オーストラリア戦ラスト5分のパス回しと日本の女子サッカーの厳しい現状


賛否両論が繰り広げられている

AFCアジアカップ2018グループリーグ最終戦のなでしこジャパン対オーストラリア女子代表のサッカーの試合の最後の5分の戦い方に賛否両論が起きている。

まずはアジアカップグループリーグのBグループ第2節終了時点の対戦結果を見て欲しい。

オーストラリアと日本が1勝1引き分けで勝点4で得失点差でオーストラリアが1位、日本は2位、韓国は2引き分けで勝点2の3位、ベトナムは2敗で勝点0の4位となっていた。

第3節グループ最終試合で日本が決勝トーナメントに進出する為の条件は以下の通りだ。
決勝トーナメントに進出した場合は2019フランスワールドカップ本大会への出場が決まる。

①日本勝利、または1-1以上の引分
②日本が0-0の引分で韓国が3点差以内勝利
③日本が0-0の引分で韓国が4-0勝利の場合は日本が累積イエローカードやレッドカードの数が少ないこと
④韓国引分以下

もし、日本が0-0の引分けで韓国が5-1以上の4点差勝利の場合は日本が5位決定戦に回ることになり、勝利した場合に2019フランスワールドカップ本大会への出場が決まる。

グループB最終試合組み合わせ

日本 対 オーストラリア
韓国 対 ベトナム

ベトナムの実力から韓国が勝利するのは間違いないだろうと予想されていた。日本は試合に勝利して確実にワールドカップ出場権を獲得しておきたいところ。

両チームの先発は次の通り。


日本対オーストラリアと韓国対ベトナムの試合は同時刻キックオフ。先に試合が動いたのは韓国対ベトナム。前半14分に先制ゴール。


さらに前半38分に韓国が2点目を決めた。


前半が終わって日本対オーストラリアは0対0の引分け、韓国対ベトナムは韓国が2点数先行となった。


後半が始まっても日本に点が入る気配はなかった。そんな中後半4分にゴールを決めたのはまたもや韓国。


あと1ゴール決められたら日本は不利な立場に追い込まれてしまう。日本が1ゴールを決める事ができれば最悪でも引分けでワールドカップ出場とアジアカップ決勝トーナメント進出が決まる。はやくゴールを決めたいところ。

後半18分に日本待望のゴール! 左サイドから長谷川唯のパスがゴール前に渡り、これを阪口夢穂が決めた。


阪口のゴールが決まり、引き分け以上でワールドカップ本大会出場とアジアカップ決勝トーナメント進出が決まる。すると後半28分に韓国が4点目を決める。

試合はこのまま進むかと思った後半41分、日本はオーストラリアから同点ゴールを決められてしまう。


ここである出来事が起きる

失点後の日本のキックオフで試合が再開されたが、バックラインで横パスをするだけで前には攻撃しなかった日本に対してオーストラリアの前線の選手もボールを奪いに行かないという構図になったのである。

この時点での日本とオーストラリア両者の決勝トーナメント進出とフランスワールドカップ出場権獲得条件は次の通り。

日本とオーストラリア共に1-1以上の引分

試合残り時間は4分

残り数分で無理に攻め込んで失点してワールドカップ出場権を失うのは得策ではないと両者は判断し、日本の最終ラインのパス回しに対してオーストラリアの前線の選手は追いかけなかった。

これは賢明な判断だといえる

アジアカップ決勝トーナメントを優位に進めるということよりも、ワールドカップ出場権を確保することの方がなでしこジャパンにとって大切なことだと私は考えている。

正しいとか間違っているという観点ではない

目の前にあるワールドカップ出場という権利を確実に手中に収めることを選択するのは戦うものにとっては当たり前のこと。美学を優先して出場権を失うことは現実的な選択肢にはならない。


日本の女子サッカーの知名度を上げるために

なでしこジャパンのアジアカップ優勝はサッカー専門メディアやスポーツメディアで取り上げられる程度だと考えている。かたやワールドカップ出場と試合の様子はアジアカップよりも大きく取り扱われる。サッカー専門やスポーツメディアだけじゃなくワイドショーなどのサッカーをあまり観ない層にも目に入る機会が圧倒的にワールドカップの方が多い。

アジアカップ優勝したの?

よりも

ワールドカップ出場権逃したの?

の方がライト層や普段サッカーを観ない層には印象強く残るのだ。


本当の意味のプロ選手はわずかしかいない

本当の意味でのプロの女子サッカー選手は日本にはほんのわずかしかいない。学生は勉強をしながら、社会人はクラブ斡旋の企業で働きながら、または自分で見つけた仕事をしながらプレーしている選手が殆どである。


生活環境は厳しい

働いているとはいえ、平日午後練習、または夜練習、シーズン中は土曜日曜は練習試合や公式戦が埋まってしまう為、たとえ正社員雇用だとしても生活していくには収入は厳しい。親の仕送りで生活できている選手もいる程である。


2011年ドイツW杯で優勝しても環境はまだまだ

ドイツワールドカップ決勝でアメリカとの激闘を制して優勝したなでしこジャパン。優勝後の盛り上がりは記憶に残っている人が多いはず。あれから約7年経った現在の女子サッカー環境はどうだろうか? 

