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「誓います。」
結婚式で永遠の愛と呼んでいる何かを誓いながら、僕は後ろで見守る人たちの出会いの日のことを思い返していた。
新郎側、新婦側共に、親族と5組のカップルと一人の男性というゲスト構成。結婚式には子供のころからの友人などを呼ぶことが多いと聞くが、僕らのゲストは彼ら以外に考えられなかった。

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君との出会いは21歳の晩夏。熱を含むが少し涼しい風が吹く夜だった。
僕は友人と「ええ出会いが待ってるで」(略してEDM)というふざけた名前だがとても好きなクラブにいた。
ここはDJが思い思いのEDMを流すというEDM専門のクラブだ。フロアには気持ちいいEDMを目当てに多くの人が集まっていた。
そんなダンスフロアにあるカウンターで、一人で何かを飲む女性を見つけた。
「何飲んでるの?」
寂しげな後ろ姿に声をかけた。
そして、振り返った女性に息を飲んだ。サラサラの長い黒髪、切れ長の目、タイトな服装でスタイルの良さが際立っていた。場所が場所だけによく見えないが、たぶん薄めの化粧、幼く見えた。16歳ぐらいだろうか。一目惚れだった。
クラブに合うような服装を無理やり着てみた少し幼い日本人形。そんなイメージだった。
「お水だよー。」
少し舌ったらずのかわいい声で君は返した。その声が乱反射し、僕の世界を覆った。恋に落ちたのだ。

こういう場があまり好きではないこと、友人に連れられて来たが馴染めず楽しめないこと。それでずっとここで水を飲んでいることを話してくれた。
「一緒に外に出ようか。」
「いいよー。」
心の中でガッツポーズを決めながら、友人に黙って二人で店を出た。
「私、行きたいところがあるんだけどー・・・いい?」
ちょっとモジモジしながら提案する君。もしかしてチャンス?なんて都合のいい方向に考える僕。頭の中はお花畑だった。

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EDMを出て線路沿いの暗い路地を進む。どんどん人気がなくなってくるが、手を握ってみてもいいのかな、なんて甘い妄想を抱いていた。電車の音が心地よく響く。僕の心を応援してくれているように感じた。
暗い夜道をしばらく歩いていると、君の足が止まった。
「LR・・・?」
線路下に怪しく光る文字だけの看板、中の見えない1枚の扉。怪しい。怪しすぎる。かわいい女の子が突然僕を誘った。その時点で気づくべきだった。
そんな美味しい展開あるわけないと。ああ、もしかして人生おしまいかも。
そんなことを考えていると、君はかわいい声で僕に言った。
「行くよ」
君が扉を開いた。

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「いらっしゃい。」
中に入ると、そこは落ち着いた雰囲気のカフェだった。ただ、白く強い照明が少し目に痛かった。カウンターには店主らしき落ち着いた雰囲気の男性が一人。他には5組のカップル。遅い時間だし、こんな暗い路地にある怪しい店になぜこんなに人がいるのか不思議だった。
店内を見回していると、その店主らしき男性が話しかけてきた。
「こんにちは。お嬢さんは以前お友達と来てくれましたね。また来てくれてありがとう。お兄さんは初めまして。どうぞお座りください。ご注文は何になさいますか?」
2人がけのテーブル席についた。
「私、紅茶ー。」
君の声を「かわいいな」と思いながら、紅茶とコーヒーどちらにしようか悩んでいた。この店にはメニューがその2種類しかない。
そして、値段設定がおかしい。コーヒー160円、紅茶1,200円。怪しい。なんだこの価格設定は。疑問に思ったので、素直に聞いてみることにした。
「すみません。紅茶ってどんなのが出てくるんですか?少し高いな、と思うんですが。」
「その日の気分で選んだものです。今日はT社のアッサムにT社のダージリンファーストフラッシュを少し加えて苦味をたしています。」
なるほど。こだわりの紅茶か。2019年現在ダージリンは世界的に価格が高くなっているので、この値段にも納得だった。
そして、恐る恐る安すぎるコーヒーについても聞いてみた。
「ちなみに、コーヒーは・・・?」
「ああ、裏口を出たところの自販機で80円で売ってる缶コーヒーを買ってきますよ。」
おい。ぼったくりはコーヒーの方だったのか。
「僕も紅茶ください。」

