【読書メモ】発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術|借金玉 著

ブロガーかつ当事者本ということで発売当初からかなり気になっていたんですが、ようやく読めたので感想とまとめを残しておきます。

どんな本?

仕事術というタイトルだが、実際には仕事にとどまらず生活面・考え方の面も包括したかなり実用的・実践的なライフハック本だ。

それも、発達障害ないし、それに類する症状で困っている人に特化してチューニングされている珍しいライフハック本。

語り口がやや独特なため、苦手な人は苦手かもしれないが、書かれていることは非情かつ明日からでも使える現実的なものばかり。(ただ優しい言葉が欲しい人にはおすすめしない)

精神論やふわふわとした「周りに助けを求めましょう」「健康に気をつけましょう」みたいになりがちな発達障害関連の本において、「ではその状態に持っていくにはどうしたらいいか?」という具体的なところまで踏み込んだ稀有な一冊だと思う。

以前読んだ「発達障害の自分の育て方」もかなり踏み込んだ対処法が載っていたが、個人的にはこちらの方がさらに細かいと感じる。
現役(?)のADHDの人が書いただけあり、意思が弱くとも、やる気がわかなくとも、すぐにでも実践できそうなのが良い。

発達障害向けの「現実というクソゲーをなんとか死なずにやり過ごすための攻略本」的側面が強い。
雰囲気としては公式の「あとは君の目で確かめてくれ!」な攻略本ではなく、いちプレイヤーが「とにかく躓かないよう丁寧に書いた攻略本」といった様相だ。

著者の人の失敗談がこれでもかというくらい掲載されているので(それもかなりわかりやすく状況と原因の説明がある)、理路整然とした説明だとすっきり脳に入って来やすいタイプの発達障害の人にはとりわけおすすめできる。

また、著者と同じ「不注意性の高いADHD」傾向の人は、重点的に対策が記されていることもあり、こちらの方にもぜひ一読をおすすめしたい。

発達障害に限らず、昔ながらの現実生きづらい系ネット民などに親和性の高い本だと思う。

食える人になるかどうかはわからないけど、生存スキルは間違いなく上がるはずだ。(タイトルはまず目に留めてもらうために付けてるんだろうし、多少の内容との乖離は仕方ないと思っておく)

とにかくこの世のルールに対する命名がうまい

「茶番センサー」「部族の掟」に代表される、この世をとりまく暗黙のルールに対する概念付けや命名が非常にうまいので、「なんとなくそういうもん」として回っているルール(≒我々が素でわからなくて怒られるやつ)を体系的に理解できるのが良い。

発達障害の本でも、ここまでぶっちゃけて説明してくれている本はなかなかない。

小学生くらいだとまだちょっと理解しづらいかもしれないが、中高生くらいで世の中に対する「茶番センサー」が働き始めるころに読んでおくと世間様というクソゲーに対する免疫がある程度つくれるかもしれない。

というか中高生くらいの時にこの本と出会いたかった。

社会の見えないルールに合わせようね、ということはよく言われても、どう合わせればいいか・どの程度合わせればいいかという点が一番当事者的には困る。そして多くの本や医師、支援者はこれに対して具合の良い回答を伝えてくれないことがほとんどだ。

その点この本は、著者自身をロールモデルとしてそこに切り込んでくれているので、あとは自分の特性や障害の程度、性格などにあわせて調節していけば相当生きやすい環境を作ることができる。

著者の失敗談がわりとダメなので安心する

こんなことを言うと著者に失礼かもしれないが、一般的に見て結構「さすがにそこまでは…」という失敗談をふんだんに掲載しているので、「そんな状態からでもなんとかなる道があるんだな」という逆説的な希望の持ち方ができる。

うつ状態からの回復の方法にしても、我々が自分で自覚しにくい「どこまでの状態になったらヤバイのか?」というのを(あくまで著者の方の基準ではあるが)示してくれているので、自分自身の基準作りの参考として読むには非常に役立った。

発達障害が一番理解しづらい「共感の大事さ」「共感の作法」の説明がある

本の中でもこの部分はとりわけ有用で、なぜ定型発達の人が共感を喜び、大事にしているのか?という理由や、それを真似る際のやり方が逐一細かく記されている。

発達障害やその症状で悩む当事者にとって一番ほしかった説明って、正直これなのではないだろうか?

「部族の掟」や「感謝という通貨」など、これらの説明は筆者ブログでも読むことができるが、本書のほうが編集によって整理されているためより理解しやすくなっている。

「普通にできないからこそ発達障害なのだ」「自分がスティーブ・ジョブズではないことに気がつくのが大事」

上記は、読んでいて非常に心に残ったフレーズ。

一見すると対極にありそうな内容だが、いわゆる特化した才能を持たない「ふつうの発達障害」の人において特にこの2つは並立する。

本書はこの、ままならない矛盾や現実をいかに対処していくか?という点に絞って記述されており、それが本のテーマでもある「生存」にも繋がっている。

自分のような発達グレーゾーンからすると、著者の症状はやや重めで「私はそこまでしなくてもなんとかなるな」と思う点もあるが、十二分に参考になる部分はあったし、精神論としても非常に共感できた。

(生き抜くためには「こんなことはくだらない」と考えてしまう茶番センサーを止めるべき、との論には最初「ただでさえ辛いのにこれ以上世間に合わせろってことかよ」とムカッとしたものの、主張としてはそのとおりだと思うし、折り合いの付け方は人それぞれなので必ずしも筆者と同じようにやる必要はないと考えれば納得がいった)

発達障害当事者として「今現在困っていること」がある人に薦めたい本を挙げろと言われたら、本書は真っ先に候補としたいです。そのぐらい良書でした。


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