中に全て指し示されるわけではなく、プレイヤー自身が頭で整理し理解する必要がある。

一つ一つのエピソードは10分~20分程度で終了する短いものだが、その中で謎が解き明かされる、新たな伏線が敷かれる、予想外な展開が起こるの連続で、30分おきに「は???」「ウソ…だろ…」「マジかよ!?」と口に出てしまう。

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風呂敷の広げ方もさることながら、話の引っ張り方が異常に上手い。上手すぎる。世界の謎が一つ解き明かされるのと同時に新たな謎が提示され、中盤からはどんでん返しの連続だ。止め時がつかない。

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50%を超えた段階からはもはや異次元の領域で、果たしてこの物語がちゃんと完結するのか死ぬほど心配になる。ちょっとシナリオをかじったり小説なんかを書いたことのある人だとここら辺のヤバさはめちゃくちゃ伝わる。どこまでこの世界を広げるつもりなんだ?おれはどこへ連れていかれるんだ?ぶっちゃけ、我々は奇跡を目の当たりにしている。こんなゲームがこの世に生まれ出でたことそのものに。

そして『追想編』という名の通り、これは過去に起こった出来事だ。ではこのゲームの中で言う「現在」は?それが『崩壊編』だ。


押し寄せる怪獣をロボットの超兵器で薙ぎ払う爽快感『崩壊編』

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『崩壊編』では一転、主人公たちが機兵に搭乗して怪獣たちと戦うRTSパートとなる。『追想編』とはガラリとジャンルが変わることに最初は戸惑うかもしれない。しかし全く馬鹿げていることに、そう感じることすらも全て掌の上なのだ。世界観の大風呂敷に福利厚生が行き届きすぎている。

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押し寄せる怪獣の群体は文字通り空を覆いつくし、道路を埋め尽くさんばかりで、しかもミサイルのシャワーまで浴びせかけてくる。PS4のスペックですら処理落ちを起こす(それすらも意図した演出であるかもしれない)尋常ではないステージもあり、一体どうすれば対処できるのか途方に暮れることもあるだろう。簡単なことだ。胸の内のロボットを呼び覚ませ。

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小型怪獣の大群にはマルチロックミサイルを。一列に並んだやつらはレールガンでまとめて貫く。空を飛ぶ怪獣はEPSで地面に縫いつける。対空防衛フレアを撒いて降り注ぐミサイルを散らし、大型のデカブツはブレードによる近接格闘で叩き潰す。そのどれもが、いつの時代でもお前が思い描いていたロボット戦闘の文脈だ。つまりたとえ初めて機兵を操縦したとしても、お前はもう戦い方を熟知している。今まで目にしてきたロボット作品が血肉に廻っているからだ。

『崩壊編』はメインストーリーと比べると分量はさほどでもない。だが、『追走編』を進めれば進めるほど、ここに至るまで彼らがどれだけ苦難に満ちた道のりを歩んできたかが分かり、全く異なるモードながら、一つの物語としてめちゃくちゃ統制されている。

なにより、主人公たち全員揃っての最初の戦闘が、もう後がない最終決戦なのだ。分かるか?この胸の高鳴りが?明日に繋がる今日を守るため少年少女がロボットに乗り込み街を破壊する怪獣と戦う?最高すぎる……

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SFジュブナイル群像劇なのだ

この物語がどのように着地するのかは、是非自分の目で確かめてほしい。ただ一つ言えることは、いつの日だって人類の滅亡に立ち向かうのは年老いた科学者ではなく、若いだけが取り柄の若輩者だ。それも世界を救うなんてのは大義名分で、どいつもこいつも隣にいる好きな子のことしか考えてない、どうしようもない奴らばっかりだ。だけどそれでいいのだ。これはSFで、ジュブナイルなんだから。

『十三機兵防衛圈』は『オーディンスフィア』『朧村正』『ドラゴンズクラウン』のような今までのヴァニラウェア作品とは一線を画すとても挑戦的なゲームだが、こんなゲームはこれから先、絶対に世に出ることはないと断言できる。過去作品とはかけ離れつつも余りにもヴァニラウェアすぎる物語の締めくくりを目の当たりにして、おれは静かに涙を流したことだけが真実だ。

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(終わりです)

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