見えてくる事。
更新に時間がかかっていますが、
お読み頂きリアクションをくださる方々に感謝です。
1話と2話も加筆したので
再度続けて読んで頂けると嬉しいです。
【見えてくる事】
―第3話―
アサカさんの話を聞いてはじめて"菌"に着目した。
俺の中では菌と言えばばい菌とか食中毒菌とかネガティブなイメージでしかなかったけど
醤油や味噌、甘酒や納豆、ヨーグルト、ビールにパンにチーズにキノコに・・・
"菌"は生活に欠かせない存在で、医学や薬学の発展にも重要な役割があるらしい。
菌は地球上のどこにでも存在していて、人間と共生し良くも悪くも人間が菌を生存・繁殖させる環境を作っているのだと。
つまり、散らかった部屋を作りあげて悪さをする菌が喜んで繁殖する環境を作りあげたのは・・・
まぎれもない俺自身ですと。
増殖するのは菌だけでなく部屋の中の汚れた空間が長期間に及ぶと"邪気"を生み出し
そうじをしていると何故か眠くなったり
、体がだるくなり途中で絶望感におそわれ投げ出してしまうのだそうだ。
まさしく俺の事だった。
これは不浄な気を覚えてしまったその空間が清浄化されるのを嫌がり、
今のままの汚れた空間として固定させるために邪魔をして起こる・・・
俺のお部屋は邪気菌の楽園で創始者は俺♪
古い衣類や古い手紙や人形、ホコリは出逢いを妨げる・・・・・
えぇ、古着とフィギュア収集にはまり、元カノからの手紙を未だに取っております。
食材を無駄にしたり古い調味料やオイルがあると貯蓄出来なくなる・・・・・
はい。冷蔵庫を開けるのがコワイデス。
古い新聞や雑誌や本、古い情報、古いメールは成長や発展を妨げ、やる気がなくなり仕事の効率が落ち仕事に関する悪影響が出やすくなる・・・・・
そうです、本棚に漫画や雑誌が入りきらなくなって床に散乱しております。
今は洗濯ポールの下に集結しております、メールも何年も消してねぇなぁ。
仕事の事はなるべく考えたくないデス。
金運は水回り・・・
ですよね~。これは有名だし。
まぁ知ってるだけ、だけど。
玄関は全ての出入口、かぁ。
部屋の主人はいつの間にか俺から菌達にすり変わっていたようだ。
菌達は何も悪くないのは分かっている。
ただ、全てを知ってしまった今の俺は、彼らと共存するという選択肢はなかった。
『アサカさん、俺 引っ越します。』
3年ほど過ごしたけたど、そういえば今の部屋に来てから俺の悩みは年を追うごとに増えていった気がするし、変なプライドは捨てて現実的に物件を選ぶ事にした。
アサカさんは分厚い手帳のような物を開き何かを調べている。しばらくしてアサカさんが小さく頷いた。
「引っ越しをするなら3か月後のこの日ですね。今年の山川さんは北西へ移動がお勧めです」
ん?また新理論か?本当アサカさんは幅広いんだなぁ。
「ちなみに前回の引っ越しはいつ頃に、方角的にはどちらへ行かれましたか?」
『えぇっと、3年前の2月に方角で言ったら北東ですね』
アサカさんは再び分厚い手帳をめくっている。
「なるほど、山川さんにとってあまりよろしくない時期に引っ越しをされていますね。今起きている現象の大きな要因の1つです。
でも安心してください。3ヶ月後方角を合わせて引っ越しすれば必ず生活環境は変わります。」
おぉ、ここまで言ってもらえると安心出来るな。
キモントンコウ?キガク?とか古来から使われてきた学問だとかなんとか言っていたが難しい事はよくわからないので、とにかく俺は3ヶ月後に北西に絞って動けば良いって事だな。
なんだか目標が出来て気分が上がってきた。
あとは引っ越し資金を3ヶ月で貯める為に無駄を減らすのみ。
アサカさんはどんどん俺の表情が変わっていくのを見ながら
「少し疑問なのですが、山川さんの今のお仕事でしたら貯蓄しようと思えば実現可能な環境なのでは?
お姉さまも旦那様が大手企業にお勤めですし、節約をしなくても十分ゆとりのある生活を送れると思うのですが、
お二人は経済的な事に関してかなりシビアな考えをお持ちのようですね。」
やはり分かる人には俺たちの歪みは不思議に見えるのだろう。
『俺が貯蓄出来ないのは無駄に高い家賃のマンション、奨学金の返済、スマホゲームの課金、レア古着やフィギュアやスニーカー収集、仕事帰りのコンビニでちょこちょこ買い、たまに行くパチンコとか、自分で言ってて恥ずかしくなる程キリがないぐらい無駄が多いんですけど・・・
最大の原因は父親、ですね。
実は毎月父親にお金を送っているんです』
やっぱりね、と合点のいった表情のアサカさん。
『毎月20日前後になると、親父から必ず連絡がくるんです。
"今月はいくらいけそう?"と。
俺は貯蓄に回せばいいものを、親父に仕送り・・・
例の月末ピンチを感じています。
姉からはもう仕送りはやめた方がいいと何度も言われたんですが、
親父は俺の仕送りが無いとやっていけないのだろうと仮定して現在も仕送りを続けています。』
今思えば
姉の節約が始まったのは母さんを病気で亡くしてからだ。
俺が小3、姉が高1の頃だ。
親父は母さんを亡くして鬱のような状態になり、仕事もほとんどしていなかった。
俺はまだ子供で、悲しみに暮れる日々だったが、
姉一人だけは現実的だった。
きっと彼女はあの日から自分が父親と弟を支えて行かなければと考えたのだろう。
バイトをいくつも掛け持っていたそうだ。
姉のスパルタ節約術は幼い俺には苦痛でしかなかったが、
姉は生活していく為に必死だったようだ。
でも学費に関しては寛大で
大学に進学したいと言った時も
「父さんが学費出すって言ってるし気にせず行きなさい」
と言っていたが、自分のお金を出すつもりだったのだろう。
その時の俺は言葉をそのまま受け取ったが、奨学金制度を使い自分で返済する選択をした。
姉は25で結婚して専業主婦になり、今でも節約生活を続けているのは
きっとまだ親父に仕送りを続けているから、なのかもしれないな。
姉はいつも俺の事を気にかけてくれていたのに、
正論を言う姉の言葉は重くてなるべく会わないようにしていた。
なんとも自分が情けない。
今日があるのも姉のお陰だし、俺は恵まれていた事にやっと気付いた。
広場で会ったじいさんが感謝が足らんと言っていたが、
今ならそれがハッキリと理解出来る。
思考がまとまらない内に身の上話をしてしまったが、
アサカさん的にはスムーズな展開のようだった。
「それぞれの自立の時がやってきたようですね。
ぜひ次のステージへステップアップしていきましょう。
邪気菌に関しては理解が深まったようでなによりです。
次は体の中に寄生する"蟲"のお話をしていきます。」
えぇ~!!菌の次は寄生虫?!
≪続く≫
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?