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読書感想文:『大絶滅恐竜タイムウォーズ』

!ご注意ください!
この記事は小説「大絶滅恐竜タイムウォーズ」を読み終わった直後の私の混乱状態をリプレイしています。よってその内容は支離滅裂であり、とても読めたものではありません。それでも良いという方のみ読み進めて下さい。それでは太古の地球へレッツゴー!


はい。

もう1年ほど前になります。「大進化どうぶつデスゲーム」という小説を知ったのは。

「大進化」「どうぶつ」「デスゲーム」という危険な3つのワードで構成されたこの作品は否応なく私の注目を引きました。しかし何しろデスゲームです。絶対死人が出るんじゃないか。女の子は女の子同士でキャッキャウフフしていてくれ・・・そんな思いを抱いていた私は「興味はあるがきっとノットフォーミーだろう」と判断して手をつけようとしませんでした。

そしておおよそ1年が経過します。1年経過しても私の頭からは「大進化どうぶつデスゲーム」というタイトルは消えてなくなりませんでした。そして何の気の迷いかその手に取ってしまったのです。それも年度末進行の疲れのせいでしょう。これから起こる悲劇を想像も出来ずに・・・。


第一章 大進化どうぶつデスゲーム


大進化どうぶつデスゲームは狂っています。何しろ、18人の女子高生が人類の進化の歴史を守るため800万年前の地球にタイムスリップし、人類に変わって地球の支配者となった知性ネコの根源たるネコ型原始人を殺戮する話なのです。荒唐無稽どころではありません。全てが異常です。

しかし、恐ろしいことに18人の女の子たちが持ち合わせている感情や関係性だけは異様に生々しく、愛憎入り交じった視線や仕草、行動や会話を通して、彼女たちもまた一介の人格を宿した個人なのだという説得力を持たせています。彼女らは自身に降り掛かった不条理の中、生き残るため懸命に行動します。その途中で友情を育んだり秘密を打ち明けたり新たな扉が開けてしまったり殺したいほど憎んだりしながら物語はクライマックスへと向かいます。

18人という大人数を完璧に描写しきったとは言えないながらも、そこには確かに生き生きとした人間がいました。私は18人一人一人の内面を想像し感情移入しながら、このかけがえのない関係性を大切に思いました。私が想像していたよりもずっと少ない犠牲でこの狂ったデスゲームは幕を下ろし、新たに育まれた関係性の息吹を感じながら「大進化どうぶつデスゲーム」は完結します。

しかしこれは前哨戦に過ぎなかったのです。私は間髪入れずに「大絶滅恐竜タイムウォーズ」を手に取りました。そして世界の在り方を決定的に変えてしまったのです。


第二章 大絶滅恐竜タイムウォーズ


「大絶滅恐竜タイムウォーズ」は狂っています。「大進化どうぶつデスゲーム」も狂っていましたが、かろうじて小説の体裁は守っていました。大絶滅恐竜タイムウォーズは違います。何がどう違うのか詳しく説明していきましょう。

『1917 命をかけた伝令』という映画はご存じですか?第一次世界大戦を舞台にした映画です。逆噴射先生も絶賛する傑作映画ですから、是非映画館で鑑賞してみてください。


『1917 命をかけた伝令』の主人公の1人、ウィリアム・スコフィールド、通称スコについて話しましょう。スコはフィクションの人物ですが、生き生きとしています。ここで言う「生き生きとしている」というのは、元気いっぱいにはしゃいで回るという意味ではなく、まるで現実に実在しているかのような、絶対的にリアルに感じるということです。彼には明確な使命があり、目的地に向かって進み続けます。一方で彼は時折、地獄のような戦場の中でふっと目を閉じて永遠に覚めないような、「死」を予感するような危うげな表情を何度も浮かべます。フィクションでありながら、とてつもないリアルな「生」と「死」を見出したのです。彼は課せられた役割や個人的な理由に基づいた行動を行い、状況を乗り越え、感情を変化させます。正に「生き生きとして」いました。

翻って私を見てみましょう。私は間違いなくこの現実世界に存在していますが、「生き生きとして」いません。毎日決まった時間に起き、朝食を食べ、出勤し、残業し、帰宅し、夕食を食べ、風呂に入り就寝し、また決まった時間に起きます。毎日がこのサイクルの連続です。私は課せられた役割や個人的な理由に基づいた行動を十分に行えず、状況に流され、環境に依存して感情を変化させます。つまり私は現実に生きていながら虚構の存在なのです。すると私はこの狂った状況に耐えかね、塹壕から丸腰の状態で飛び出します。すかさずドイツ軍の機関銃が雨あられと降り注ぎました。私はそれらを真正面から浴び、無惨な血潮を吹き出す脂肪の残骸と成り果てたのです。

ところが私は死んでいませんでした!脂肪の中から白い蛆のような私が次々と産まれたのです!「大絶滅恐竜タイムウォーズ」を読んだことにより、私の存在そのものの定義が書き換えられたのです。私、いや私たちは死体の中からどんどんと増殖していきます。ところが、相変わらず私には存在理由がありません。このままでは群体になることによって希釈化された自我すら失われてしまうでしょう。私たちは存在を繋ぎ止めるために目の前の問題に取り掛かり始めました。つまり、再度「大絶滅恐竜タイムウォーズ」を読み進めようというのです。


第三章 続・大絶滅恐竜タイムウォーズ


自我が希釈化したことにより、私は以前よりスムーズに読み進められるようになりました。ライブハウスのモッシュのように私たちは押し合いへし合い、相互に知性ネットワークを形成しました。時折凄まじい時空砲撃によってネットワークは何度もバラバラに四散しますが、その度に辛抱強くネットワークを再構築します。ここで一度、私のネットワーク内でどのように情報が流れているのか覗いてみましょう。

