[SS4]エージェント・セブン!

この小説は二次創作です。SCP財団本家様ならびに日本支部様へのリンクは最下部に明記してあります。


注意:Twitterにて連載していたジョークSS(ほぼ会話劇)です。

【登場人物】マオ・差前・餅つき・厚木・速水・なごむ・カナヘビ・大和

また、A.カナヘビは耐傷性質があった旧設定を前提に書いています。

1ツイートごとに☆マークで区切ってあります。そのうち地の文とか追加してちゃんとしたTaleにする…かも。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 真っ暗闇で目が覚めた。体も縛られている。
『お目覚めかね』
くぐもった声のアナウンスと共に突如真上からのスポットライト。
『驚かせて済まない。しかしこれも財団の今後のためだ』
どこぞの吸血鬼アニメの少佐みたいな声でそいつは言った。
『第1回、財団日本支部抜き打ちテストの始まりだ!』
     ☆
「抜き打ちテスト?何だそりゃ」
『エージェント諸君の日々の頑張りは私も実に嬉しく思っている。しかし君たちは現場に慣れ過ぎた』
「初心忘るるべからずってか?そのためにこんな茶番を?」
『そうとも言うがね。まぁなんだ、要するに、』
忌々しいアナウンスはにべもなく告げた。
『我々にも娯楽が要るのだよ』
     ☆
「ふざけんじゃねぇぞオイ」
隣から声がした。そしてスポットライト。
「何だこの演出。早くほどけ、ぶん殴りに行ってやる糞大和」
「差前くんか」
「よーマオ、久々だな。引きこもったまま死んだかと思ってたぜ」
「まさかこんな所で再会するとは。というかお前が捕まるとは」
「いや予定通りだって」
「嘘つけ」
     ☆
反対側から「ぎにゃー!」と少女の可愛くない声がした。当たる照明。
「何これ?!何で縛られてんの…このっ、もう!」
怪力を誇る彼女でも拘束具ははほどけないようだ。
「違うシチュなら喜んで見てたけどこれは笑えないな…」
「ガキが縛られてんの見て何が楽しいのお前」
「それはまた追々な」
     ☆
そして次々と目を覚まし照明に照らされるエージェント仲間たち、総勢7名。
「なんなんスかこれ、勘弁してくれよ」
バイク狂が情けない声をあげる。
「縛られて動けないとかほんと…あっやばい禁断症状出る、ウッ」
「先輩吐かないでくださいよ、誰も笑わないし」
「ウケ狙ってないよなごむちゃん…」
     ☆
「私でも破れないとはこの縄、どういう作りなんでしょうかね」
ベイダー卿みたいな呼吸音をさせながら対爆スーツの男がパイプ椅子を軋ませる。
「カナヘビさん大丈夫ですか?」
「いや…これ…酸素足りひん…ほんまあかん、あかんで」
密封されたビンに入れられて小動物が喘ぐ。
「空気穴くらい開けてぇな」
     ☆
『さて、全員起きたようだ』
人の神経を逆なでする声のアナウンス。
『君たちは国内で活躍するエージェント████名を得意分野ごとにタイプ分けした中から、優秀な被験者として選ばれた。この度のテストは、結果がまとめられ次第財団本部にも報告される。日本代表としてせいぜい頑張ってくれたまえよ』
     ☆
「冗談じゃねぇ、俺はさっさとこんな所出るぜ」
差前が言いながら立ち上がる。
「え?お前どうやってほどいたの」
「こんなん大得意」
中年男のVサインなど誰も望んでない。
『第1テストクリア。被験者Aに10点』
「やっぱコレも試験のうちか。そんで加算式かよ、何か貰えんの?」
『それはお楽しみだな』
     ☆
「とりあえず速水ほどいてやらねーと、アイツ死ぬぞ」
「了解。おらガキ、しっかりしろよ」
「アリガトウゴザイマス…」
「差前クンこれも開けたって」
「お前はなんか面白いからそのままで良いんじゃね」
「あとで覚えとれよホンマ…」
「動物虐待だよさっしー、可哀想」
「だー分かってるって、ジョークだジョーク!」
     ☆