変わっているとはいえ決して良いとは言えない

日本女子サッカーリーグは、プレナスなでしこリーグ1部、プレナスなでしこリーグ2部とプレナスチャレンジリーグ(EAST/WEST)の3部体制になり参加チームが増えた。毎年地域リーグからの入替戦が実施されており、女子サッカーのトップリーグを目指すチームがすこしずつだが増えてきている。

しかし、この7年でいくつかのクラブは問題が起きた。

東京電力女子サッカー部マリーゼ(東日本大震災の影響で2011年活動休止)

アギラス神戸(選手やスタッフが離脱し継続困難の為2011年度退会、その後解散)

HOYOスカラブ(2013年にリーグ入会したが最下位となりクラブ解散)

ルネサンス熊本フットボールクラブ(2015年度に地域リーグ降格後、熊本地震の影響で運営母体が解散し2017年経営移管)

コノミヤ・スペランツァ大阪高槻(資金難により2016年度経営移管)

福岡J・アンクラス(不安定経営の為退会勧告を受けて退会、2018年経営移管)


このようにまだまだ日本における女子サッカーの環境は厳しいままである。ドイツワールドカップで優勝していなかった、出場していなかった場合の日本の女子サッカーのことを想像するとゾッとする。


話をアジアカップオーストラリア戦に戻そう

試合は1対1で引き分けとなって日本とオーストラリアが2019年フランスワールドカップへの出場権を獲得。



グループBの最終結果は次の通り

日本、韓国とオーストラリアは勝点で並んだが、オーストラリアは得失点差でグループ1位でW杯出場権獲得、勝点が並んだ3チーム間のゴール獲得数で日本は韓国を1点上回りグループ2位でW杯出場権獲得、韓国はグループ3位で5位決定戦に回る事になった。

AFCによるグループステージの模様は次の通り。

のこり時間4分からのパス回しについて言及されている記事


なでしこジャパンがオーストラリアに1対1の同点にされてからのパス回しをせずに勝ちにいかないのは納得いかないという意見を結構目にした。確かに勝ってスッキリと決勝トーナメントに進出してワールドカップ出場権を得たいという気持ちも理解できる。そして、その考えは間違ってはいない。

しかし、私だったらあの場面ではワールドカップ出場権を確保できる引分け狙いを選択する。正しい間違っているという観点ではなく安全第一の現実的な選択。

ドーハの悲劇を目の当たりにした経験があるから安全第一の選択になる。ドーハでは1対0でリードしていた日本は残り時間に無理に攻撃をしてロスタイムに同点にされてしまってアメリカワールドカップ出場権をあと数秒のところで失ってしまったのである。

なでしこジャパンのオーストラリア戦でも起きないとは限らない。

オーストラリアは後半足が止まり始めていたが、一発の怖さはまだまだ残っていたし、オーストラリアはなでしこジャパンの方がスタミナが残っていて攻め込まれることを理解していたからこそ日本と同じ様にワールドカップ出場権を確保するために引き分けを狙ってきたのである。両者の目的が一致する珍しい場面である。

監督としてはアジアカップ優勝も大事だけどワールドカップ出場権獲得はさらに大事なはずだ。監督としてワールドカップ出場権を確保するのは至極当たり前である。

ひとつ注文を付けるとしたら、観客が楽しめるようなパス回しをして欲しかったということ。単調に横パスをするよりも、安全第一を心掛けながら、パス回しをしても良かった。


ここでなでしこジャパンのワールドカップ出場権獲得と引き分け狙いのパス回しにについての意見を紹介する。

元ジュビロ磐田の福西さん


北米でアイスホッケーのGKコーチをしている若林さん


ホンダロックSCサポーターのロック総統




引分け狙いの試合の実例のツイートもあった


北海道コンサドーレ札幌対ツェーゲン金沢の試合でも引分け狙いの状況があったという。


試合後に少し気持ちがささくれ立っていた私のツイート。



EURO2004のスウェーデン対デンマークの試合では試合前から両者が2対2の結果でイタリアを除外してグループステージから勝ち上がれることを理解していて、最終的に2対2になった。試合会場の両者サポーターはそれを理解して楽しんでいた。



実際の映像


ドーハの悲劇は2度と起きて欲しくない。ロスタイムにゴールを決められた後の時間が止まったように日本中が静かになったことは忘れない。


男子日本代表はなでしこみたいな引分け狙いサッカーをしたら炎上するし、そんなことはやらないという意見があったが、男子日本代表も既に引分け狙いのサッカーを2004年のアジアカップグループステージでやっているのである。知らなかったのであろうか?


そして

なでしこジャパンがいまだに冷遇されている

なでしこジャパンが冷遇されている一例が今回のアジアカップでもあったので紹介する。ヨルダンという食生活がまったく違う国での試合で長丁場のコンディショニングが大事な大会なのになでしこジャパンに専属料理人が帯同していなかったのである。

ワールドカップで優勝したことがある女子日本代表へこの待遇はいかがなものかと思う。



最後に日豪両チームの選手のツイートを紹介する。

なでしこジャパン




オーストラリア女子代表(愛称はマチルダス)




なでしこジャパンがアジアカップを戦っている期間に日本のなでしこリーグではなでしこリーグカップが1部リーグ2部リーグ共に開催されていたことも付け加えておく。

アジアカップ優勝とワールドカップ出場権獲得を目指すなでしこジャパンへの支援体制がこれでよいのだろうか?

再考と英断をお願いしたい。
              

日本のサッカーをよりよくしていくためには男子だけでなく女子も環境を整備していくべきだと私は考えている。


滝野川翼(Yasuo SUZUKI)

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

ブラインドサッカー、サッカーやスポーツを中心に綴っていきます。

2

Yasuo Suzuki

1998年プロサッカークラブを設立し取締役に。2015年東京でブラインドサッカーを始める。Glauben Freund Tokyo-GK&監督。 2019年ウォーキングサッカーを始める。WFC Tamagaea所属。なでしこリーグの下條彩選手の応援は日々の楽しみ。

女子サッカー

女子サッカー中心の話題
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。