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閲覧注意・閲覧は自己責任です。随想馳想 『位牌映え(いはいばえ)』

『位牌映え(いはいばえ)』
そんな言葉があるのか無いのかは知らない。しかし、他に相応しい言葉も考えつかずである。いや寧ろ感じたことを素直に書かせてもらうのなら美しいのである。わたしは自分の名字を目にしてこれ程までに美しいと思える字面を見た記憶はない。「バエル」のである。してそれに言葉を当て嵌めると「位牌映え」となるのも道理と落ち着きをみる。
 位牌にして美しいと感じられる名前というのも色々考えさせられるのである。

我が実弟は「黒檀」を好んだ。
日本料理の板前職人だった実弟は包丁だけで20本以上を持っていた。上は一本50万円以上の刀のような包丁から下でも一本3万以上はする小出刃まで。
 1年半ほど前になるだろうか。実母が他界してほどのなくのこと。
「包丁を売りたいので智恵はないか」という相談を受けた。インターネットで中古の包丁を買い取る業者を探してみたところ、数件の表示をみつけたわたしは片っ端から電話をかけ、実弟から聞いた売りに出す包丁の仕様を説明した。
 相手は流石包丁を扱う専門家である。「どこかの日本料理の料理長クラスの方の包丁ですね。是非うちで買い取らせてください」という専門店をみつけることが出来た。
 日本の和包丁は外国人の調理師に人気がある。どうやら買い取った包丁はそういう人達の手に渡ってゆくであろうことは容易に想像できた。

買い取り業者は電話の翌日には実弟宅まで鑑定買い取りに出向いたようであり、実弟からの連絡では全部で6本、総額300,000円ほどで買い取ってもらうことが出来たという話しを聞くことが出来た。
中古の包丁6本で30万円ほどでの買い取りである。需給ということもあろうがどれほど良い包丁であったかは想像に難くない。
本鉅(ほんはがね)、黒檀柄、銀巻の金口、象牙の留め具……
わたしも実物を何度か目にしているが、芸術作品のような包丁たちであり、「使わんのだろうな、きっと。飾っておくのだろうな」と思ったものだ。
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 今回、お位牌を創って頂くににあたって材質を悩むことは無かった。
 黒檀一択。飾りなし。彫文字だけは金彩。
お陰で思った通りの美しい黒檀のお位牌に仕上げて頂くことが出来た。
シンプルであり、粋であり、質実剛健。兎に角重量感があり浮ついたところのないお位牌に仕上げて頂くことが出来た。

 徒しごとではあるが、わたしの家系には幾柱かの水子さんがおられるので、これを契機に水子さんのお位牌も創ってもらい仏壇におさめることとした。水子さんはこの世の明るさを目にせぬままに都合抱えし者たちの思いによって野辺送りになっているわけであるからして、可能な限り煌びやかに賑々しくしてやりたかったので金箔張りのものを選んだ。

何の因果かこうして仏様のお守をさせていただくようになり感じられることだが、やっと……自分の思うようなお弔いであり向き合い方が出来るようになったことに感慨深いものを感じるのである。
人間の体というものはご先祖様から授かった血肉(DNA)で仕上がっている。しかし、精神はそうとばかりは言えない。
血族の最後を見送ったものとして精々我が精神を感じることが出来るようなお守、ご供養になれば良いと思える今日この頃だ。

さて、あとは5月のお墓への納骨をもってお役目は仕上がる。
最後まで丁寧に。神も仏も細部に宿ること忘れずに。

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