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新記事と、その後日譚を少し

 武将ジャパンさんに記事がアップされましたので、お知らせします。


 ついでに、記事でも書いたマクシミリアンのその後について、少し詳しく。

 仲が良かったものの、結婚生活5年目で、最愛の妻を亡くしたマクシミリアン。彼が受けた傷は、生涯消えることがなかったのは想像に難くない。

 しかし、皇帝として、今生きている者として「過去」に囚われ続けるわけにはいかない。

 政治を動かすための有効ツールとしての結婚を、再び活用することにする。

一人目の再婚候補は、フランスに取られ…

 一人目の再婚相手の候補は、アンヌ・ド・ブルターニュ、13歳。

独立国家「ブルターニュ公国」の跡取り娘。

(国の名前といい、立場といい、最初の奥さんであるマリーと立場が似ているような…)

 肖像を見ても、ふっくらとした可愛い感じの人。マクシミリアンの18歳年下。

 代理人を立てての結婚までこぎつけたものの、ここに宿敵フランスが介入。彼女は連れ去られ、フランス王と結婚させられてしまう。

 しかも、この時、それまでフランス王と「婚約」し、フランスで育てられていたマクシミリアンの娘マルグリットは、婚約破棄された上、難癖をつけてフランスに留め置かれ…後に取り戻せたものの、マクシミリアンの恨みは骨髄に。

二人目の候補はミラノ公女。結婚はできたけど…

 その3年後、神聖ローマ皇帝に即位したマクシミリアンは、再び再婚を考える。

 今度の相手は、ミラノ公の娘ビアンカ・マリア・スフォルツァ、21歳。2歳で結婚し、10歳で未亡人になった経歴の持ち主。

 うーん……絵全体のトーンが茶系のためか、地味な印象がぬぐえない。

 前から見ると、こんな感じの人。…何となくマネキンっぽい印象?服の刺繍など細部描写はリアルではあるが、何となくぎこちない。


 「身分違い」だとして、帝国諸侯は反発したが、マクシミリアンにとっては、莫大な持参金を齎してくれる相手。

 愛情よりも政治目的。当時の王侯貴族の結婚とは、本来そのようなもの。

 それでも、絆はそれなりに作ろうとしたのか、前妻マリーと同様に新妻を狩りに連れ出す。

 しかし、ビアンカのノリはイマイチだった。

 この躓きがしこりとなったのだろうか。

 言葉の壁も解消されず、さらに後にはビアンカが妊娠できない体質であることも判明。

 マクシミリアンは、彼女への関心を失くしてしまった。

 前妻マリーとの生活が幸せに満ち過ぎていたのもあった。意識していたにせよ、していなかったにせよ、心の中ではいつも目の前の若い後妻とマリーとを比べずにはいられなかったのではないだろうか。

 それによる違和感のようなものを、ビアンカも僅かでも感じたかもしれない。だが、その正体、明確な理由はわからなかっただろう。

 マクシミリアンにしてみれば、「マリーと違いすぎる!」。ビアンカの死後、彼は娘あての書簡の中で「私は二度と結婚したりしない」とまで書いている。同じ落胆を味わうのはごめんだ、と。

 しかし、ビアンカにしてみれば、ひどい話だ。

 勝手に他の女と比べられ続け、自分を見てもらえない。

 言葉の壁にしても、マリーとの時はマクシミリアンは互いに言葉を教え合うことで解決できたが、ビアンカの時は多忙さもあって、それができなかった。(狩りに連れ出したエピソードからしても、少しは「歩み寄ろう」という意思はあったらしいが)

「じゃあ、何が好きなのか」と、そのように問われることもなかっただろう。

 最終的には修復できない溝が生じ、夫はそっぽを向いた。

 また、「言葉の壁」が隔てたのは夫だけではあるまい。そのような孤独の中で、彼女は何を楽しみに生きたのだろう。

 思い出は、思い出

 二人の妻に先立たれたマクシミリアンは、その後は再婚することなく、生涯を終える。

 彼が、最後に願ったのは、「心臓を最愛の妻マリーの墓に入れてもらうこと」。

 楽しい、幸せな思い出は、時が経てば経つほど輝きを増す。

 でも、それはあくまで「思い出」、「過去」でしかない。「現在」や「未来」には取り戻すことは叶わないし、取り戻そうとしてはいけないのだろう。

 記憶を頼りに、また再現しようとしても、完全に同じものができることはない。むしろ、細かな差異が重なって、その人を深く長く傷つけることにもなるのではないか。

「こんなはずじゃなかった…」と。

 過去から学べることは多いが、完璧な再現は×。それでも、試みてしまう例は歴史には大なり小なりいくつもある。

 割り切って生きるのは、今も昔も容易ではない。

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