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デジタル技術と人に支えられ

5カ月通った産業カウンセラー養成講座が修了しました。通学でカウンセリングの実践を学び、並行してEラーニングで座学を学びました。これからは6月の学科試験と、7月の実技試験に向けて勉強を続けていきます。
見えないのは私だけという環境で勉強したのは、大学生以来でした。視覚障害者である私が勉強する上で、大学時代から変わらず大変だなと思ったこと、あの頃から大きく変わったことをそれぞれ書いていきます。

まず、変わらず大変だったのは事前準備です。視覚障害者であっても試験を受けることはできるのか、テキストはどうなっているのか、教室まで通えるのか…。勉強を始める前にこれらの情報を調べました。産業カウンセラーは、これまで多くの視覚障碍者が学ぶための道を作ってくれています。そのおかげで、教科書は協会がテキストdaisyで提供してくれています。テキストdaisyとは紙の本をデジタル音声で読めるようにしてくれたものです。これがなければ、まず紙の教科書をボランティアさんにお願いし、音訳してもらうところから始めないといけません。音訳には数カ月単位で時間がかかるため、勉強したいタイミングでの受講は難しくなります。時期がずれるとモチベーションも下がってしまい、受講を断念していたかもしれません。それほどに「教科書が提供されている」という情報保証はとても大切なことです。
ですが、産業カウンセラーのような環境は珍しく、資格試験の勉強のためにテキストを点訳・音訳から始めている視覚障害者が私の周りにたくさんいるのが現状です。音声で読める教科書があることが事前に知れたことで、通学を決めました。
試験については、パソコン・点字・拡大文字での受験が可能です。私はパソコン受験を考えています。
そして、都内にあるいくつかの教室はどこも駅から近かったことも通うためのハードルを下げてくれました。私が通った京橋教室は、改札から一分ほどでビルのエレベーターに到着しました。通う前に歩行訓練を受けていたこともあり、数回行けばストレスなく教室までたどりつけるようになりました。まずは安全に通えること、勉強できる環境を整えることに時間とエネルギーを使いました。

実際に勉強を始めて感じたことは、改めてデジタル技術の進化に支えられているということです。パソコンの画面読み上げソフトとiPhoneのボイスオーバーを使い、見える人と同じようにEラーニングの動画視聴ができました。動画視聴後の理解度確認テストも、問題なく受けることができました。課題の提出や資料も指定のページからダウンロードし、パソコンで記入して提出しました。パソコンとiPhoneを使い分け、最適な読み上げ環境を探すことに最初は時間を使いましたが、方法を見つけられれば、見える人と同じ環境で学ぶことができました。20年前の大学時代もパソコンでレポートを書いて、インターネットを使ってはいましたが、当時より出来ることは格段に増えたと実感しました。
もう一つ、講義の最後に事業の振り返りを毎回提出する課題がありました。他の受講生は手書きで紙に書いて提出するものです。私はiPHoneにbluetoothキーボードを使って入力し、書き終わった画面を先生に見せていました。その場ですぐに文字を書いて見せることも、iPhoneがあれば問題なくできました。
パソコンとiPhoneともう一つ、勉強に欠かせない機器がありました。ブレイルセンスという点字の電子手帳のようなものです。パソコンで書いたテキストファイルをGoogleドライブを経由して、この端末に送れば即座に点字で読むことができます。夫の物なのですが、通学の時に何度か貸してもらいました。レポートを発表する授業があり、他の人は印刷した紙を読んでいましたが、私はパソコンで書いたデータをブレイルセンスに入れ、点字で読み上げました。こうして、デジタル技術を使うことで見える人と同じように勉強ができました。

私を支えてくれたのはデジタル技術だけではありません。一緒に勉強していた仲間や先生方もたくさんサポートしてくれました。カウンセリングのグループ分けでは受講生の仲間がパット手を貸してくれて、座席まで誘導してくれました。他にもお昼を食べに行くときは手引きを快く引き受けてくれたり、メニューを読んでくれました。視覚障害者と出会うのは私が初めてという方々ばかりでした。

「こういうときはどうしたらいい?」
「何か手伝えることある?」

と声をかけてくれ、快く手を貸してくれたこと、嬉しく思っています。

まだまだ視覚障害があると「学ぶ上での大変さ」はたくさんあります。ですが、20年前、大学時代に感じた周囲の方のサポートに、当時とは比べ物にならないぐらいの大きなデジタル技術の進歩が加わり、確実にできることが増えていることを実感した5カ月になりました。

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