全員が解放されるとようやく部屋全体の照明がついた。
「…何だこりゃ」
彼らのいた小部屋に繋がるT字路。道に沿って天井についているレールには移動式モニターがつけられ、現在地を含む地図を映し出していた。
「迷路…ですね」
「全体図映してたら意味なくね?」
そう言った瞬間、ぶつりと画面が揺れ、地図は消えてしまった。
     ☆
「どうやって行く?」
「任せてください」
と新米エージェントが胸を叩く。
「全部暗記しましたから」
「わぁ、噂には聞いてたけど凄いね、那澤弟の記憶力」
「連携プレーですよ。皆さん得意分野で力を合わせるんです。なんでこんなことになったか分からないけど、早いとこ大和さんぶっ殺しに行きましょう」
     ☆
新米の彼を先頭に迷路を進む。よくもまあこんな施設を作ったものだ。
「この角を右に…あれっ」那澤がふいに立ち止まった。
「なんでしょう?岩?」
通路をふさぐ障害物は天井にまで届きそうな大きさだ。
「これは…ドリルでもないと」
「私がなんとかしましょう」厚木が前へ進み出る。
「下がって。…砕きます」
     ☆
「すげー。厚木さんすげー」
同じフィールドエージェントでも色んなのがいるなと思い知る。
「お前はこういうのじゃてんで使えなさそうだなマオ」
「失礼な!」とは言うものの反論できない。
『被験者Gに10点』
「さあ行きましょう。おやつのバナナ食べ忘れちゃったんですよね。腹減りました」
呼吸音。
     ☆
「こっちです」
なおも進むと、今度は…レーシングカー?
「AE86だ」
「おい見ろ、床が断絶してるぞ」
「これは…もしかして」
「飛べってことちゃいますのん?」
カナヘビが飄々と言って、全員を見回す。
「さあ、次に試されてるのは誰やろね?」
…そして5人と1匹が、ライダースーツの男を見た。
     ☆
「いやいやいや」と青年は脂汗を浮かべて後ずさる。
「俺バイク乗りですし!!」
「普通免許は」
「持ってますけど」
「じゃあ乗れるじゃん?」
「無理!」
「お前なら行けるって速水」
「ていうかこの面子でこの状況は確実にご指名されてるよはやみん!」
「ファイトですよ速水くん」
「先輩!」
「だー畜生!」
     ☆
「乗れ!」腹を決めたのか強引に運転席の扉を開ける。
「向こうまで何メートルだ…?わかんねぇ…しかも落ちたらどうなる?」
ハンドルを握りしめ、着地点を睨みながらぶつぶつと呟く速水を尻目に席の取り合いが始まる。
「普通レディは助手席でしょ、何考えてんの」
「待てよ男4人後ろに詰めろってのか」
     ☆
結局厚木が餅月を抱え助手席に座り、残りは後部座席になんとか乗り込んだ。
「さー7人分の命がかかっとんでー速水」
差前の肩に乗ったカナヘビが深刻さの欠片もない声で言う。
「やめてくださいほんとに、やっぱバイクとは違いますって!」
「大丈夫だって、自分の勘を信じなよ」「ファイト―いっぱーつ」
     ☆
エンジン音。そしてゆっくりとバックする。助走をつけようという魂胆らしい。
「それじゃ、いいですね皆さん」
「死んだらお前のせいな」
「まぁ逝くときは一緒だね!」
「ようきばりやー」
「勘弁してくださいほんとに!」 
そして車体は勢いよく宙を飛んだ。
     ☆
「いやーひやひやしたね!」
「せやなぁ」
「まぁでも信じてたよ俺は。一瞬駄目かなって思ったけど」
「先輩大丈夫ですか?」
「もう嫌だ…でも少し走れたから気分良くなった…複雑な気分…」
「お前も大変だな速水」
「お疲れ様です速水くん」
AE86を乗り捨てて、エージェントたちは再び迷路を進みだす。
     ☆
「今度は何だ?」
「射撃場…ですね」
「あ、モニターが」
天井のレールを伝ってついて来たモニターに指示が映し出される。
『銃を持って1分以内に20体全ての急所へ命中させよ』
ゴゥン、と音が響き床からせりあがってきたのは、ライフルの並んだ長机。
