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歴史を描くツールとしてのGoogleトレンド:「小説家になろう」を題材に

 Googleトレンドは、単語の検索量の推移を可視化してくれるツールである。
 日本においては長きに渡り、Googleが最大手検索エンジンであり、その検索動向は社会的需要を如実に映し出す鏡と言えよう。
 そして2004年01月から現在まで連続し、同一の指標で物事を比較できるという特性は唯一無二のものであり、web上で展開した出来事を追っていく中で、これほど有効なものはない。

 以下ではその機能を見ていくとともに、歴史記述への可能性について検討していきたい。



1.「トピック」量

 Googleトレンドで入力をしていくと、「検索キーワード」「ウェブサイト」というように、同じ語句でも異なる表示がなされる場合がある。

 この「検索キーワード」は文字通り「小説家になろう」という語句を含む検索を行った量であり、一方の「ウェブサイト」は関連語句等も交え、Google側で「小説家になろう」目的だろうと推測した検索の総量を表すものだ。
 Google側としては出来る限り後者、「トピック」と総称されるものの利用を推奨している。

可能な限り「トピック」を選択することを推奨します。「トピック」は言語に依存せず、書き方のバリエーションおよび間違いや、複数の呼び方に対応するため、より幅広くトレンドを調べることができます。

Google Japan Blog - Google トレンドを活用するための 15 のヒント

 というわけで出来ることならばトピックを使うのが望ましいのではあるのだが、「歴史」を描くという場合において、残念ながらそれは叶わない。

 語句にもよるのだが、トピックが機能するようになるのは2017年01月以降のことであり、さらに2019年01月28日~03月31日、明らかな異常値を吐き出す時期が存在している。
 トピックが間違いなく利用できると言えるのは、2019年04月01日以降に限られ、それ以前の時期を描くというのは困難を伴うものだ。


2.「 + 」検索

 実際のところ、検索キーワードとトピック量がこれほどまで食い違うというのは、なかなか珍しいことであり、このあたりは「小説家になろう」特有の事情といえる。
 小説家になろうというサイトは、読者が作品にアクセスするための「検索サイト」を複数作るという形でゾーニングを行っており、サイト総体としては「小説家になろう」でありつつも、その使用目的に応じて検索語句が分散しやすい。

特に「小説を読もう」は「小説家になろう」検索量と拮抗、「にじファン」に至っては上回っていた時期も存在する。

 ただこのように分散したままでは利用もしづらく、これら大きな語句類を1つにまとめてしまいたい。

青線は「小説家になろう + 小説を読もう + にじファン + ノクターンノベルズ + ムーンライトノベルズ」の値。目的や時期に応じて語句を選択する。

 単語と単語の間に「 + 」を挟むことにより、それらを全て加算した数値を表示してくれる。
 小説家になろうに関しては近年ほど、「なろう ○○」というような細々かつ多様な検索の増加が想定され、完全とは言い難いものの、それでも古い時期においてはある程度擬似トピックとして使えそうな数値が得られたかと思う。
 またこれらの数値はダウンロード可能であり、表計算ソフトを用いて、別の形で表現するのも有効であろう。

「にじファン」開設のタイミングで、「小説家になろう」「小説を読もう」の検索量が急激に減少した。それ以前からの二次創作目的の利用者が、一斉に検索ワードを切り替えたのだろう。


3.「 - 」検索

 小説家になろうを見る上ではあまり使わないのだが、プラスがあればマイナスもあるということで一応。

2020年までは基本的に「小説家になろう」>その他「なろう」だったのが、2021年を通じて拮抗、2022年以降は単に「なろう」と使うのが検索語句として優位に。

 Googleトレンドの基本性質として、短い単語「なろう」の検索量は、長い単語「小説家になろう」の検索量を内包している。
 目的の語句とは全く関係ない理由で検索量が急増したということもあり得ることで、「関連キーワード」などをある程度目を通して、異常値は排除していきたい。
 なろうという語に関する異常値が出ているのは2011年頃が顕著であり、その場合は期間指定をその年に設定するのも有効。

「注目」はその期間中に急上昇した語句。「人気」に切り替えると、検索ボリューム順に並び替えてくれる。

 こうした大きな検索語句を排除していくことで、ある程度は目的のものを取り出せる。

黄線は「なろう - 小説家になろう - 桜の木になろう - 家族になろうよ - 幸せになろうよ」の値。


4.その他

 期間指定の目安について。

  •  1週間以内 :1時間単位で表示

  •  8ヵ月以内 :1日単位で表示

  • 62ヵ月以内:1週間単位で表示

  •  それ以上:1ヶ月単位で表示

 ただし例外として、スマートフォン版Googleトレンドを使用した場合、画面幅が狭いことを考慮してか、1年単位で表示される(「2004 - 現在」など長期指定の場合)。


5.注意点

 まずはGoogleというサービスの限界的な話。
 ガラケーにおける検索エンジンは独自規格であったという点。

赤線は「携帯小説 + ケータイ小説 + 魔法のiらんど + 野いちご + モバスペ」の値。

 モバゲーを例にとると、2010年07月から数値が異常に跳ね上がっていき、2012年11月に最大値をとった。
 モバゲーがこの時期急に人気を高めたというわけではなく、2010年代前半期に進行したガラケーからスマホへ、というシフトの中で数値が顕在化したのだろうと思われる。
 Googleトレンドが示す2000年代日本の数値は、「PC」によるネット利用が前提であり、ガラケー向けサービスの語句を入力してもその規模を把握することは不可能だ。

 次はGoogleトレンドの機能面であり、明らかな異常値を吐く場合があるという点。

 パッと見る限りでは2005年頃に大きな盛り上がりがあったかのようであるが、そもそもその時期には作品自体が存在しておらず、異常値と言うほか無い。
 古い時期であるほどひどいものであり、特に2004年と2005年は期間指定できないように設定されていた(2023年中に追加)ことから、Google側としても信頼性が低いと認識しているのかと思われる。
 こうした異常値の見分け方としては、期間をソートしても「関連キーワード」が表示されないという点であり、それは一定の検索ボリュームがある場合まずありえない。
 検索という行動自体、1ヶ月間だけ盛り上がって、次月は急に一切検索されない、というのもまずない話であり、「連続している数値」であるか、というのもポイント。

 最後にやっぱり理解不能な問題はあるという点。

 2つの語の違いは、間に「半角スペース」が入るか否か、というもの。
 このようにある時期を境に有効な単語が変わるという例は珍しいものの、たとえば「呪術廻戦」では何も表示されず、「呪術 廻戦」だと表示される、というように変なクセはあるようだ。

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