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ギラヴァンツ北九州と私とアビスパ福岡の10年間〜2014.9.6本城陸上競技場から2023.11.4国立競技場まで~

2023年11月4日・ルヴァンカップ決勝アビスパ福岡対浦和レッズ(国立競技場)

8分という長いアディショナルタイム。
私を取り囲むこの紺色の集団の人達の中には、人生の中で最も長い8分に感じた人も多いのだろう。
長い笛の音を待たずして、その人たちは既に涙を流していた。

メインスタンド北側上層。
私の近くに座っていた一人の男性。
最初はプレーに対する拍手のみだったのに、試合が進むにつれてどんどんチャントやコールの声が大きくなり、胸の前の手拍子が頭の上になっていく。
きっとこの人はサポーター界隈でいう所の退役軍人なのだろう。
元々ゴール裏で声を張り、腕を振り上げ、跳んでいたはずの人だ(勝手な予想)

壮観

そんな人達に囲まれ、私も試合終了前から涙が止まらなくなっていた。
完全に周りの雰囲気に流されている気もしたが、
今季のアビスパ福岡のストーリーを一人のサッカーファンとして楽しんでいた私としては、単に周りに共感しただけの涙ではなかったんだとこの時は思った。

あの日、本城陸上競技場。

2014年9月6日。
私はJ2第30節ギラヴァンツ北九州対アビスパ福岡の試合のため本城陸上競技場にいた。
2013年のプレシーズンマッチからギラヴァンツ北九州を応援しにスタジアムに通うようになっていた私にとって、アビスパ福岡との一戦はただの一戦とは違う。
福岡ダービーといえば北九州サポーターにとって特別なものであり、福岡といえば絶対に勝ちたい相手であった。
「他の試合は全部負けてもいいから、アビスパにだけは勝ちたい」
そういう人もいた。
「ほかの試合は全部負けてもええ。巨人にだけは勝たんとあかん」
という阪神ファンマインドである。
まあ実際そうなっても阪神は降格しないが、ギラヴァンツは降格するのだが。(そうならなくても降格しました)


そしてこの年、アウェーのレベスタ(当時)では冨士祐樹のゴールで0-1の勝利を収めていた上、ギラヴァンツ自体も8試合負けなしと好調を維持していた。
さすが天皇杯ベスト8、リーグ戦最終順位5位だっただけはあると今でも波に乗っていたあの頃の感覚をうっすらと思い出せる。
この日もミスター北九州こと池元友樹と内藤洋平がゴールをあげ、2-0で前半を終えていた。

ハーフタイムの私は浮かれていた。
何しろ前半我慢して我慢して持ちこたえ、後半少ないチャンスからカウンターで得点して勝つといういわゆる堅守速攻が北九州のスタイルと言われていた頃である。
前半で2点も取れば大丈夫やろうと。
このままガッチリと守り切るやろうと。

しかし、2-0は危険なスコアなのだった。

後半開始間もなく堤俊輔(覚えてませんすいません)に得点されたのを皮切りに、城後寿、金森健志、酒井宣福、平井将生と立て続けに5点をアビスパに決められてしまう。
5失点もするともう何が起こっているのか理解出来なくなるのだが、試合終了間際に池元友樹が1点返し、エースの意地を見た私は感極まったからなのか何なのか今となってはよく分からないが、とにかく涙が止まらなくなっていた。
同じく周囲のみんなも泣いていた。

木々に囲まれた公園内のスタジアムは、夏の終わりの夜独特の匂いと湿度と、通常の敗戦とは違う空気に覆われていた。あの記憶はこの先もずっと残り続けるのだろう。

アビスパ福岡のダービー相手はギラヴァンツ北九州ではない

その後、15年にアビスパはJ1昇格を決めたが、いわゆる5年周期を発動して17年には再びJ2に戻っていた。
その年のギラヴァンツは、歴史を刻んできた本城陸上競技場から小倉駅近くに完成した素晴らしい球技専用スタジアムのミクスタに本拠地を移していた。
J1を見据えて建設された小倉駅近くの新スタジアムで、さあアビスパとの福岡ダービー再び!となるはずが、何故か(何故なんでしょう)降格したJ3の地で苦戦していた。

その時既に、私の中のアビスパに対するライバル心は失われていた。

一部ギラサポが「アビスパまた降格!いい気味!」と喜んでいるのを
「アビは降格してJ2やけど、ギラは降格してJ3やん」
と冷めた目で見ている自分がいた。

そもそもダービーって何なのか。
双方がダービーと認識していて初めて成立するものであり、どちらか片方だけがダービーと思っているものは本当の意味でのダービーではない。
福岡ダービーと思っているのはギラヴァンツ側だけで、アビスパにとってのダービー相手は鳥栖なのだ。
北九州との対戦は同県内にあるチームではあるが他の九州ダービー(バトル・オブ・九州)と変わらないのだ。
相思相愛(相思相嫌?)、他のJ1サポ達も認める福岡と鳥栖のダービー。残念ながら北九州が割って入る隙はない。
そもそもダービー相手と思われていたらJ3最下位、JFL降格危機を心配されたりしない。

「また福岡ダービーしたいですね!」

というセリフはおおよそ社交辞令もしくは心身共にすり減らすガチダービーではなく、商業的な意味のダービーをシンプルに興行として楽しもうとしているだけのものである。


20年に北九州がJ2に復帰し、ミクスタでの開幕戦の相手に福岡を迎えた時、
やっぱアビサポ人数も圧もすごいわ~とシンプルに感心したし、試合でも点差以上に力の差を感じた。
ベススタでのアウェー戦では更なるレベルの差を見せつけられた。
同じカテゴリーに戻ったらかつてのライバル心も戻るかも、と思ったりもしたが、全くそんなことはなかった。あるのはただ試合に負けて残念という気持ちだけだった。
私の中では、アビスパ福岡は他の九州のチームと変わらない存在になっていた。