「誰がやる?」そう言い終わる前に、紅一点が進み出た。
     ☆
「ふぅーー…っ」餅月は額の汗を拭った。
一寸の狂いもなく命中した的からは煙が未だ昇っている。がしゃんと空になった獲物を足元に捨て置くと、立ち尽くす男性陣へと振り向いた。
「ここ出たら、なんかおごってね!」
『被験者C、10点追加』
     ☆
そして一行は奥へと進む。
「今のところ、1人1つずつ課題が与えられている…ということは、残るは俺と、カナヘビさんだけかな」
「せやねぇ。何が待っとるか分からへんけど、まぁ死ぬことはないやろし」
「さっき俺のときに一か八かだった気がするんスけど…」
「あれたぶん床の穴は錯覚やで」
「…え?」
     ☆
肩を落とす速水をなだめながら辿りついたのは、扉の前だった。
「なんだこれ…パスワードが要るのか?」財団のICカードをかざしてみるも効果はない。
「あ、見てください、またモニターが」
『これから映る問題を解きなさい。全問クリアすることでパスワードが開示されます』
映し出される文字。
「なるほどな」『…ちなみに、』
     ☆
『ちなみに、被験者Dが課題の真相に気がついてしまったため、これより追加ミッションを与えます』
「は?」
「被験者Dって…速水か?」
ざわつくメンバーの前に、床からせりあがってきたのは…ランニングマシーン。
『走ることで時間を稼いでください』
「えっ?いや待って」
『それでは問題、』
     ☆
『【侵略少女!きゃとる&みゅー】より、主人公きゃとるが作中でキャトられた回数は、』
「28回!」
『で・す・が…そのうち、6回は船の上で起こっています。このとき船の居た海洋の名前を全て答えなさい。走って!』
     ☆
結果的に頭脳戦の得意なマオ中心となり、残りの9問も含め解答することができた。
『おめでとうございます。パスワードは、【Search、Punch、Conquer】です』
「なんだそりゃ」
「いいから早く開けろって」
「やばい…もう体力やばい」
「若いんや、しっかりせぇよ」
「あ、開いた」
   ☆
開くとそこは、部屋だった。そして中央にはパイプ椅子が一脚。
「これは…?」
『よく来た大隊諸君』あのねっとり声のアナウンスが響いた。
『君たちに敬意を』
「もう何も突っ込まないぞ俺は。…で、今度こそ出られるんだろうな?」
マオが声を大きくすると、マイクの向こうでフッと笑い声が漏れた。
     ☆
『もちろんだとも。…だが全員出られるとは、誰も言っていないね』
なにを、と言いかけて彼は気が付いた。パイプ椅子の上、新聞で無造作に包まれた何かを。
つかつかと差前が歩み寄り、制止する声も聞かずに包みを外す。
「…包丁か」
『それが最後のミッションだ』
声が言った。
『何をすべきか分かるね?』
     ☆
「ええよ」カナヘビが軽い口調で言った。
「ただボクの血で成功するかは、ちょっと分からへんなぁ」
「だがお前だけだ、そういうことなんだろ」意味が分からない。
「何する気だお前ら」
「つまりな、こうするんだ」
差前は当たり前のような顔をしてカナヘビをつまみ上げ、慣れた手つきで腹部を切断した。
     ☆
「おい――……っ!!?」
視界がぐるりと回り、叫ぶ自分の声が遠くなった。
有り得ない方向からの重力に引っ張られ、淘汰され、
…そして誰かに肩を掴まれたような気がした。
「びっくりさせてしもたなぁ、すまん。でも無事帰れそうやね。あとで会おな」
誰かはそう言って、マオの身体を突き飛ばした。
     ☆
「……ずいぶん陳腐な夢を見た」
「そうだろうね」
背中に冷たい床の感触を感じた。目を開けると、でっぷりと太った男が自分を見下ろしている。黒い白衣から肉の厚い手が伸びた。
「さぁ立ちたまえ、ご苦労だったな。…君たち臨時プロジェクトチームによって、『任務』は無事完遂された」
周囲には、気絶したように横たわって眠る他のメンバーの姿があった。
     ☆


