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漫画『進撃の巨人』を読んでただ打ちひしがれている

ああ、また来てくれたんだな……。へへっ、そんな顔すんなって……ここに来てくれたってことは続きを聞きに来たんだろ?俺が漫画『進撃の巨人』を読んで打ちのめされた話をよ。

あれは俺がまだ小便臭いガキだった頃だ。進撃の巨人シーズン1のアニメを偶然にも観て、そのあまりにも血なまぐさい展開に途中でリタイヤしちまったんだ。今振り返るととあの時は続きを観なくて本当に良かったと思うよ……。そうだ。あの時は血にまみれながらも壁の向こうには自由があるって信じてたんだ。だから友人と一緒にリアル脱出ゲームに参加してマントを羽織り「心臓を捧げろ!」なんて真似をしてたし、いつか巨人どもを全員駆逐してハッピーエンド……そんな未来を夢見てたんだ。

そう、夢だったんだ。現実はどうだ?壁の向こうには何があった?見渡す限りの大海原?氷の大地?燃える川?自由?希望?ははは……俺は何も知らなかった。何も知らなかったんだ。とんだおめでた野郎だ。壁の向こうにはな、地獄があったんだ。そう、地獄しかない。この世は入れ子の地獄だ。

ダークファンタジー化け物討伐物語は中盤以降すっかりなりを潜め、巨人すら巻き込んだノンフィクション人類戦争史が展開される。「人類の最大の敵は人間」というわかりきっている常識に上塗りされてゆく、秘匿された血みどろの歴史。壁どころか海も大地も血で染まってるんだ。

お前は信じていたものが丸ごと嘘だったことがあるか?目の前のやつが、ひとつ前の巻まで言ってることと真逆のことをやってる。でも言ってることは矛盾していない。言ってる意味が分からない?そりゃそうだ。俺だって理解出来てない。でもこいつは「初めて会った頃から俺は変わっていない」と言う。なあ、俺は何を見てたんだ?俺はあいつを信じてたんじゃなくて、俺がが信じたいあいつを信じていたのか?

あいつは巨人を駆逐する勇者でも革命軍のエースでもなく、悪魔の力を宿したテロリストだ。自由への戦いはテロ行為となり、罪のない人々を巻き込み怒りと憎悪の螺旋が延々と続いてゆく。戦争をおっぱじめる奴らは人の心がない。当然だ。奴らは人間じゃないから。ついに辿り着いた砂浜ではしゃぐにはあまりにも多くのことを知りすぎた。その両手も海も砂の一粒一粒に至るまでドス黒い血で汚れきっている。

あいつがミカサとアルミンと3人ではしゃいでいた頃がひどく懐かしい。でも、もうあの頃には戻れない。俺は歩き始めてしまった。知ってしまった。手を汚してしまった。敵が無垢の巨人だけだったらどんなに気が楽だったことか。海の向こうに思いを馳せるところで終わればどんなに幸せだったか。だが、この始末は俺たちがつけないといけないんだ。いや、俺は何もできない。見届けることしか出来ないんだ。この戦争を。

なあ、俺が今までやってきたことは正しかったのか?何も知らずにいた方が幸せだったのか?期間限定無料配信という看板にまんまと引っかかった俺が悪いのか?なあ、誰か教えてくれよ!おい!いるんだろ!ここから出してくれ!頼む!ここまで来たんだ、俺は最後まで見届けなければならないんだ!誰か!助けてくれ!誰か!


壁が破壊された独房の床には、地面にこびりついた大量の血痕と一枚の紙切れが落ちている。紙には「芋盗み食いしてド叱られてた頃はめちゃくちゃ楽しかったよな 今はただただつらい 作者には人の心がない ライナーは安らかな余生を迎えてほしい もしくは早く楽にしてやってほしい ガビとファルコには強く生きてほしい 未来が真っ暗だっていい 繋いだ手は離すな」という文が残されていた。すすり泣くような風の音が壁の割れ目から漏れた。


(終わりです)

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