そしてもうすぐ、世界一周が終わる。
たった45日間の世界一周。短い旅がもうすぐ終わる。
アジアを回る時間がなかった。みんなが愛してやまないタイでダイビングがしたかった。凄惨な事件が起きたカンボジアにも、日本人としてしっかり行く義務がある気がした。
中東は魅力があるってたくさん聞くし、アフリカもたくさん行きたい国がある。サファリに、キリマンジャロ、マグマもまだ見れてない。
北欧やアイスランドでオーロラを見たかったし、犬ぞりに癒されてもみたかった。ビールの風呂にもはいってないし、湖にだって浮かんでいない。
旅では追いつかないほど、世界は広かった。
旅をするのに、ずいぶん楽な時代に生きている。
指先ひとつで行き先がわかり、行き方がわかり、宿が予約できる。マップをダウンロードしておけばピンに向かって歩けばいいし、運転をしていても勝手にナビをしてくれる。
数十年前は、本を見て、ストリートの名前を覚え、人に聞きながら、なんとか辿り着いた宿に断られたりしたらしい。
だんだんと、頭を使わなくていいようになっている。便利な時代は、旅を容易にし、きっと旅から冒険を奪っている。
旅をしているのに、違うことを考えていることが増えている。
せっせとSNSの更新をしては、次のnoteの文章を考える。いいねの数を気にしては一喜一憂し、誰かの羨望になる自分を探す。
Wi-Fiをすぐに探して日本との繋がりを求めて、インターネットの世界に安心したりする。
旅をすることってそういうことなんだっけと思いながら、今も不安定なWi-Fiに「なんだよ」とあたる。なくてもいいはずなのに支配から逃れられていない。
どれだけ広い世界を見ても、この画面の先の世界に生きている自分と時代に嫌気がさす。
パタゴニアはすこし違った。
この自然と、自分だけ。そんな瞬間が続いていた。誰も助けてはくれないし、背中の荷物も全部必要なもの。生きるために、何かに辿り着くために歩く。
紙の地図と標識。見えない便利はなんのためにもならなかった。
誰かに認められるためじゃなく、自分を信じるためにたしかに旅をしていた。
ただひとりの自分にとって、パタゴニアの大自然と向き合うには大きすぎる存在だった。それでもこの五感で受け取ったものは間違いなく人生の財産になった。
でも、そんなことなんて最初から知っていた。
8年前の3月11日。ライフラインも全部なくなって生きるしかないとき、なんの役にも立たなかったものが何か僕は知っていた。
その環境に置かれないと生きる力は湧いてこない。そして、生きなきゃいけない。生きなきゃいけないのだ。
長い旅路の中で、そこには誰かの生活する誰かの日常があった。僕の非日常の旅は、彼らにとっての日常に混ざることだった。自分ひとりの世界なんてどこにもなかった。
その数だけ幸せがあった。もちろん幸せなことばかりじゃないのだろうけど、出会った人たちはみんな笑っていた。
そしてみんな、なにかと闘っている。
できなかった旅はたくさんある。
でもこの旅を選んできたからこそ出会えた景色と人がいる。どの道があったとしても、またこの道、この旅を僕は選ぶ。
そしてこの先、行く道は幾つもある。
この旅の途上で、たくさんの情景を思い返した。
この日まで、大変な人生だった。
経験しなくていいこともいっぱいあった。ここ数年泣いてないのは、ずいぶん前に涙を枯らすほど泣いたからだ。
その厄介なことの数だけ強くなれたから、ここまで旅ができた。そしてこの先もきっと、強く生きていけるはずだ。
夕日が空を染めてゆく。
明日の朝も日はまた昇る。
僕がそこにいようといまいと、世界は回る。
僕は僕の人生を生きている。
人生という旅の荒野に、ひとりで立っている。
まだその、旅路の途中だ。この世界一周は終わるけど、その旅は終わらない。
成し遂げる世界一周よりも、これからどう生きていこうかと考える。やりたいことが増えた。まだまだ旅は続くし、これからもっとおもしろくなる。
友達が作ってくれた靴は、小さな傷がたくさんついた。
ヨーロッパの石畳を踏みしめ、パタゴニアの大地を100キロ以上歩いた。ウユニ塩湖やグランドキャニオンでできた傷の数だけ、旅をしてきた証がある。
つまずくことも靴擦れもなく、この場所まで僕を運んでくれた。
ずっと履いていたジーパンは、ハワイの海で洗うと鮮やかな青色になった。手首の革のブレスレットは、世界の色を乗せて色濃くなった。
自分ひとりでは、こんな旅はできなかった。
たくさんの人に支えられて、そして大切な人のおかげで夢のような時間を過ごすことができた。
世界中どこにいたって、自分は自分だった。
価値観が変わることも人生が変わることも、どうやらなさそうだ。
それでもこの45日間を思い返して、懐かしい気分になって、また世界に出たくなるだろう。酒のつまみにして、この文章だっていつか読み返して、何言ってんだと笑うことだろう。
それでいい。そんな旅ができたんだ。そんな世界一周が、もうすぐ終わる。
日本に帰ったら、温泉に入ろう。カツカレーを食べて、キングダムの続きが読みたい。もつ鍋を食べて、そのままラーメンに行こう。友達と乾杯をして、またいつもの話で盛り上がろう。そしてまた、山を登ろう。
搭乗の時間だ。最後のフライトで、日本に帰国する。
もうすぐ、世界一周が終わる。
パッキングが得意というかスキです。