【報告書】SCP-XXX-JPの封じ込め作戦"抜き打ちテスト"は無事に完了。臨時の特別チームは全員無傷で帰還しました。各人にはレポートを提出させ、精神鑑定と最終健康チェックを行ったのち通常任務へ戻します。本作戦終了後のSCP-XXX-JPの実験はレベル4以上の承認を得てください
   

     ☆

レポートを提出しにサイト-81██を訪れた。
事務室から出ると、空中浮遊する水槽が廊下で待っていた。
「や、マオクン」
こちらに近づいてきた水槽の中には、元気に動き回るニホンカナヘビがいる。
「その後調子は?」
「まずまずです。…貴方が傷に耐性があることをすっかり忘れていましたよ」
     ☆
「…気付いていたんですか?」
「いや。けど大和クンが教えへんのやったら、なんや理由があんねやろってな」
オブジェクト沈静化に必要な7人のうち、3人以上が自らの置かれる立場に気づくことは活性化条件の1つだったらしい。
そして「テスト」をこなせなければ…こちらには戻って来られなかったはずだという。
     ☆
「『テスト』自体は、さして難しくなかったように思いますが」
「だからこそ、『奴』にとっては『出来て当たり前』なんや。出来んかったら要らん子っちゅーことやな」
カナヘビはくるりと目を動かした。
「ボクらが成功せんかったら、今頃また民間人が巻き込まれて、『テスト』させられるとこやった」
     ☆
「あのオブジェクトを鎮静化させるには『テスト』を全員で合格する必要があった。しかし『テスト』内容は来訪者のレベルに合わせて出題される。なぜ今まで成功者がでなかったのでしょう?」
「そりゃ、一般人がいきなりあんなところに放られてみ?混乱して正しい判断も出来なくなるやろ」
「なるほど…」
     ☆
「財団職員、それこそエージェント辺りで、肝っ玉が据わってんのがチームに欲しかったんやろ博士連中は。しかもあのオブジェクトは、各分野の優秀な人間が揃わんと人間側からの介入をさせてくれへんかったらしい」
「…つまり」
「光栄に思っとき。君は選ばれて、任務を無事完遂したんや」
     ☆
「久々にこんな大活劇をしました」
「君はデスクワークが多いやろうしなぁ。まぁ、ゆっくり休み」
「はい。…それと」
「ん?」
「あのとき、俺に話しかけましたよね?」
「…ああ、」ボーイソプラノの声がからからと笑った。
「そうかもしれへん。それじゃ、またな」
     ☆
普段は共に仕事をすることなど滅多にないメンバーで、1つの有事を乗り越えた。夢のような時間だったと思う。
だが現実だ。紛れもない、我々の傍にある不可思議。
もう会わない者もいるかもしれない。
しかし立場は違えど、皆が1つの目的の為に歩み続けるのだろう。
確保、収容、保護。SCP。
 
 
END
  

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【-CREDITS-】

この二次創作小説は、「クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0」に準拠しています。

SCP財団非公式翻訳Wiki http://scpjapan.wiki.fc2.com/

SCP財団日本支部 http://ja.scp-wiki.net/

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