**********

心を優しく包み込んでくれるような、あたたかい香りとともに紅茶が運ばれてきた。
「紅茶でございます。」
音もなくテーブルに紅茶が置かれる。優雅な姿がかっこいい。

「お嬢さんは、もう考えてきましたか?」
「いえ、これから彼と紅茶を飲みながら考えます。」
「そうですか。頑張ってくださいね。」
何の話だろう?疑問に思いながら君と男性の方を交互に見ていると、店主が僕に衝撃的なことを伝えてきた。
「お兄さん、当店では 私が作ったLoveRhythmという曲に歌詞を付けて歌っていただきます。ふたりの声で、ふたりの恋の鼓動を聴かせてください。ここにいるみなさんがふたりの気持ちの証人です。これが全体の楽譜です。そしてこちらがお嬢さんのパートの楽譜、そしてこちらがお兄さんのパートの楽譜です。」
え。無理。どんな無茶振りだよ。作詞なんてしたことないし、歌も苦手だ。
でも、君は僕を見て太陽のようにキラキラ輝く笑顔をこちらに向けている。
「がんばろうね。」
「ちょっと難しくない?出来るの?」
君に尋ねた。出来なさそうだからやりたくない。やらない理由を君に求めてみたが、見事に打ち崩された。
「出来るよ。私に出来るんだから、君にも出来る!」
「うん・・・。」
考えていたことがバレていたようだ。ここまで来てしまったのだから、やるしかない。

**********

「出来た・・・。」
うまく出来たかはわからないけれど、1時間で書き終えた。「もしかして天才じゃない?」なんて思っていたら、君も書き終えた。標準か。
まだ半分ぐらいしか飲んでいなかったすっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲んで、君は元気よく言った。
「出来ましたー!」
店主はテーブルまで来て言った。
「準備はいいですね?では、始めましょう。」

低い音を使っているため、再生する機器によっては低音が再生しきれない可能性があります。ごめんなさい。
音が流れるだけのYouTube動画です。再生ボタンを押してから先に読み進めてください。
高いピアノが「君」のパート、低いピアノが「僕」のパートです。
下にある歌詞は、「」が「君」のパート、『』が「僕」のパートです。
ふたりの気持ちを伝え合うメッセージ風の歌詞になっています。即興という設定なので、少し音の数がずれている場所があります。
「今すぐあなたに伝えたい気持ち」
「あなたは私の孤独を包んだ」
「小さな優しさとても嬉しかった」
「私はその時"ありがとう"伝えられなかった」

「私を包んだあなたの声」
「優しい太陽、優しい Love Voice」

「私は思ったよ」
「私は願ったよ」
「明日も明後日もずっと」
「あなたの声が好き」
「優しい声が」
「いつまでも聴きたい Love Voice」

『Love Rhythm』
『Love Voice』
『Fall in you』
『Cute Voice』
『あなたと出会ったその瞬間に』
『鼓動が始まる Love Rhythm』
『明日も明後日も一緒にいたい』
『生まれて初めて Love Rhythm』

「嬉しい ありがとう 明日も一緒」
「今すぐハグしたい 未来も一緒」

「私は思ったよ」
「私は願ったよ」
「明日も明後日もずっと」
「あなたの声が好き」
「優しい声が」
「いつまでも聴きたい Love Voice」

「ハートが揺れている」
『Love Rhythm』
「鼓動は止まらない」
『Love Voice』
「あふれて止まらない Love Rhythm」
『Fall in you』『Cute Voice』
「鼓動は止まらない」
『歌声絡まるこの瞬間に』
「あなたを見つめ」
『愛が生まれるよ Love Rhythm』
「未来へ響いてく Love Rhythm」
『ふたりで歩こう青い地球を』
『ふたりで歌おうLoveRhythm』

終わった瞬間、君が僕の胸に飛び込んできた。君を抱きしめた。遠くに拍手が聞こえた。声に恋した君と僕だったけれど、言葉は必要なかった。
君に初めて触れた瞬間だった。

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LoveRhythmが繋いだふたりの愛は、これからも続いていく。
この声が続く限り、歌い続けることができる。
きっと。ずっと。


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あとがき

初小説なので拙い部分があります。ごめんなさい。
また、純粋な小説ではありません。ごめんなさい。
声をテーマに、ということで「これしかない!」と張り切って書きました。
たまには小説も良いですね。

あきらとさんの企画 #同じテーマで小説を書こう 参加作品です。

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2019/10/22 追記

低音の再生が苦手なスピーカーでの再生に配慮し、音を調整したバージョンを作成しました。
音の高低、シンセサイザーが出す音の変更を行っています。


伝え合いましょう。気持ち。