ポップかつ街の個性も表現されたデザインが良すぎる
このくらい常に黄色に染まって欲しい
この試合通常開催出来てて良かったとつくづく

街の活気や規模としてはどんどん福岡に差をつけられていく北九州だが、
サッカーだけは福岡と肩を並べる、更に追い越せる日がいつか来るかもと夢見ていたこともあった。
その気持ちすらいつしか私の中からは失われたように思う。
気付けばもうアビスパの勝敗も順位も気にすることもなくなっていった。

アビスパ福岡と私・リターンズ

コロナ禍の21年、仕事でアビスパ福岡の渡大生選手(23年は徳島ヴォルティス)にオンラインでインタビューする機会をいただいた。


私が初めてインタビューしたプロスポーツ選手がギラヴァンツ北九州時代の渡選手。そのため渡選手は思い入れのある選手の一人である。
これをきっかけに何度かアビスパの取材を担当したのだが、
仕事で接したことをきっかけに、そこで頑張っている色んな方々の姿に触れ、話を聞き、自然と「情がわく」状態になっていった。
いつしか私は勝手にライバル視していた頃とは全く別の視点でアビスパを気にしていた。
勝てば嬉しいし負ければ残念。
何とかJ1に残留できた時は心から安堵した。
もうこれは気にするというレベルではなく、応援しているのではなかろうか。
ふとそう思ったりもした。

2023年。
J1連続3年目の今年のアビスパはシーズン当初からとても面白いチームだった。
まず試合が見ていて面白い。
アビスパってこんな面白い試合するチームやったっけ?(失礼)と思うくらい90分間楽しませてくれる。
選手達のキャラもたっていたし、逆境を全員で乗り越えていく様を見ていてこれはビッグウェーブに乗る年かもと思わせるものがあった。
間違いなく今年はアビスパがタイトルを捕る千載一遇のチャンスだと多くの人と同じく私も期待していた。

一番盛り上がる終了間際の劇的追加点
チアグランパスさんも来場してた
凌我と共に国立へ

残念ながら天皇杯は準決勝敗退だったが、
可能性としてはルヴァン杯優勝の方があるんじゃないかと根拠なく思っていた。
「何でもいいからなるはやで国立競技場でサッカーの試合を見たい。とりあえず来年の鯱の大祭典国立であるかなー」
などとざっくりと考えていた私は、まさかの大舞台今季のルヴァン杯決勝を国立競技場で観戦することとなった。

2023年12月

今季のJリーグが終了した。
私は約一ケ月前の国立競技場のことを今でも時々ぼんやり考える。
試合終了後、ピッチに伏したまま立ち上がれずに泣く奈良竜樹を思い出しただけでもぐっとくる。

国立競技場でアビサポ達と共に泣き、心を揺さぶられた私だが、
もしかしたら、やはり私が流した涙と他のアビサポ達が流した涙の質は根本の部分が違ったのではなかろうか。
そりゃ長年のアビサポとは違うやろ、というのではなく、歴の短いアビサポの涙とも違ったんじゃないかと。

もし私が去年の天皇杯決勝の場にいたとしたら、甲府の優勝に対して確実に感動して涙を流していただろうし、この仮定の涙の方に質としては近いんじゃなかろうか。
もちろんルヴァン杯のアビスパ優勝は、甲府の天皇杯優勝より思い入れがあったのは間違いないのだが・・・
そんな考えても答えを出しても何の意味もないことを時々ぼんやり考える。

サカマガは買ったが、サカダイは見かけないまま現在に至る
クラファン参加しました

タイトルを捕り、「俺たちが福岡」と誇り高く歌うアビスパ福岡と同県内で、ギラヴァンツ北九州はぶっちぎりのJ3最下位でシーズンを終えた。
他力本願が成就し、J3に残留することも決まった。
この他力本願という事実に関しては、プレー以外の部分でも色々と背負わされ過ぎた感のある岡田優希選手のコメントを忘れてはいけない。

Jリーグを取り巻く環境の変化はここ数年加速を増しているように思う。
岡山の社長の言っていたことが現実に起こっているのを実感している人も多いだろう。


「ギラヴァンツ北九州はこのままでいいのでしょうか?」
問いかけた17年のホーム最終戦、八角剛史選手の引退セレモニーでの発言。
6年後、更に状況が悪化するとは思いもしなかったあの日。
(動画の2分くらい)



9年前、本城でアビスパに逆転負けを喫して大泣きした私は、アビスパに対して何の感情も持てなくなる未来など想像していなかったが、「博多へ帰ろう」を国立で聞きながら感動の涙を流す未来などもっと想像してなかった。
更にはギラヴァンツ北九州がJ3に(2度も)降格する未来も、そのJ3で(2度も)最下位になる未来も。

多分私は、9年前のあの頃のように、「俺たちが福岡」と歌うアビスパに対して、ずっと、一方的なライバル心を持っていたかったのだと思う。
正確には、一方的であれライバル心を持っていられる両者の立ち位置であって欲しいと思っていたのだ。

もうアビスパに対して余程のことがない限り9年前のような気持ちに戻ることはないだろう。
だが、両者の立ち位置の差が高い位置で再び縮まることを心の中で願っている。


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