見出し画像

就活中に読みたかった本


 就活中に、あるいは、就活をすると決めた時に、この本に出会えていたならなあ。

 そう思えるのは、それが既に過ぎ去った事だからだ。

 蛙の腹を切り開いて、内臓の位置を確かめるように、「過去」についてなら、心構えさえちゃんと整っていれば、冷静に向き合って、分析することは不可能ではない。

 社会に出て「働く」、ということの意味は何だろう。

 お金のためもあるかもしれない。

 生きていれば、楽しいことばかりではない。つまらない仕事でも、お金を貰えるから、それなりに安定しているから、と割り切って続ける道もある。

 「好き」を仕事にすればベストだろうが、時に、それは道なきところに道を作ることでもある。そこに伴う困難を受け止められるのか、しり込みしてしまうことも多い。

 そういう時に、背中を押してくれるような本、といったら、原田マハさんの『風のマジム』だろう。

 沖縄の携帯会社の契約社員である主人公が、純沖縄産のラム酒を作る夢のため、行動していく。

 家族への思い、郷土への思い、そして夢への情熱―――それらは、吹き抜けていく風のようにさわやかで温かく、それが作品全体に満ちている。

 このような「ものづくり」の話が、私は好きだ。何かを新しく作る、そのきっかけ、プロセス、そして結果を見て行くのは心が躍る。何より、「ものづくり」に賭けるその人の情熱、強い思いに触れられるのが好きだ。

 美術コラムを書いている動機の一つは、そこにある。

 「ものづくり」系の小説で、特に好きなのが、山本兼一さんの『いっしん虎徹』。

 新選組の近藤勇が持っていた刀「虎徹」を打った刀鍛冶を描いた作品である。

 『風のマジム』が、風のように爽やかな女性の物語なら、『いっしん虎徹』は、鉄をも溶かす灼熱の炎、それに身を晒しながら鉄とひたすら向き合っていく男の物語だ。

 乱世の終焉に伴い、兜作りに見切りをつけ、刀鍛冶へと転向する主人公。

 うまく行かずに葛藤したり、ライバルからの妨害にあったり。何度も悔しさに打ちひしがれ、時には家族に手を挙げてしまう男。

 刀を打つことは、そんな己とひたすら戦う道でもあった。傲慢さを戒め、妥協せず、ひたすら鉄と向き合い続ける。

 作中で、彼が仕事について語る台詞は、今でも心に残っている。

 「(良い仕事をするにはな)なによりも、志を高く持つことだ。志を高くもち、けっして満足せぬことだ。自分をごまかさず精進すれば、いつかはそこに必ずたどりつける。それを信じることだ」(『いっしん虎徹』)

 志、そして情熱、誇り。

 それを持っているだろうか。

 それでもって、誰かのためになる事が、仕事を通してできているだろうか。

 もう一つ、最近読んだ「ものづくり」の話といえば、池井戸潤さんの『陸王』が挙げられる。

 この話は、とにかく「スカッとする!」の一言につきる。

 メインとなる「こはぜや」のメンバー、ランナーたち…登場人物たちがそれぞれに抱える悩み、葛藤、そして情熱。

 ページをめくる手が止まらない。

 熱い!

 

 情熱だけ、思うだけでは物事は動かない。

 だが、地道な作業、「面倒」と思える様々な事や壁にぶつかった時、乗り越えるための原動力は、「これが実現したい」「なしとげたい!」という熱い思いではないだろうか。

 いっそ先のことも、過去のことも、余計な雑音として頭から追いやり、集中できるだけの熱さ。

 それを思い出させてくれる本を、これからも探したい。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

買ってよかったもの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?