[SS5]殺し屋さんの最期

 

この小説は二次創作です。SCP財団本家様ならびに日本支部様へのリンクは最下部に明記してあります。

注意:エージェント・差前と串間保育士の義兄妹設定(この世界線ではなく並行世界での関係?)を含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

これ:http://nico.ms/sm25781040

 

の動画のラストが速水視点エンドな演出だったので、差前視点エンドを(少し別設定突っ込みつつ)作ってみた。なのであくまでifというか。セルフ二次創作。動画うp主様には頭が上がりません。

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……ああ、
ああ、死ぬのか。
混濁する意識の中、彼は頭の片隅でぼんやりと考えた。
静かだ。自分の身体が『それ』に浸蝕されていく音以外は。
 
 
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「お兄ちゃん」
「兄ちゃん、やっと会えた」
 
扉の向こうで、妹たちが呼んでいた。
「あ……ぁ、ああ、」
押さえきれない懐かしさと、愛情と悔恨と恐怖と悲嘆と、何もかもがない交ぜになって堪らず扉を開けた。
「結局お前らんとこに……帰って来ちまったのか、俺は」
呟いて、両腕を広げて俺は、笑った。
そこでゆらめく美しい朱に。
「おいで」
 
妹たちの華奢な、花弁のような手が俺へと伸びる。胸元に触れた温かなそれを俺は抱きとめて、抱きしめた。
最後に見たときから彼女たちの容姿が変わっていないこと、ここが何処であるかなんてこと、全てどうでもいい。
ただ頬を撫でる様に滑るその朱が愛しい――懐かしい晩夏のような匂いが鼻を掠めていく。
2人の実妹たちはくすくすと陽炎みたいに笑って、混ざり合いひとつになると、俺の耳元で息を吐いた。
「むかえにきたの――にいさま」
舌足らずなその声を聴いて俺は思わず目を剥く。
これは、なんだ、いったい『誰』だ――

――雪の降る朝。

晴れ着を纏う小さな姿。泣き腫らした赤い目。

『……にいさま!』

ああ、そうだ紛れもなく。
これは俺の、『妹』だ。
 
血は繋がっていなくとも、自分を兄と呼び慕った幼い笑顔を、覚えている。
 
「こんな、とこまで来て……さみしかったの、か?」
急に身体の力が抜けていくのを感じながら俺はがくりと膝をつく。そのまま冷たい床へ、仰向けに倒れ込んだ――『妹』を抱いたままで。
「――そうか、」
『妹』がそっと、頬をすり寄せてくるのを感じた。頭を撫でてやろうとしたが、腕が上手く持ち上げられない。頼む、動いてくれ。もう少し、もう、あとちょっとなんだ。
「いいよ、わかった――いっしょにいこう」
まやかしでも構わないと思った。
愛してやりたいと心の底から望んだ。
ついぞ遂げられなかったことを今更になって、為そうとした。

(……待て)

(それは、)

(何時の……何処での記憶だ?)


 
……我ながら酷い死に方をするものだ。
こんなところでわけの分からない実験につき合わされて、孤独に果てようとしている。


(……だめだ、)

(おもいだせな、い)

 
「……だいじょうぶよ、にいさま」
おもいだしてもらえなくてもいいの、と耳元の『妹』が囁く。

「わたしたちはずっと、どんなせかいでも、あなたのおそばにいますから」

その言葉へ応えようと向けた微笑みは己でも分かる程に弱々しかった。視界はおぼろげで、耳は『妹』たちの声と――それに混じって、微かに虫の羽音のようなものが聴こえるだけだ。
身体が酷く熱い。燃えるような、それでいて柔らかな布団に包まれているような。恐ろしい感覚なのに、安心して全てを受け入れてしまっている自分がいる。
ここで終わりなのだとなんとなく分かっていた。最期に見られるのはどんなものかと期待して、現れた己の未練の象徴を諦めと共に抱きしめて。けれどやっぱりこの生の尽きるのが、少し、口惜しい。
 
――もしも、
 
もしも違う人生を、歩んでいたなら……いや、「もしも」なんて都合の良いものは存在しない。
別の世界にも俺と同じ名前、同じ容姿のやつがいたとして、そいつと俺が同一人物なわけでもないのだ。
 
(おまえたちにであえないじんせいなんて。そんなものは、かなしすぎるじゃないか)

もはや指先を動かすことすら出来ず、記憶の中の残滓でしかない『少女』の影は徐々に霞み、震えるのは喉ではなく唇ばかりで――それでも俺は。
『それ』を、撫でてやりたいとただただ、願った。
 
 
 
死を畏怖するには遅すぎて、過ちを後悔するのも諦めた。
抱いた一抹の期待も泡のように潰え、俺はここで消えてなくなる。
――けれど願わくは、
 
 
----
 
 
 
 
かすむ視界の中伸ばした手は虚空を切って胸の上に落ち、
 
 
そして彼の眼は何も映さなくなった。



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【-CREDITS-】

この二次創作小説は、「クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0」に準拠しています。

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Agents "Class D" http://ja.scp-wiki.net/azuki0912-agentdclass

エージェント・差前の人事ファイル http://ja.scp-wiki.net/agent-sashimae-s-personnal-file

串間保育士の人事ファイル http://ja.scp-wiki.net/azuki0912-s-personnal-file


 

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