窓の外を見てください。正面に地球が見えますね?そして視界を窓の隅の方へ向けてください。そこには水星があります。しかしよく見ると、それは私たちが知っている水星とは少し形状が異なります。星の中心に巨大なトンネルができているのです。トンネルは太陽の方向を向いています。まるでデス・スターですね。彗星のすぐ近くの宙域にはジオン軍攻略の為、連邦軍が極秘に開発したソーラーシステムも見えます。ソーラーシステムの中心には巨大なワニが鎮座しています。連邦軍の新兵器でしょうか。とにかく地球にピンチが迫っているのは確かです。あっ見てください。たった今地球から戦艦が飛び立ちました。地球防衛軍でしょうか。戦艦は巨大なアンキロサウルスの姿をしています。というかアンキロサウルスそのものです。アンキロサウルスの背中にはミカと早紀が乗っています。かわいいですね。水星の方にはティラノサウルスが向かっています。水星の穴はとても狭く、ハン・ソロが操縦するミレニアムファルコンのようにスリリングなシーンが続きます。もちろんワニとのドッグファイトもあります。穴はどんどん狭くなっていき、ティラノサウルス1匹がどうにか通れる程の小ささにまでなりますが、ハン・ソロのベテランの操縦テクニックで危機を切り抜けます。ワニはデス・スターを道連れに大爆発!やったね!

こんな風に、目にした文章を類似した記憶に置き換えながら読み進めていきます。知性ネットワークの力です。途中処理能力を超えてオーバーフローしてもネットワークをめげずに再構築し、深層ウェブから情報を引き出して演算処理続けます。モッシュはどんどん激しくなり、海馬に眠るフィクションの記憶がどんどん発掘されます。私たちは一つに溶け合い、あるいは再度分裂を続けます。過去と現在と未来の記憶が同時に混在し、「大絶滅恐竜タイムウォーズ」を核として巨大な渦が形成されつつありました。

そして、無数の私たちが惑星直列のように一直線に立ち並んだ瞬間、私の無数の記憶が「大絶滅恐竜タイムウォーズ」へと流れ込みました。次々機械を取り込む人工知能搭載介護ベッド、ユニクロンの体内で生きたまま溶かされるオートボット、炎上する基地に照らされるチャイルズの横顔、「雨の中の涙のように」と言って息絶えたルトガー・ハウアー、概念宇宙で対峙するグレンラガンとアンチスパイラル、泣き喚くコメディアン、「チクショー!」と叫ぶライアン・ゴズリング、ハマモトさんの「一生許さないから!」が響き渡り、そのほかにも、私が今まで目にしてきた無数のSFが、「大絶滅恐竜タイムウォーズ」によって結び付けられました。

そして私の体は再構成されます。始めに循環器、次に骨格。白いぶよぶよしたウジのような物体は本来あるべき姿を思い出し、分解した時計を正確な位置に戻すように、私は徐々に人の姿を取り戻します。

こうして私は新たな私にーー言うなればazitarou 2.0にーー生まれ変わったのです。


第四章 大進化どうぶつデスゲーム(強くてニューゲーム)

普通の女子高生がある日突然、原始時代にタイムスリップして人類の命運を賭けてデスゲームするというぶっ飛んだ小説。それでも「大絶滅恐竜タイムウォーズ」に比べると遥かに物語しているのだ・・・。ヒト宇宙がネコ宇宙に侵略されたことで改ざんされた現代から過去に渡るまでは未来からやってきたアニメキャラ臭い性格のAIがご都合主義的にお膳立てしてくれるので(ツッコミどころ満載ながらも)スムーズ。

そんなストーリーよりも特筆しべきは異常に偏ったSFワード、古代気候、生物知識、そして18人もいる3年A組の個性付けと内面描写、濃密な関係性だ。女子高生が1クラス分、18人もいるとそれはもうグループ分けやヒエラルキーなんかが大変なのである。陰キャと陽キャ、ぼっちや取り巻き、体育会系に生徒会グループもある。そんな冷戦状態だった彼女たちが、800万年前のサバンナという過酷な環境に飛ばされることによって生まれた、派閥の垣根を越えた絆、友情、その他何にも比喩しがたい感情の揺らぎ・・・。「青春ハード百合SF群像劇」と自称するにふさわしい関係性がそこにある。


第五章 大絶滅恐竜タイムウォーズ 2週目始めました。


「大進化どうぶつデスゲーム」の続編・・・と呼ぶにはあまりに変化球過ぎる。むしろ前編・後編構成だったと考える方が自然。いや内容は全く自然ではないが。「どうデス」で注力されていた少女たちの内面描写は見るも無残に消滅し、物語を進めるコマのように扱われる姿は、「どうデス」であれだけ関係性関係性と頷いていた自分が滅多刺しされるようで本当につらい。中盤に差し掛かる頃には、見知っていたはずの少女たちも同じ名前を名乗っているだけの別の何かに変貌し、事態が全く収拾に向かう様子が無いことに胸が締め付けられる(私はまずここで発狂した)。

しかしそれすらも「どうデス」を踏まえたうえでの計算づくであったのだ。明かされる「大進化どうぶつデスゲーム」の正体。時間とは。宇宙とは。進化とは。絶滅とは。死とは。完膚なきまでに破壊された物語すらメタにし、虚構のキャラクターとそれに紡がれる関係性を、現実の世界から覗き込む我々に、「大絶滅恐竜タイムウォーズ」は投げかける。「どうせ創り物だから」と笑っていた創作上のキャラクターの方が、現実の我々よりも生きる理由があり、進むべき道があり、「内面を想像して、感情移入」できるほどの人間的な豊かさを持っているということを。



(終わりです)

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