感謝を伝えたい相手がどこで何やってるのか全然わからない

感謝というか「お前のおかげで人生ちょっと分岐した気がするぜ」的なニュアンスの報告をしたい。向こうはもう何を言ったか覚えていなければこの歳になってわたしの存在を思い出すこともないだろうしわたしだって最後に見かけたのがいつだったかなんて覚えていません。

中学で不登校になった頃学校の代わりになんとかギリギリ通っていた公文の教室でたまたま会った時、わたしの顔を見るなりわーっと近付いて「生きてる!よかったー!ちょっと腕上げて!」と両腕の袖を容赦なく捲ってきた。そして「うん、切ってないな。綺麗でよかった!」と心底ほっとした様子で袖を元に戻してくれた。彼女をSと呼びます。
Sはその瞬間わたしがリストカットをしていないかと確認をしてくれました。傷ひとつついていないわたしの腕をさすり、「痛くて傷付くことはしないでほしい。あんたはそれをやらないと信じてる。無理して学校来んでも元気やったらそれでいいんやから。」と付け加え、Sは自分の授業に戻っていきました。
小学校からの付き合いだったSとはそれなりに仲が良かったですが性格的な面で衝突することも多く、定期的に不仲になるというか子ども特有の仲直りに至るまでの微妙な空気ができてしまうみたいなことがよくありました。しかし大体同じ道を通過してお互いオタクのマインドを育てながら成長し、衝突の機会は確実に数を減らしていました。ただこれは「共通のオタク趣味を持った結果わかり合うことが多くなったから衝突が減った」のではなく、根本的にSは陽キャでわたしは陰キャだということが6年生になって結構はっきり判明したからです。
自分が根本陰キャなことには普通に気付いていましたしSが自分よりはるかに陽気なこともわかっていました。決定的にこれだ!という出来事があったわけではないですがとにかくわたしは「S、たぶん生きる世界が違う…こいつは中学に上がっても当たり前に適応して当たり前に知らないコミュニティに所属できるポテンシャルがある…わたしにはそれがない…」と確信していました。実際当たっていたのでSは勉強!部活!ダチ!青春!みたいな生活を手にし、一方のわたしは普通に鬱で中学生活を途中下車、市外の山奥にある精神病院で泣きながら死にたいと訴えては薬を貰う日々で家からほとんど出なくなりました。
自分目線ですがこういう経緯があったので学年トップクラスの陽キャに進化したSの脳内にまだわたしのことを考える容量が残されていたなんて全く想定していなかったわけです。勝手に記憶から消えているだろうと思い込んでいただけで、わたしが突然気を病んで学校に来なくなったことをSはずっと心配してくれていたようでした。
Sがあの時見つけてくれなければ、話しかけてくれなければ、今頃わたしの手首はズタボロだったでしょう。そうなっても自分以外の誰かが嫌な思いをすることはないだろうと軽んじていたからです。そんな自暴自棄な考えをSは改めさせてくれました。
「自分を傷付けないでほしい」「そんなことはやらないと信じている」
冒頭でも書きましたが2024年現在、Sはこの出来事を覚えてはいないでしょう。Sと過ごした時間はもはや遠い昔の思い出でしかありません。それでもわたしは確かにあの時彼女の言葉に救われて、彼女が信じてくれた自分を裏切ることはしないと誓いました。誓いが破られたことはありません。Sのおかげでわたしの手首は今もずっと綺麗なままです。
このことをもう何年も本人に直接伝えたいと思っていますが本人の連絡先も知らなければ今どこで何をしているのかもわかりません。彼女の今を知っている共通の知り合いもいません。というか中学を序盤で諦めたわたしにはそもそも地元に友達が2人ぐらいしかいません。ツテが全くない。
かと言って実際コンタクトが可能になったとしてうまくこの件の感謝を伝えられる自信もありません。陰キャなので。まあそうなったらこのnoteを丸投げして読んでもらえばいいだけなのかもしれませんね。

Sが今も誰かを想う優しい人間のまま元気に過ごしていますように。簡単に解けない魔法をかけてくれてありがとう。守ってるし守られてるよ。

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