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清少納言、紫式部と、白居易

「ねえ、少納言。香炉峰の雪は、どうなっているかしら?」

 雪の降った日、皆でお喋りしているさなか、女主人が急にこんなことを言い出した。
 香炉峰は、海を隔てた遥か向こう、中国にある山だ。この時代、テレビがあるわけでもなし。一体どうしろと言うのか。

 しかし、少納言の方では慌てず騒がず。人に格子を上げさせ、簾を掲げて雪景色を見せる。中宮定子は「さすがね」と満足げに微笑み、同僚たちからも賞賛が送られた。

 

 『枕草子』の中でも、「春はあけぼの」「うつくしきもの」と並んで、古文の授業でよく取り上げられる場面の一つだ。

 白居易の名前と、彼の漢詩の一節「香炉峰の雪は簾を掲げて見る」という下りを、これで知った人は少なくないのではないだろうか。

 清少納言がどのような人だったのか。そして、『枕草子』の世界、中宮定子を中心とするサロンの雰囲気を最もよく伝える場面だから。長さがちょうど良い、というのもあるだろう。

 人によっては、「漢詩の知識を鼻にかけていて嫌味」だの、「出しゃばり」だのと叩く材料にもしやすい。実際、紫式部は、自身の日記の中でこれでもかとばかりにけなしている。

 その紫式部も、学者を父に持ち、漢文を読みこなせたが、周囲の目を気にして、人前では「一」という字も知らないふりをしていた。(と、自分の日記にわざわざ記している。)

 しかし、中宮彰子に頼まれて、白居易の『白氏文集』の中から「新楽府」と呼ばれる作品群を講義することになる。

 また、『源氏物語』の下敷きにあるのは、彼の代表作で、玄宗皇帝と楊貴妃のロマンスを描いた長編詩『長恨歌』だ。


 白居易。時代としては中唐、空海と同時代の人らしい。(映画でも確か共演していた)玄宗の時代に生きた、李白や杜甫よりは後の時代の人になる。

 私は、漢詩も気が向くと読んだりするが、王維が好きだ。「竹里館」など、読んでいると、目の前で筆が奔り、絵が生まれて行く過程を見るような気がする。

 白居易は…まともに読み込んだわけではないが、少し物足りない。

 なぜ、清少納言や紫式部を含め、王朝の人々はこんなに夢中になったのだろう?

 一度、一か月区切って、「漢詩」をテーマに自主勉強でもしてみようか。

 それが、またコンテンツの種になってくれることを祈ろう。

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