【読書メモ】飼い殺しさせないための支援|高原浩 著

障害の支援者側の人が著者の本。

「飼い殺し」というやや過激なタイトルに目を引かれたので、支援する側の考えていることや課題が知りたくて読んでみた。

発達・知的系の支援(現在は就労移行支援?)を長年行ってきた方が著者のようだ。

どんな本?

筆者が就労移行支援などを行っていくなかで出会ってきた事例と、どうやって社会適応をするために本人と二人三脚したか、の紹介がメイン。

・発達障害や知的障害の人の就労支援環境の現状・支援者側がどういう行き詰まり感を持つか、本人と齟齬を起こしやすい場面など・福祉施設や生活保護での「飼い殺し」ではなく、社会の一員として「自立」するために真に必要なこと

などが書かれており、タイトルに偽りのない良書と感じた。

本書で扱う事例は比較的障害程度の重い人が多いが、それを差し置いても良質な支援者の考えを当事者が把握しておくのは参考になる事が多いように思う。

良質な支援に出会うのは大変だ、ということ

本書を読んで痛感したのは、質が良く本人を本当に成長させるような支援者や支援体制に出会うのは困難だということだった。

というのも、私が以前に通っていた施設で行われていた対応が、読めば読むほど「悪い例」として挙げられていることだったからだ。

その施設が悪いわけではないし、当たり障りのない対応だったと思う。

が、本書は「それでは問題の本質的な解決にはならない。自立し、飼い殺し環境を脱することは難しい」と鋭く指摘している。

はたして、そんなふうに「痛み」のある支援を行える支援者がどれだけいるだろうか…と思ってしまった。

それと同時に、道筋やガイドさえ間違えなければ、いわゆる一般ルートからはずれた形であっても、何らかの社会参画ができるという希望も抱かせてくれた。

発達障害は、本人に問題があるというよりは、「社会」やそれとの繋がり方に障害があるから障害なのだとも言われているという言葉を思い出し、やはりその通りではないだろうかと強く感じた。

扱われている事例は障害程度が重いが、解決に至るまでの思考と手段が参考にできるところも多いため、自立したいが諸々の制度の利用対象に入らなくて困っているグレーゾーンの当事者の人は是非読んでみてほしい。

支援者側からの本のため、どうしても「指導的目線」での記述(ともすれば上から目線)に見える箇所もあるが、そこで食わず嫌いを起こすのはもったいない。

参考になった具体例

私が個人的にハッとさせられた、その通りだ。と思った本書掲載の例を挙げておく。

・「理解してもらう」のではなく「理解し合う」のが大事

理解してもらうというとなんだか施しを受けるような意味合いが含まれるが、理解し合うというのはお互いが対等に尊重しあわなければ起き得ない。

・性格と障害特性は100%割り切って考えられるものではない

これは性格なのか?障害特性なのか?(=配慮すべきなのか否か)を100%割り切って考えたり、応対するのではなく、性格でもあるし障害特性でもあると考えて「真にその人の事情に合った」きめ細やかな対応が必要。

つまり、障害特性という一般論でなあなあに付き合いを行うだけでは双方にとって不幸であり、もっと泥臭くバカ正直に相手と向き合わないことには自立したり、させたりすることはできない。

・決意表明だけさせて「がんばれ」はオオカミ少年にさせてしまう悪手

決意した目標を達成させるのが本当の支援であり、多くの支援者はこれができていないという。過程への支援が足りていないと著者は語る。

「就職したい」「がんばりたい」というような決意表明を、ただ「がんばれ」というだけで具体的に補助の手を差し伸べない(きれいな表現をすれば「見守る」)のでは、目標を宣言しても達成できないし、それを繰り返し支援者側も「本当にやる気あるの?」といずれ思うようになってしまう。そういう悪循環があるのだという。

これは非常によく分かる話だ。だって「がんばるぞ!!」って発破かけてなんとかなるならそれはべつに困りごとでもなんでもないし、支援してくれとお願いするまでもないよね?となるのは必然だ。

・技術を学んでも実際の場に出ないことには自立にはつながらない

これも耳の痛い話だが、A型事業所で働き出してみて非常によく分かると感じた。

障害があっても十人並みに…と思うとやはり「技術を身に着けて一発逆転」という思考になりがちだ。けれどそれでは自立につながらない。

技術を身に着けても、それを活かす方法は実際に仕事をしてみないとわからない事が多い。ましてや、仕事をしながらの生活リズムの維持の仕方や、同僚・上司とうまくやっていく方法はその場に飛び込まないことには絶対に獲得できない能力だ。

「誰にもぐうの音も出ないほどの技術を持てば、認められるはず」という幻想は、程々のところでやめておいたほうが身のためなのだなと改めて痛感した。

「現場」から逃げ続けて、知識人になったところで、活かす方法が身についていないのでは宝の持ち腐れだ。ましてや、一芸に秀でているならともかく、「そこそこ」の能力しか持ち合わせていない自覚があるならなおのこと現場適応の能力を磨いたほうが収入に直結すると思う。

悲しいが、それが現実なのだ。技術向上は、仕事をしながらでも間に合う。ある程度技術があるのなら、とにかくそれを活かせる場を探すのに執心したほうがいいのかもしれない。


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